004【商業ギルド】
連続投稿になります。ごめんなさい。
路地裏に入り、それぞれの装備をアイテムボックスにしまわせる。そのままだと、彼らが装備に潰されてしまうから。それにこれからオレたちは各ギルドに登録に行くのだから、それなりの身軽さが必要だ。
商業ギルドに向かう。
途中に活気のある市場があり、屋台から、いいニオイが漂う。みんなの意識がそちらに向かう。
「買い食いしてていいぞ。あそこのスペースで待っててくれ」とその飲食スペースを指差す。
四人はうれしそうにうなずくと、屋台へと突進していった。緊張していただろうし、腹も減っていたのだろう。
お金はすでにそれなりに渡してあるし。
オレはそんな彼らを見てほくそ笑む。
商業ギルドの建物は大きく、出入り口は開放されていた。
入ってみると、さまざまな人々が忙しそうに動いている。活気ある場所だ。見回して、受付を探す。
近くにいた女性が声をかけてきた。制服姿だ。ここのスタッフだろう。美人さんだ。これもテンプレか。
「商業ギルドにようこそ。ご要件を伺います」
ありがたい。
「ギルド員登録したいと考えていまして、どうすれば?」
カウンターへと案内され、向こう側のスタッフの女性(こちらも美人さん)にこちらの用件を伝えてもらう。彼女はそれで一礼して、さきほどの場所へと戻っていく。
「ギルド員登録のご検討、ありがとうございます。説明をご希望でしょうか?」
「はい。なにぶん、初めてですから」
「かしこまりました」
まずは、商業ギルドという組織について。国を越えた組織で、商人たちの便宜を図り、商人同士の交渉などを仲介したりして、中立な立場として活動しているそうだ。
次に、税金について。これは商人が一定の金額を商業ギルドに払い、それを商業ギルドが代わりに国に納めてくれるらしい。確かに、個人がそれぞれの国にいちいち税金を払っていたら、お金がいくらあっても商売にもならなくなるな。
ようやく、自分が所属するランクの説明に。
ランクは金属名で示される。つまり、鉄、銅、銀、金、そして白金。
鉄級は、行商人や屋台。
銅級は、個人商店。
銀級は、小規模商会。
金級は、中規模商会。
白金級は、大規模商会。
そのクラスによって、納める税金も変わってくるわけだ。
ちなみにミスリルという金属もあるが貴重なためか、貨幣には使われていないようだ。
罰則の話も。違法取引などでランクの格下げや、場合によっては除名処分もありえるとも。犯罪行為なんて、当然もってのほかである。
「それから」と続けるスタッフ。「商業ギルドでは金銭のやり取りを円滑にするために、預金口座の開設もしております。定期的な支払いも設定できますから、国を離れての支払いもでき、取引相手にも安心していただけます」
おっ、預金システムということは銀行みたいなものか。これはうれしいかも。まぁ、金銭はアイテムボックスに入れておけるけども、お金のやり取りをいちいち手渡しするのも手間だ。それに商業ギルドが融資などに使ってくれる。経済は回さないとな。
ちなみに、冒険者ギルドでもこのシステムはあるが、高ランク冒険者だけしか開設できないそうだ。これは下っ端冒険者は利用できるほどの稼ぎにはならないからだとか。わかるわかる。
説明を聞き終わり、オレはランクを鉄級にしてもらい、口座も開設することにした。
「登録には登録料と血の一滴が必要になります。よろしいでしょうか?」
「はい」
やはりテンプレ。
申請用紙への記入を彼女に任せる。文字は読めるが、書けるかはまだわからないのだ。書けてもヘタだろうし。
申請内容を確認。
お金を受け皿に置く。
すると、彼女はカウンターの下から何かを取り出し、オレの前に置く。見た目は、キッチン用の電子計量器そのもの。
スタッフは、もうひとつ置いた。コルク栓に針が刺さっている。その先には小さなコルク。針先を保護しているのだろうか。
彼女が小さいコルクを外す。
「こちらの針で指先を刺して、こちらの魔導具の上に血を擦り付けてください。血が登録されて、登録カードが発行されます」
あっ、血の登録用の魔導具なんだ。どういう仕組みなんだろう?
