512【対策その一】
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2話連続投稿します(1話目)
今話は、長めです。
「あん? スライムだぁ?」とギルマス。
冒険者ギルドに戻って、報告する。
「真面目な話だからな」
「あー、すまん。スライムが人間を襲ったなんて話、聞いたこともないからな。そうだろ、マーガレット?」と副ギルマスに聞くギルマス。
「自己防衛の攻撃をすることはあります。しかし、自分から人間を襲い、消化するなんて」
「ともかく、この」と地図を出す。「範囲を封鎖した方がいい」
ふたりが覗き込む。そして、眉間にシワを寄せた。
「こんなにか。よく調べたな」
「近付くと、襲われたからな。その場所だよ。相手が肉食スライムとわかっているから、充分に注意して調べた。一匹二匹だから対処も苦じゃなかった」
「そこに盗賊団と領軍が?」
兵士の剣を出す。
「これがあった。領軍の兵士のものだ。おそらく、盗賊団も領軍も全滅してる」
「そうか」
ギルマスは腕を組んで考え込む。
「それで」と副ギルマス。「どうすれば?」
「まずは緊急に封鎖。倒し方がわからない以上、今はそれしか手がありません」
「討伐は難しいか?」とギルマス。
「たぶん。ここを」と地図の領域を示す。「燃やす、というのが思い付く方法ですね」
「燃やすか。しかし、この時期、木々は乾いて、燃えやすい。間違いなく、延焼しちまう」
「ええ。そうなれば、森の魔獣たちが逃げ惑い、町を襲う可能性も」
「だな」
「とにかく」と副ギルマス。「緊急で、封鎖の依頼を出します」
「ああ」
副ギルマスが地図を持って、執務室を出ていく。
「領主様には、どうする?」
「とりあえず、報告します」
用紙とペンをくれるギルマス。
それを受け取り、報告を記述し、ギルマスが緊急として受け付けて、送った。用紙には、“討伐方法があれば教えて欲しい”とも書いた。期待薄だが。
たくさんの杭とロープとハンマーを積んだ馬車とともに、冒険者たちが出立した。
人手が欲しかったので、兵士見習いの半数も一緒に行かせた。
残り半数は、広場の荷物を守るために残す必要があった。
オレも人員に入った。領域でのスライムの探知だ。冒険者たちを守るためには必要だろう。
門を出る際に、門衛の衛兵長へとギルマスからの書簡を渡す。森に危険な魔獣が出たから、外出禁止だという書簡だ。
「魔獣討伐か?」
「いや、魔獣被害が出ないように、誰も近付かないように杭を打ちに行くんだ。すぐに動き出す魔獣じゃないから、それでとりあえずな」
「わかった」
杭打ちは、グループ分けして行なう。きちんと見える範囲だ。固まって行動した方がいい、との判断だ。
夕方前に、杭打ちを終えた。杭が打ち込まれたら、すぐさまロープが張られていくので、ほぼ同時に終わった。
スライムにも魔獣にも襲われることはなかったが、これからの時間は危険になる。
点呼を取って、急いで町に戻った。そこでも点呼を取り、全員の無事を確認した。
兵士見習いたちは、そこで広場に戻ってもらった。
「ご苦労だった!」とギルマス。
冒険者ギルドに戻ると、彼は一階にいた。それだけ心配していたのだろう。
簡単に報告する。
「ありがとう。みんな、報酬を受け取ってくれ。そしたら、みんなに一杯ずつ奢るから飲んでくれ!」
全員が雄叫びを挙げた。
オレも報酬を受け取り、さて一杯、とは行かず、ギルマスとともに執務室へと入った。
「無事で良かった」ホッとしているギルマス。「みな、それなりの冒険者だが、イザというときにケガをしていたら、困ることになるからな」
「ああ」
副ギルマスのマーガレットに用紙とペンをもらう。領主様への報告だ。
「あぁ、領主様からの返事があった。やはり知らないそうだ」
そう言って、用紙を渡してくる。
受け取って読む。
領軍壊滅は残念。兵士見習いが無事で良かった。そんなスライムの話は聞いたことがない。報告を待つ。そんなところだ。
その用紙をテーブルに放る。
ひとつ、思い付いた。
「王都冒険者ギルドに連絡を入れよう。知っている人間がいるかもしれない」
ササッと書いて、送ってもらう。
「誰宛だ?」
「王都のギルマスだよ。ちょくちょく連絡を取ってるんだ」
「顔が広いんだな」
「いろいろとな」
お茶をもらって啜っていると、魔導通信機が鳴り、副ギルマスが確認して、オレにくれた。王都のギルマスからだ。
開いて、読む。
「向こうのギルマスが知ってたよ。特殊個体が繁殖したもののようだ。一匹一匹は弱いが攻撃してくるし、個体数が多ければ、対処が難しい」
「それで、討伐方法は?」
「スライムに知能はないから、エサで釣って、まとまったところで一網打尽、だそうだ。彼がやったときは、火魔法で一気に焼いたらしい」
「やっぱり火か」
ふと思い付く。
「そういえば、スライムってやっつけたら、どうなる?」
「そうだな……魔石が核になってるんだが、それを潰せば、形状を保てずに潰れてくな」
「潰れるって、どんな風に?」
「そうだな。水の玉だったのが、萎んで、地面に染み込んでいく」
「そうなるのか。じゃぁ、ゴブリンみたいに死骸が残らないんだな?」
「ああ」
「となると、ほとんど水分か」
細胞それぞれに水分がたっぷり入っているのか? というか、ポリマーみたいになっているのかな?
