530【ケイナとみんなとの話し合い】
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昨日は更新ができませんでした。
毎日の更新を楽しみにされていた読者様には、申し訳なく思っておりますm(_ _)m
ということで、
4話連続投稿します(1話目)
今話は、長めです。
翌々日。
オレたちは出立した。
前日に、チタラ城主マーガスに挨拶をしておいたので、今後のアキタ村のことも任せられる。
最初の野営を街道脇で行なった。テントは張らないが、それなりの野営を張る。
夕食を済ませ、お茶休憩。
「みんな、聞いてくれ」とオレが口を開いた。
みんながこちらを向く。
「アキタ村では隠していたことがある」
「この状況で話をするということは」とダルトン。「彼女のこと?」とケイナに手を向ける。
うなずく。
「彼女は、オレたちと同じ世界から、こちらに転生してきた人間だ」
高校生四人が背筋を伸ばす。
「転生って、召喚じゃなくて、生まれたってこと?」
「そう。彼女はオレたちと同じ国である“日本”から転生してきた。箸が使えるのもそのおかげだ」
「なるほどねぇ」とダルトン。驚いてもいない。
しかし、ほかの面々は驚いて、何も口に出てこない。
「ダルトンは驚かないのか?」
「驚いていないわけじゃないけど、ありそうな話だなと思ってる。なんせ、すでに転生者がいるのは知ってるしさ」
そこで驚いたのは、ケイナ。
「ほかにもいるのか!」
「いるよ」とオレ。「オレが会ったのは、ほかに三人。どうも元の世界のゲーム世界がここと似たものだったらしい。そういえば、ケイナは?」
「私か。私は“ライトノベル”の世界だった」
「“ライトノベル”?」とダルトン。
「物語だよ。いろんな種類の中で、読みやすいもの」
「わかった。続けて」
「とにかく、彼女は読んでいた物語の世界と生まれた世界が似ていたんだ」
「そのタイトルは?」とキヨミ。
「『魔法と剣と恋する乙女』」
キヨミとマナミが顔を見合わせる。知らないタイトルらしい。
「“マホコイ”だぞ。有名タイトルなのに、知らない?」
ふたりがうなずく。
「やはり」とエイジ。「違う日本からの転生者ですね」とオレに言う。
オレもうなずく。ケイナに向き直る。
「ケイナ、どうやら日本は日本でも、別の世界の日本のようだ」
ケイナの眉間にシワが寄る。
「ほかの転生者もやはり同じらしく、オレたちの日本とは違うらしいんだ。エイジ、平行世界だっけ?」
「そうです。似たような世界がいくつもあって、オレたちはそのひとつから来た。ケイナさんはまた別の世界から来た、ということなんです」
エイジは地面に図を描いて説明する。
それを見ながらうなずくケイナ。
「わかった。だから細かいところは、食い違うのだな」
「そうです」
「賢いな」とエイジに向けて笑むケイナ。それからこちらを向く。「つまり、同じ世界観を持つ、と」
「そう。それでもなぜか、彼らが危惧するような事態にはなっていない。まぁ、その点は、これからなのかもしれないがね」
「危惧とは」
「ひとりを除いて、あとのふたりは“乙女ゲーム”のプレイヤーなんだが、それぞれ死ぬ未来しかなかった。だが、こちらに生まれて、状況が変わってきている。ひとりは国王の代替わり。もうひとりは別の貴族の養女になった。本来ならば、なかったシナリオらしい」
彼女がうなずく。
「それでどちらも困惑していた。未来が見えなくなったからね。オレはふたりとは似たような状況で出会った。別のひとりは、未発表のゲームのプレイヤーで、生まれたときから違っていたらしい。別に未来が悲劇ということもなく、楽しんでるよ」
「そうか。私も状況が変わっている口だろうな。戦場に出てもすぐに戻るはずだったが、あのように突然、武器防具がなくなったり、仲間割れするようなことはなかった」と意気消沈するケイナ。
みんなが、それを聞いて、あー、と小さく言う。
それに気付いたケイナ。
「何か知っているのか」
「前者は」とオレが説明をはじめる。「オレがスキルを使った結果だよ」
「スキルだと」
「そうだな。マジックバッグは知っているよな」うなずく彼女。「オレたち勇者召喚された人間は、マジックバッグの上位版のアイテムボックスというスキルを持っている」