まぁ、それは後回しにして。
針を持って、右手人差し指の腹に刺す。
プクッと血が玉を作る。
それを魔導具に押し付ける。
変化なく、指を離した。
「うおっ!」とのけぞって、小さく叫んでしまった。
突然、魔導具が光ったからだ。
「失礼いたしました。説明しておりませんでしたね」と彼女は微笑んだ。
魔導具は、血汚れもなくなって、きれいだった。
カシャッという音がして、彼女が魔導具から何かを引き出した。
カードだった。
そのカードを両手で差し出す彼女。明るい灰色だ。表面には紋章とオレの情報が書かれている。
「こちらがお客様の登録カードになります。なくさないようにしてください。再発行には手数料が発生いたしますので」
カードを受け取る。クレジットカードより細長く、厚みも二枚三枚ほどもある。上の左右の角には穴が空けられている。
「そちらの穴は、ヒモを通して身に着けるためのものです。財布に入れる方もおりますが、首に下げるなど、人それぞれに身に着けております。こちらのギルドでもそうしたヒモを販売しております」
問答無用で購入した。片方の穴に通して首に吊るすタイプだ。さっそく吊るす。
なんか、社員証を下げていた頃を思い出した。
「これで登録は終わりました。何かご質問はございますでしょうか?」
「えっと、口座開設は?」
彼女は飛び上がるようにして、背筋を伸ばした。
「そうでした。すでに開設してございます。あちらの窓口で」と奥のカウンターを指す。「お金の入出金ができます」
「わかりました」と笑顔で別れの挨拶にする。
示されたカウンターで、カードと金貨十枚を出す。
もちろん、それの数百倍の手持ちはあるが。
突然の金貨十枚に、驚いている男性スタッフ。
「親の遺産です。どうやらコツコツ貯めていたようでして」
男性はそれで納得してくれ、手続きを進めてくれた。
離れる前に男性に尋ねた。
「馬車や馬の購入をしたいのですが」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」と彼は立ち上がり、カウンターに札を立てた。そこには手のマーク。指を閉じ、手のひらをこちらに見せている。
“この窓口は使えません”という札だな。
彼が移動するのを追う。
案内されたのは、“商談コーナー”と書かれたスペース。
テーブルとイスがいくつか置かれている。
そのひとつに促され、座る。
「係の者を呼んでまいります。お待ちください」
彼が去り、代わりに中年女性が現れた。制服姿なので、スタッフなのはわかるが、貫禄がある。中年というだけではない。
「ようこそ、商業ギルドにお出でくださいました。わたくしはアデリアと申します。当ギルドでギルドマスターをしております」
うおっ! ギルマス直々!?
イスから立ち上がる。
「これは……えっと鉄級のサブと言います。なぜギルマス自ら?」
「まずは、お座りくださいませ」
お互いに座る。
「単に担当者が席を外しておりまして、わたくしが対応するほかなかったのです。それとも担当者をお待ちになりますか? 早くても、明日になってしまいますが」
オレは、首を振った。
「では、進めますわね。馬車と馬のご購入を検討されていらっしゃるとか」
「はい。村々をまわっての商売を考えていまして」
「わかりました。馬車・馬ともに所有者登録が必要なのはご存知でしょうか?」
えっ?
