298【領主様のもうひとつの用事】
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2話連続投稿します(1話目)
「グールか。しかし、それを領主様に話して聞かせたのは、なぜです?」
「内緒で頼むぞ」うなずくオレ。「意趣返しだよ。昨日今日と仕事にならん。サブの話ばかりでな。こりゃ、何かあったな、とわかっていた。どうせ、領主様の態度が鼻についたんだろ?」
「当たりです。申し訳ないです」
「いいさ。昨日は機転を効かせてくれたからな。その礼だ」と笑む。「そういえば、出掛けるようなことを言っていたな」
「ええ。ゴブリン狩りをしてこようかと」
「ゴブリン狩り? 発見の報はないが?」
「こちらの索敵で見つけました。脅威度の低いものです。うちの従魔のエサですよ」
「ああ。そういえば、四頭だったな。全部、肉食か?」
「ケルピーは、雑食です。草だけ食んでいれば、大丈夫らしいですが、ご褒美替わりにあげるんですよ。スノータイガーは完全な肉食ですね」
「そうか。大変だな。ん? そろそろ起きそうだな」と領主様を指差す。
見ると、身動ぎしている。
「ならば、お暇を――」
オレを制止するギルマス。
「待て待て。答え合わせだけで、ここに来るはずがないだろうが。ほかにも用がある、と言っていたぞ」
「ありゃ」
「昨日は、ずっと文句をたれていたのに、王都冒険者ギルドからの一報で、だんまりになった。おそらく、それだろうな」
「じゃぁ、起こすか」
「おい、手荒な真似は――」
「てぇぃっ」と領主様の額を叩いた。
叩かれた領主様が、途端に目を覚ます。
「な、何事!」
「おはようございます、領主様」
「ムッ?」
彼が部屋を見回す。自分がどこにいるのかの確認だな。それからオレを見た。
「サブ、殿?」
「あなたは、失神しただけです。寝てたのは、ほんのいっときです」
オレは座り直す。
しかし、分とか秒とかをそのまま言えないのはちと苦痛だな。まぁ、時計が少なくて、お日様頼りな世界だから、仕方ないけど。距離や長さも同じく。古代エジプト時代か!
身を正す領主様。
「生きているのか」
「生きてますよ。私がやったのは、ギルマスの話に弱ったあなたの心に、言動によって、さらに圧迫をかけただけです。心が保たなくなり失神した。そういうことです」
「まさか、心まで操るとは」
オレは、軽く笑った。
「こんなの、誰でもできますよ、領主様。とにかく、民は弱いが、民は恐ろしい、ということを覚えておいてください。よろしいか」最後だけは、貴族言葉にした。
「わ、わかった。覚えておく。ギルマスの話のようなことにならぬよう、気を付ける」
オレはジッと領主様を見た。彼が怯えるくらいに。
「まぁ、いいでしょう」
ホッとする領主様。
「で? ほかにもご用がおありなんでしょう?」
うむ、と言って、懐から取り出したのは、ひとつの書類。それを差し出してくる。
「なんです?」
「土地の使用許可証である」
「おや、てっきり反故になったものかと」
「私もそのつもりであった。が、これが届いた」
もうひとつ書類を出してきた。それは魔導通信機で使われる獣皮紙に見えた。
それを受け取り、内容を確認する。
それはジョージからのものだった。宛先は、領主様。
何々……おやおや。
「これで許可証を発行してくださったわけですか」
書類には、
“《竜の逆鱗》のサブは、
我ジョージ・ゴウヨークが
信頼する者である。
ゆえにこの者の望むものを与えよ”
とあった。
領主様は、渋々という顔。まぁ、わかる。
「王命では、仕方があるまい。だが、頼むから、その土地で、人道に悖る行為は、するな」
ここは、素直に感謝を述べるか。
「御意」と頭を垂れる。
「しかし、昨日の今日で、このような文書が届くなぞ、信じられぬ。そうは思わぬか」
「こんなことは初めてですが、あのジョージならば、おかしくないのでは、と思います」
「何か知っておるのか」
「陛下は、国王になる前は、国内のさまざまなことを知悉していました。おそらくその一端ではないかと」
「ふむ、詳しくはわからぬ、と」
「詳しくも何も。ですが、話をしてみて、そうだと思いました」
「そうか。……それでその土地のことだが、ほかにはないのか、要求は」
「こんな王命が来ては、もっと要求があっても、とお考えなのでしょうね」オレは少し考え、ギルマスを見た。
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