「よくある話だな」
「そ。それでオレのアイテムボックスは、特別なものでね。この星の裏側からでもものを取り寄せられるんだ」
「待ってくれ。つまり、それで武器防具を奪ったのか」
うなずく。
「とんでもないな」
「おかげで、生活の役にも立ってるけどね。さて、問題は後者だ」
ケイナがひと息吸い、それからうなずいた。
「君の仲間が狂ったのは、この旧エルゲン国、現在のダイナーク国が麻薬を使ったためだ」
「麻薬だと」
オレはアイテムボックスから高純度麻薬の像を取り出して見せた。渡しはしない。
「これは麻薬を固めて作ったものだ。とても純度が高い。ゴウヨーク国を通り抜けるためにこの形にしたそうだ。実際に通り抜けてもいる。これの前からそれなりの純度のものが送られていた。こうしたものを戦場で捕らえた捕虜に使って自白させたりしていたらしい。それで捕虜交換か何かで、麻薬を持たせた。あとはわかるだろ?」
彼女は静かに怒りを堪えていた。拳を握りしめている。
「卑劣な」
「身も蓋もないけど、それが戦争だよ、ケイナ。“窮鼠猫を噛む”。弱い者でも一か八かを考える。例え、卑怯と言われても、生き残りたいじゃないか。これはエルゲン国の騎士から聞いた話だが」本当はランドルフだけど。「自分たちの土地を奪われた。だから、取り戻そうと戦っているそうだ」
「取り戻すだと」
「そうだ。そして、バグラールの王城から得た歴史書によれば、“取り返した”ではなく、“奪い取れた”と書かれていた」
「まさか」意外な事実だったようだ。
「君たちには、知らされていなかったようだね。おそらく、土地を奪われるから守れ、とでも言われていたんだろうな」
うなずく彼女。怒りはだいぶ薄れているようだ。
「それでお互い、自国の土地を守ってきたわけだ」
唸りはじめるケイナ。
「ということは」とダルトン。「オレたち、因縁浅からぬ間柄なわけだ。で、バグラールの兵士が、こんなとこで何してるの?」
オレとケイナが、ダルトンを見る。キョトンとした顔で。
「これまでの話から、彼女がそうだとわかるのは当然じゃん」
オレはケイナと顔を見合わせた。
「そういえば、そうだったな」
うなずく彼女。それで、ダルトンを見る。
「私は、抜けてきた。今は一介の放浪者だ」
「追われてないの?」
「私とよく似た仲間の遺骸に、装備のいっさいを預けてきた。家宝の剣も。追われることはないだろう。ここまで、それを感じたこともない」
「わかったよ。それで――」
ケイナがその先を制する。
「魔獣が来ている」
「おお、早いね。種類や数は?」
「そこまでは」
「捉えました」とマナミ。「移動速度からウルフっぽいです。数はわかりません。でも広がりつつあります」
全員が襲撃に備える。
ちなみに、ウーちゃんには、気配を抑えてもらっていた。ケイナの実力を見るために。今はラキエルとともに見物人でしかない。
「よし」とオレが声を掛ける。「それぞれの力で対処してくれ。魔導具は使うな。ラーナはウーちゃんのそばに。ケイナ、君の腕前を見せてくれ」
「ヤ」
その答え方に、一瞬驚いたが、すぐに意識をウルフに向けた。
「捉えた」「捉えました」とハルキとエイジがほぼ同時に報告。そちらを向く。
「私も」とキヨミ。
「数は」とマナミ。「十匹以上」
ランドルフ、ハルキ、エイジ、それにケイナが剣。キヨミが杖、マナミは吹き矢を選択。ミリンダとダルトンはナイフ。オレも剣を出す。とはいえ、オレは自衛レベルでしかない。魔法盾で防いで斬り捨てる。
来た。
散開している。まわりから攻めようという腹積もりなのだろう。
「出る!」
その声とともに、ケイナがウルフたちに飛び込んでいった。
それに釣られてか、ハルキも飛び込む。
ハルキに遅れて、エイジとランドルフが飛び込む。
ミリンダとキヨミが、魔法をウルフに撃ち込む。
乱戦模様かと思われたが、剣の青い煌めきが素早く移動していくのが見えた。ケイナだ。索敵さんからウルフの反応が次々と消えていく。一撃必殺の剣技だった。
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