272【ヒュージアントの討伐方法】
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不思議なことに、攻撃を開始してから今の今まで、ほかの斥候アリはおのれの仕事から離れず、こちらに来ることはなかった。
地上の三人に声をかける。
「どうやら斥候は、ほかのヒュージアントがどうなろうとも、関係ないようだ。今度は、光爆弾を使わずに、闘ってみてくれ。無理するなよ」
「「「おう」」」
三人は嬉々として、ヒュージアントの一匹に駆けていく。
ランドルフは、剣をしまい、大盾を構える。
「やっぱりタンク役が似合うな、ランドルフは」とダルトン。
今までよく黙っていたな。まぁ、観察が彼の仕事だからな。
「だな」と答える。
ランドルフがヒュージアントの前に大盾を構え立つ。
ヒュージアントが立ち止まり、触角を震わせる。すぐにアゴがガチガチと噛み合わされる。肉見っけ、ってところかな?
エイジとハルキが、ランドルフの左右から出て、剣を振るっていく。主に関節狙いだ。
だが、やはり相手が動くので、狙った部位に当てられない。
それでも脚のヒザに当たる場所が、断ち切られていき、ヒュージアントの行動がどんどんと削られていく。
最終的に、首を斬られて、ヒュージアントは絶命した。
「お疲れ」と声をかける。「次は、煉獄の実を試してみる。避難しててくれ」
オレは装備を整え、最後のヒュージアントのところへと向かった。
隠遁して近付く。顔の左側に着く。
ヒュージアントの触角が震える。顔がこちらを向く。
気付いた?
だが、ヒュージアントは前を向いて、歩き続ける。
その横顔に煉獄の粉を吹きかける。
全然、意に介さず、前へと歩く。
やはり、効かないか。
ふと、複眼を見る。ゴルフボールよりも小さい。もしかして、複眼を見えなくしたら、動くのをやめる? 光爆弾で複眼を潰したのを思い出して、そんなことを思った。
えっと、アイテムボックスに複眼を覆うものは?
あったあった。油粘土だ。
油粘土をヒュージアントの両方の複眼にかぶせてみた。
途端に動きが……止まらない。変化なし。
あれ? あっ、アリは巣穴の中で活動するんだから、複眼は参考程度なのか。なら光爆弾で行動停止したのはなぜだ? 強烈な光を浴びた……それで視神経を経由して、脳に影響を与えた? オレたち人間は、強烈な光を浴びると、目が潰れたかのように、痛みを伴う。それと同じか?
オレは隠遁を解き、剣を出して、斬りかかろうとした。
ヒュージアントが反応して、オレの方を向く。
オレは右側の触角の根元付近を斬りつけた。
触角が切れ飛ぶ。
もう一閃。
左側の触角も飛んだ。
今度こそ、ヒュージアントは止まった。
脇にまわって、首を斬る。
ゴトリッ、と頭が落ちた。同時に身体も。
みんなが空中から降りてくる。
「今の、よくわからなかったんだけど?」とダルトンが尋ねる。
「煉獄の実はダメ。反応なし。それで目を油粘土で覆ってみた。光爆弾で目を潰したように。でも動く。つまり、閃光を使った場合、それが脳に影響して、動作が停止したようだ。目を塞いでも、コイツらは巣穴の中では目が見えないから、目の必要がないんだ。で、何を頼りにしているかというと」
「触角、か」とランドルフ。
「そう。だから、切り落とした。案の定、動きが止まった」
「なるほどねぇ」とダルトン。
「それから」とオレは続ける。「コイツらは、生物とは見ない方がよさそうだ」
「「はい?」」とS級冒険者ふたりが、クエスチョンマークを頭に載せている。
「ふつうの生物は、閃光で目を潰されたら、痛みでもがき苦しむ。だが、コイツらは停止した。外界からの情報がなくなるから、動くことができなくなる。まるっきり、機械だ。おっと、ふたりには魔導具と言えば、わかるか」
「えっ、コイツらが魔導具?」
「いや、それも違うか。そうだな……まだ見たことはないけど、ゴーレムに近いんじゃないかな」
「あぁ、ゴーレムね」
