290【領主様との会談・その七】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
2話連続投稿します(1話目)
領主様の後ろで、ギルマスがゼスチャーしている。執務机を指差し、両手で山を描く。何かを書く真似。領主様を指差し、箱を脇にやる真似。
オレが理解して、うなずく。
「領主様、でしたら、別の部屋にて、お話をされてはいかがかと。ギルマスも仕事がございますので」
ん?とギルマスを見る領主様。
「それもそうか。ギルマス、別の部屋を用意してもらえぬか」
「かしこまりました」というと、女性スタッフにうなずく。女性スタッフが出ていき、すぐに戻ってきた。執務室から別の会議室へと、オレたちを案内する。
ギルマスがホッとしていた。
会議室は、三人には、とても広かった。これは、領主様を考慮した結果だろう。
「ランドルフ、オレ、必要?」と座る前に確認する。
「話題の多くは、サブのことだと思うぞ」
「ですよねぇ」
ということで、イスに腰掛けた。
女性スタッフがお茶を淹れてくれた。それから会議室を出ていく。
「さて、ランドルフ」と領主様。「家には、戻るつもりはないか」
「はい。家督は、すでにレイモンド兄上が継いでおりますし、ラファエル兄上も王都冒険者ギルドのギルマスをしております。私は冒険者として生きることに、そして、死ぬことに、後悔はございません」
「わかった。確認しただけだ。ドラゴンに挑んだのだったな。敗れたとも。冒険者ギルドのことには、詳しくないが、依頼失敗は何か罰則のようなものがあったように記憶しておる。どうか」
「はい。依頼失敗は、罰金が課せられます。生き残りはふたりのみ。ひとりは私。もうひとりは働けない身体です。私は、自分ひとりで負うことにしました」
「そうか。して、罰金は払えたか」
ランドルフは、首を振る。
「額が額なので、それまでに貯めた金額では足りなく、借金奴隷となりました」
領主様が目を見開く。
「本当か! しかし、こうして、自由でいるということは――」
「自由に見えますが、いまだに奴隷です。ですが、すでに主人を得ています。それがこのサブです」
領主様がオレを睨む。
「我々は」と説明する。「勇者召喚されましたが、逃げることにして、まずは王城から街なかに逃げました。王都を出るのに、馬車が必要となり、馬丁も必要に。それだけではなく、ほかの召喚された者たちの訓練も必要でした。それで王都冒険者ギルドのギルマスに相談すると、借金奴隷を紹介されたのです。それがランドルフでした」
「私は」とランドルフ。「冒険者に戻ることを諦めておりました。それでも大盾を手放すことができずにおりました。父上の形見でありますから」
そうだったのか。
うなずく領主様。
「ですが、サブが来て、オレを買い、ふたたび、冒険者の道が開かれたとき、うれしかったものです。また、冒険者に戻れた、と。あの日から、オレはサブを主人として、付き従うことを自分の胸に刻み込みました」
長い時間、誰もが、何も言わなくなった。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




