300【新たな魔獣】
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2話連続投稿します(1話目)
ゴブリン狩りは、雷爆弾・静とスタンガンでの無血討伐で、サクサクと終わらせた。全員参加の必要性を感じなかったが。
「これで、冬のあいだは困らないだろう」
「充分でしょ」
「でも」とハルキ。「つまらなかった」
「そういう討伐じゃなかったからな」
みんなで、笑う。
索敵さんが反応。
「ハルキ、ご所望の魔獣がやってきたぞ」
「やった」とよろこぶハルキ。「なんです?」
「内緒。お楽しみに。ちなみに雷魔法は効かないよ」
「よっしゃ!」
「おいおい」とダルトン。「数は?」
「そのくらいは、いいか。五匹だよ」
「ゴブリンやウルフだったら」とエイジ。「雷爆弾が使えるから。あれ? 雷魔法の耐性があるんですか?」
「うん。それでも雷魔法は使わないよ」
「えっ?」とキヨミ。「雷魔法は使わない? その言い方、ほかの魔法は使う、って聞こえるんですけど?」
「ちなみに、たぶん初見だよ」
ゲッ、とダルトン。ヤバそう、と思ったのだろうな。
「でも」今度は、マナミ。首を傾げている。「サブさん、余裕そうですね」
「いやぁ、ここはみなさんにお任せしようかと」
エエエッ、と全員。ランドルフ含む。
「オレ、これ、無理だから。よろしくぅ」
オレは、みんなの制止を振り切り、姿を消した。上空に移動する。
ヒデェ!とダルトンの叫びが聞こえた。
エイジが、周囲警戒!とみんなに声を掛ける。
その声に反応して、それぞれの得物を用意するみんな。
こっちから来る、とのマナミの声に、みんながそちらに向く。マナミの索敵に引っかかったのだろう。
五十メートル先に、魔獣の姿を見つけた。なるほど。確かに鑑定さんの説明どおりだ。
さて、みんなは、対処できるかな?
人の歩く速度で、みんなに近付くその魔獣。まっすぐではなく、ケガを負ってよろめいているような動き。これには、騙されそう。特に男は。
どうやら、すでに魔法を使っているようだ。男性陣が動きはじめた。魔獣に対する動きではない。魔獣を助けようとしている。
その魔獣が使っている魔法は幻惑魔法。彼らには、どう見えているのやら。
男性陣だけでなく、女子ふたりも動く。マナミは、相手を癒やすつもりらしい。十字架に左手を置いた。
ところが、キヨミは、ちょっと違う動き。マナミの腕を引き、ようすを見ているようだ。違和感を感じたか?
ふたりが相談して、左右に分かれて動く。マナミが消えた。
男性陣四人が、魔獣に声を掛け、誘導する。魔獣が近付く。
最初の一匹にエイジが駆け寄ろうとした。次の瞬間、結界が発動して、その魔獣を閉じ込めた。それから次々と結界に閉じ込められる魔獣たち。
魔獣たちの姿が、萎れていく。
それに戸惑う男性陣。
「それは魔獣よ!」とキヨミの大声。魔獣たちの横に移動していた。「索敵には、ソイツらしかいないわ!」
おお、よく気付いたな。
オレは一匹に近付き、剣を出して、浮遊を切り、首に振り下ろした。
そいつの首が胴から離れ、崩折れた。
フードを外して、キヨミを見る。
「キヨミ、よくわかったな」
「わかりませんでした。でも索敵には魔獣を感じるのに、ケガした女性が見えるんですもん。だから、マナミに頼んで、ヘッジちゃんバリアで閉じ込めてもらったんです。それなら間違っても女性を閉じ込めるだけですから」
「なるほど。みんな! こいつはミミクリィ・リザード。またの名をミミック・リザード。トサカに血液を送って、人間の女性に似せた形を作るんだ。それから幻惑魔法でより女性に見えるようにしていた。危なかったな」
ミミックのイメージは、ダンジョンで宝箱そっくりで、冒険者が開こうとするのを襲う魔獣だ。この世界でのミミックについては、索敵さんで調べても、反応がないので、なんとも言えない。ただ、ダンジョンについての書物には記述があるので、存在はしているようだが。
キヨミが、ウォーターカッターで、リザードの首を刎ねていく。オレも剣を振るう。
すべてが屠られた。
男性陣は、いまだ茫然自失のようだ。
しばらくして、ようやく男性陣は、口を開くようになってきた。
「ヤバかったぁ」とダルトン。「あんな魔獣、初めてだよぉ」
「オレもだ」とランドルフも。
「きれいな人だったから」とハルキ。「思わず、駆け出してた」
「オレも」とエイジも。「守らなくちゃ、って」
「私も。キヨミが引き止めてくれなかったら、どうなっていたか。ありがとう、キヨミ」
「いいの。でも索敵しててよかったです」
「だな」
「でも」とダルトン。「サブはどうして、外れたんだよ?」
「オレだったら、真っ先に助けようとしただろうからな」
唖然とするみんな。それから笑った。みんなして。
「ちなみに、上から見てたけど、幻惑魔法の範囲は狭いみたいだな。オレには、トサカを立てたリザードにしか見えなかった」
「でも」とマナミ。「なんで、人間の女性を模していたんです? 別に男性でもよかったのに」
「どうかな。ともかく、自然界では、人間は弱い存在なんだ。ほかの魔獣にとっては、いいエサに思えることだろう。そして、女性ならば、相手が人間だと、女性を守ろうとする本能から近付いてくるんだろうな。ゴブリンなんかは襲いにやってくる」
「なるほどな」とダルトン。「サブが逃げたくなるのも当然か。おまえ、女が怖いんだろう?」
「ノーコメント」
はい、苦手ですよ。それが何か?
みんなが、クスクス笑う。
「御後がよろしいようで。さぁ、帰ろう」
「なんだ、こりゃ」とギルマス。
珍しい魔獣を討伐した、と冒険者ギルドに報告に来たら、ギルマスが呼ばれ、解体場でご開帳。
ギルマスがツンツンつついているのは、トサカ部分。
「そこに」と説明。「血が入っていって、膨らんで、女性の形になるんです。男性のアレが膨らんだら、腕が生えて、手を振ってるのを想像してもらえれば、いいかな?」
「変な想像させるな。まぁ、いい。で、この五匹だけか?」
「一応、索敵で広範囲に渡って調べたけど、これのほかはいなかった。この五匹で、ここ周辺をエサ場にしていたんでしょうね」
「わかった。討伐報酬を出す。細かい情報をくれるか?」
「もちろんです」
ミミクリィ・リザードの情報は、各地の冒険者ギルドに、伝達された。後日、冒険者たちの謎の失踪は、この魔獣によるのではないか、と討議されたらしい。その後、結論は出ないまま、だと言う。
※ミミクリィ・リザード
独自魔獣。ミミックとは、別物。
※ミミック
ウィキペディア参照。
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