514【対策その三】
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2話連続投稿します(1話目)
町に戻り、ギルマスに方針を話して、準備を進めた。
翌々日。
冒険者の集団が領域手前に集まった。そこには兵士見習いたちもいた。全員だ。
広場にある荷物の番は、衛兵にお願いした。さすがに金銭は冒険者ギルドに預けた。
スライム討伐作戦を伝え、注意点を教え、それから役割分担を決める。
「簡単な仕事だ! だが、充分に警戒するように! 疲れたら交代! いいな!」
オウッ、と返す全員。
「配置に付け!」
全員が動く。
杭の外側。それぞれが待機。
「開始!」
六つのグループから、ひとりが杭の内側へと進む。それから渡してあったマジックバッグから、ゴブリンの死骸を出して、地面に置いた。すぐさま下がる。
探知から、スライムたちが移動しているのがわかる。ゴブリンの死骸に群がろうとしているのだ。
ある程度、ゴブリンの死骸に群がるのを待って号令を掛ける。
「投げろ!」
各グループから投擲されたのは、ヘッジちゃんバリア。スライムを閉じ込める。
「核を潰せ!」
核の破壊担当が、スライムを潰しはじめる。
一箇所に、スライム十から二十匹。ひとりでも大変な数だ。スライムも潰し役が近付くと反応して飛び掛かってくる。ヘッジちゃんバリアがあるとはいえ、その中に入らねば、潰せなくなることもある。油断大敵だ。
初めての方法なので、うまくいかないグループも出てくる。そのグループは、みなスライムの数が多かった。そちらはすでに終わったグループが手伝った。
すべてが片付いたところで、休憩を取らせる。肩で息をするほどではないが、思った以上にきつそうだ。
「こりゃ、ゴブリンよりもキツい!」
「スライムなんて無害だって思ってたけど、飛び掛かってくるなんて」
「領軍の兵士たちがやられるわけだ」
「こんなのが大群で襲い掛かってきたら、対処なんて無理だよ」
それぞれに愚痴とも取れる弱音を吐く。
それも仕方あるまい。核を正確に剣で壊すのは、思った以上に集中力を使う。それも動いている相手だ。当然、ミスることもある。
そして、もっとも疲れるのは、このスライムにある欲望が生存本能よりも食欲という点にある。
ほかのどんな魔獣でも彼我の脅威度を測り、攻撃か撤退かを選ぶ。
ところが、このスライムは、貪欲に食欲だけに集中している。少しの躊躇もない。生きるか死ぬかよりも食欲だけだ。
そんな生物相手だ。数が多いことも心理的な圧迫を掛けていた。
休憩を終え、もう一度やって、今日の討伐はやめた。
「なぜだ?」とひとりが声を上げる。
「今日だけで終わる討伐じゃない。初日だし、意外とみんなの疲労がある。早めに戻ろう」
彼はまわりを見て確認し、オレにうなずくと、帰る支度をはじめた。みんなもそれに従う。疲れていない非力な者たちは、壊れたスライムの核を集めて、小袋に入れている。こんなでも魔石だ。魔素が残っていて、ほかの魔獣のエネルギー源になる可能性がある。ひとつふたつなら、放置でもいいが、それなりの数になるから、気が抜けない。町に帰ったら、冒険者ギルドに渡して、処分してもらう。
スライムはスライムでも、異常なスライムだ。その魔石の効果もわからない。だから、回収するようにと冒険者ギルドのギルマスから言われていた。
冒険者ギルドのギルマスに報告したあと、冒険者ギルドの裏の訓練場に、作業小屋を出して、作業する。
明日の準備をするために。
翌朝。
昨日の討伐場所に来た。
「方法を変える。剣を使わずに、魔導具を使う」オレはマジックバッグから、その魔導具を出す。「これは風魔法のウィンドカッターを連続で打つ魔導具だ。これでスライムの身体を切り刻み、核の破壊も行なう。結界を張るから、風魔法が飛んでくることはない。とにかく、やってみよう」
オレは、杭の内側に入り、昨日の討伐場所の少し先まで行き、そこに魔導具を置き、その横にマジックバッグからゴブリンを出す。
スライムたちが動き出す。
オレは、冒険者たちのところに下がる。
「あの魔導具の赤いところにストーンバレットを当てられるのは?」
ひとりふたりと手が挙がる。
「じゃ、君にお願いしよう」
彼女がうなずく。
十二匹が集まった。
「打って」
彼女が詠唱して、その指先に二センチか三センチの石礫が出てきて、それからビュンッと飛んでいった。見事に赤いところに当たった。
「三、二、一」とカウントダウン。「発動」
スライムたちが結界内で、斬り刻まれ出した。透明な風の刃が切り刻んでいるのだ。
「とりあえず、待ってくれ。スライム相手には初めてだから、少し長めに動かしてる」
全員の視線が、そのようすに釘付けだ。
ゴブリンまで切り刻んでいるので、その血も飛ぶ。結界内は、変な色になっていた。
ようやく止まったのは、三分後。そう、設定した。
魔導具のまわりには、スライムとゴブリンのミックスされた液体と砕かれた魔石だけになった。
「これ、オレたち、必要なくない?」とひとりが言うと、まわりからクスクス笑いがこぼれた。
「まず」とオレ。「魔法使いは必要だ。それと魔導具を置く役とその護衛役だね」
それはみんなも納得する。
「それから、スライムの数は、まだまだいる。できれば、早急に討伐して、ほかの冒険者や旅人の安全を確保したい」
それにも納得だ。
「それに、疲れるよりもいいだろ?」と笑ってみせた。
みんなも笑う。
それでも夕方前までにやれたのは、それから八回までだった。
これは、魔法使いの的中率が次第に下がったことと、魔力枯渇があったからだった。
時間的にも帰還した方がいい。
そう判断して、レイバク町へと戻った。
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