「その様子では、ご存知ではなかったようですね」
「はい」
「登録が必要になりましたのは」と説明してくれるアデリア。
なんでも、街道を旅する馬車を狙う魔獣や盗賊に襲われることがあり、その馬車の所有者が誰なのかわからない状態が長らく続いていた。
また馬は盗賊が盗んで利用する場合も多々あり、これも問題視されていた。
そこで商業ギルドが中心となり、登録制とした。
「それ以降も襲撃などはありますが、所有者をはっきりさせることができるようになり、盗賊が商人を装って、移動することも少なくなりました」
「なるほど」
「馬や馬車には、所有物であることを示すプレートなどを身に着けさせます。これは所有者のカードにも記載され、所有物を示すことができます」
「どうやってですか?」
「ギルド登録時に血をいただきましたが、馬も血を登録します。馬車には所有者の血を染み込ませ登録します。これで馬や馬車とプレートが関連付けられます」
プレートを取り替えるなどの行為は、違法行為で、見つかり次第、捕縛されるとか。
「また、所有物と所有者を証明するにはこうします」
彼女は、腰のポーチからギルドカードとプレート状のものを取り出し、触れさせた。
その途端、ギルドカードとプレートが光り出した。それほどの光量ではないので、眩しくはない。
「門の衛兵がこれを確認すれば大丈夫です」
「ふむふむ。所有者の代理の者が利用する場合は?」
「事前申請してもらえれば、その方のギルドカードに記載します。商会主と商会員という情報も記載可能ですので、新しい商会員を雇う際に登録することが多いですね。また、第三者が申請もなしに利用する場合は、注意が必要です。よほどの理由がなければ、避けた方がいいでしょう」
「わかりました。ところで、襲撃を受けて放置されているのを見つけた場合はどうしたら?」
「馬の場合は、近場の村へと連れていってもらえればよろしいかと。馬車の場合は無理に動かさずに、その場所を近場の村に知らせてください。どちらも村が対処いたしますので」
「なるほど」
ようやく馬と馬車の売買の話になった。商業ギルドではどちらも業者の仲介をしており、特別注文以外はギルドである程度まで指定ができるのだそうだ。
それで馬車の形を選択することになったのだが、なんと、アデリアは奥からカートを押してきた。
そのカートには、ミニチュアの馬車が3台あった。
アデリアいわく、これらが定番の馬車なのだそうだ。
それにしてもイラストでいいと思うんだけど。
全部、御者台と荷台だけの馬車。しかし、その造りはだいぶ違う。耐久性が低・中・高なのだとか。
これにオプションで、幌をかぶせたり、箱型にしたり、座席を付けたりするそうだ。もちろん、車輪も変えられる。
なるほど。これなら修理なんかも、交換するだけだから、手早く行なえるな。
オレは耐久性が高いものを選択。車輪も同様に。荷台には幌をかぶせる。
アデリアが、こちらの注文を石板に書き取る。
なるほど、紙は高級品なのか、それともまだ大量に製造できていないのか、獣皮紙をメモに使うのはまずいのか。まぁ、オレが気にすることではないな。
次に馬。これという要望はないが、オレたちは馬の扱いを知らない。そう言うと彼女は笑み、大丈夫という。
なんと、馬業者が、馬の扱いを教えてくれるそうだ。まぁ、当然、別料金だが。
「あとは、馬の扱いができる奴隷を購入する、という手もあります」
「奴隷ですか?」
奴隷かぁ。オレたちの正体や秘密を隠さなければならないから、仲間にするのはどうかなぁ……。
「奴隷って、購入はいいのですが、詳しくないのですが」
説明してくれる。
奴隷には、犯罪奴隷と借金奴隷があり、前者は犯罪者、後者は借金返済のために奴隷落ちした者。
犯罪奴隷のほとんどは、重労働が課せられる場合が多く、市場には滅多に出てこない。
奴隷商人が扱うのは、借金奴隷だとか。
奴隷の金額は、奴隷の借金の金額によって決まり、奴隷は規定の年数だけ労働奉仕を行なう。
「ふむ。わかりました。どちらにするか、少し考えさせてください」
「かしこまりました。では、馬車の用意をさせてもらいます。馬は後日、ご覧いただき、お選びください」
そうしたあれこれを決め、料金が決まった。お金を出そうとすると、アデリアに制された。
「料金は口座から引き落としできますが?」
「えっ? あぁ、そういうこともできるんですね。現金を出すのはダメですか?」
「可能です」
「口座のお金は、できればそのままにしたいんです。親の遺産なので」
「なるほど」
アデリアに納得してもらい、現金を渡す。代わりに番号札を渡された。窓口で見せれば、今回のことの対応をしてくれるそうだ。
アデリアにお礼して、商業ギルドをあとにする。
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