「それはそれで」とランドルフ。「厄介だぞ。だが、ゴーレムと考えれば、なるほど、よく似ているな」
「闘ったことは?」
「もちろん、ある。ダンジョンばかりだがな。そうか、巣穴をダンジョンと考えれば、ゴーレムに支配された空間ということか」
「いやいや」とダルトン。「それこそ厄介でしょ。ゴーレムオンリーのダンジョンって」呆れている。
「少なくともこうは言える」とオレ。「コイツらは、生物的な身体を持つゴーレムだってね」
「それで」とランドルフ。「討伐方法に目処は立ったか?」
「厳しいな。だいたいオレたちの剣でなければ、刃が立たないのがな」
「だな。全員分の剣を打つわけにもいかないのだろう?」
「やってもいいけど、時間も金もかかるからな」
「一網打尽にはできませんか?」とキヨミ。「こう、囲いの中に誘い込んで、まとめて」とゼスチャーする。
「エサは」とエイジ。「先日のゴブリンでよさそうですね」
「問題は」とハルキ。「どうやって討伐するか、だね」
「水攻め?」とマナミ。
「囲いの中の土を」とオレ。「硬質化しないと、染み込んでしまうよ。それだけの魔力があるかな」とエイジを見る。
「囲いの大きさ次第ですね」
「そっか」
「まずは、オレたちで斥候隊を潰すか」とダルトン。「そのあいだに、サブができるだけ、剣を打つ。光爆弾もね。あれでヒュージアントが動きを止めてるあいだに、首を斬ればいい」
「わかった。まずは斥候隊を削る、ということで。巣穴については、考えてみよう」
倒したヒュージアントを回収して、ミハス町へと戻った。
ギルマスとほかの冒険者パーティーのリーダーたちに報告する。
「ゴーレムの巣か」とギルマス。
「斥候隊を削る、それがとりあえずの結論です。巣穴に関しては、まだ」
「そうか。いや、助かる。これまでたいした情報は得られなかったからな。調査依頼として報酬を出す」
「ども。で、鉄剣でも通じませんから、ミスリル入りの剣が必要になります」
「ミスリル剣か。いくつかギルドにある。武器屋や鍛冶屋にもあるだろう。なんとか説得してみよう」
「ありがたい。足らなければ、オレが打ちますので」
「おまえ、鍛冶師でもあるのか!」
「オレたちの」とランドルフ。「剣は、サブ製だ。最初、与えられたとき、呆れたものさ」と苦笑い。
「信じられんな。いや、今さらか」
「それから光爆弾」とオレ。「いや閃光弾か。それは手に持てるものにして、作ります。いちいち回収するのも面倒なので」
「なんでも作るんだな」と呆れるギルマス。
「必要なんで。で、この閃光発生器をすぐに作って、オレたちでテストします。一瞬の光で、同じだけ停止するのかどうかを確認しないといけないので」
「そうか。やってくれ。そのあいだにこっちはミスリル剣を揃える」
「お願いします」
そこで会議を終え、ギルド裏手の訓練場に作業小屋を出して、ちゃっちゃと閃光発生器を作る。
たいした違いはない。光爆弾を手持ちにして、閃光が直接、持ち主を襲わないように覆いを付ける程度だ。とはいえ、スイッチを押し続ければ、閃光が発生するようにした。閃光発生の時間で変化するのかしないのか、で製品版(売るの?)の仕様が変わるからだ。
テストしてみた。覆いを付けても、ヤバい。こりゃ、今回限りの製品だな。
ヒュージアントの斥候隊との戦闘の結果、三秒の照射で、二十五秒ほど、ヒュージアントは身動きしなくなった。それを確認して、討伐した。
冒険者ギルドに戻り、報告。
「全員には、無理だが、ミスリル剣を確保できた」とギルマス。
「ならば、閃光発生器をパーティーごとにひとつ渡るように用意します。それを使い、停止したところで首を落とせば大丈夫です」
「明日には、用意できるか?」
「確実に」
オレはすぐに製作に入り、ほかの面々は、ほかのパーティーのリーダーたちに、討伐方法を伝授する。
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