鑑定さんがスライムについて教えてくれた。
考えどおりらしい。
どうやって動くのか、というと細胞の収縮により、自在に動く。
その細胞の収縮を利用して、まわりに溶け込む擬態能力もある。タコみたいなものか。
討伐方法は、火による攻撃か、核の破壊。
「何か方法があるのか?」
「いや、考えていただけで、方法を思い付いたわけじゃない」
「なんだ」と肩を落とすギルマス。
火魔法が効く、というのは細胞膜が耐えられなくなるのか、あるいは身体の水分が蒸発するからなのか。それとも両方か。
両方かも。
オレは領主様への報告を済ませると、冒険者ギルドをあとにした。それから、広場へと向かった。
今日は広場でテントを張ろう。
兵士見習いのみんなに、説明もしないといけないし。
「ということなんだ」
今回のことを説明すると、みんなは肩を落とした。
領軍の生存をわずかな希望に待っていたのだ。仲良かった先輩兵士もいただろうし。
「領主様からの命令だ」というと、みんなが顔を上げた。「オレの指示に従うように、とな」
「どうするおつもりですか?」とひとり。
「おそらく、スライムの討伐になる。討伐方法がまだ決まっていないので、とりあえずここで待機だ。決まり次第、手伝ってもらう。討伐終了後は、領主様の指示を待つことになる」
「わかりました」
暗い中、ランタンの明かりだけで、テントを張る。
別に作業小屋を出しても良かったが、それもそれで戸惑われた。落ち込んだ兵士見習いに見せるものじゃないからな。
夕食は、彼らと一緒に摂ることにした。
調理は彼らの仕事でもあった。
スープとパン。スープには干し肉と根菜が入っていて、塩気が強い。
聞くと、いつもの献立らしい。
まぁ、領軍の行軍に、たくさんの食材を積んでの移動も大変で時間も掛かる。
あとは、町や村に立ち寄って、購入する程度だろう。
この食事だって、根菜とパンは、町で購入したそうだし。
その分、量は食べられるから、満足しているらしい。
領主館では、きちんとした食事を食べられているそうなので、栄養面の心配はなさそうだ。
食事を終えて、お茶を啜りながら、オレのことを聞いてくる。
まぁ、領主様のお墨付きとはいえ、知らない人間であり、兵士でなく、冒険者というのもあり、どこまでの力量なのかもわからないのだから、当然だ。しかもオレの命令に従わねばならないのだから。
討伐した魔獣のことを聞かれ、あれこれと話して、ヒュージアントのことを話したら、食い付かれた。
「ヒュージアント討伐は、あなたでしたか!」とみんな。興味津々だ。
「ほかの冒険者と一緒に闘っただけだよ」
「副軍団長が話してくれました。なんでもすべてのヒュージアントの首を切り落としたって」
「みんなでね」
「それでも身体の方にはキズらしいキズがなかったそうです。いくらミスリル剣でも相対したら簡単じゃないと」
そこでどうやって倒したのかとかを話して聞かせた。
みんな、口を開けて、呆気に取られていた。まぁ、ふつうじゃないからな。
「その作戦を立案したのは、サブ殿なのでしょう?」
「立案というよりも、その都度、作戦を変えていっただけ。それもみんなの意見を聞いてね。オレひとりの手柄じゃない」
本当のことだし。
せがまれて、ほかの話もした。
こういうことは、軍隊では経験できないことだろうし、ましてや彼らは見習いだ。実戦に出ることもない。
だから、冒険者のオレの話を子どものように聞いてくるのだ。
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