270【アリさん、みっけ】
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難しい依頼編
2話連続投稿します(1話目)
ミハス町に到着した。まだ太陽は高い。
旅の道中、魔獣には襲われたが、被害は軽微で済んだ。それもポーションを使えば、すぐに治った。逆に、魔獣の素材が手に入ったことで、懐が温まる結果となった。
到着して、まずは冒険者ギルドに立ち寄った。依頼達成の報酬を受け取るため、討伐した魔獣の素材の換金に、だ。
オレとリーダーたちが入っていくと、オレたちの姿を目にしたスタッフのひとりが、階段を慌てて登っていった。
降りてきたのは、ギルマスだった。
「おう、お疲れ様! 到着早々で悪いが、執務室に来てもらいたい」
オレたちは顔を見合わせ、仲間たちに宿屋の手配を任せてから、二階へと上がる。
「すまんな」
「いえ。何かありましたか?」
「うむ……とても言いにくいこと、なんだがな」とふと躊躇して、深呼吸するギルマス。それからオレたちを見た。「ゴブリン・スタンピードを防いでくれたおまえたちには、申し訳ないんだが、ここから東に三千歩のところの調査をお願いしたい」
「調査? すべてのパーティーで、ですか?」
「うむ……実は、すでに調査隊を送ったんだが、連絡が途切れている。小型の鳥型魔獣をテイムしているパーティーだ。連絡が途切れる、ということは」とオレたちを見た。“わかるだろう?”と顔が言っている。
「調査隊を出した理由は?」
「何人もの冒険者、まぁ、狩人なんだが、彼らが行方不明になった。しかもみんな、そのあたりを活動域にしている。それから少し手前の方でも異変が発生しているんだ。魔獣の出現率が非常に下がっている。まるでゴブリンの集落を討伐したあとのように、な」
「なるほど、それで調査隊を出した。で、東に三千歩あたりまでは、伝言鳥は戻ってきた。その後、戻ってこない」
「そういうことだ。頼めるか?」
「少々、お待ちを」
オレは目を閉じ、索敵する。東に三千歩あたり、と。少し先に反応。
「うわぁ」
「どうした?」
「その位置を把握しました」
「ん? おまえのスキルか? まぁ、それは置いておくか。それで?」
「ちょっと、うちのS級にお伺いを立ててみませんと、ね。ちょっとお待ちを」
オレはふたたび目を閉じた。
『ウーちゃんウーちゃん、聞こえますか? どうぞ』トランシーバーか!
少し間が空いたが、返事が来た。
『おお、サブか! どこにいる?』
『ミハス町には戻ってきたよ。みんなはまだ宿屋には来てない?』
『うむ』
『戻ってきたら、ダルトンとランドルフに冒険者ギルドに来るように言ってもらえるかな?』
『わかった。四人は?』
『とりあえず、待つように言っておいて』
『わかった』
『ウーちゃんもラーナも元気?』
『ヒマしておる』
『あはは、確かに元気そうだね。じゃぁ、ふたりによろしく』
『わかったのじゃ』
念話を切る。
「ふたりを呼び戻しています。詳しくはそれからにしましょう。それからここ、資料室がありましたよね」
場所を聞いて、資料を探す。
リーダーたちは報酬受け取りと買い取りを済ませる。
ふたりが来たのは、それからしばらくしてからだった。
オレは資料を持ち出す。
ふたたび、さきほどの面々が揃った。
そこでギルマスに再度、さっきの話をしてもらう。
それからオレ。
「まずは、S級冒険者のふたりに尋ねたい。ヒュージアントを知っているか?」
ふたりの顔が、青くなる。
「そのようすだと、まずい相手らしいな」
うなずくふたり。いや、何人か同意のうなずきをしている。
「まさか」とギルマスの声が震えている。
「そのまさかです。ヒュージアントの巣が見つかりました。四方八方へと斥候が出ており、いくつかは獲物を運ぶ行列を作っています。その範囲内に魔獣らしき姿はあまりありません。おそらくヒュージアントに襲われてしまったのでしょう」
ヒュージアントかぁ、とあちこちから小さく声がする。
「このままだと、範囲を広げて、こちらに来る可能性もあります」
「その前に叩かないと」と焦っているダルトン。「と言っても女王と巣を潰さないと、また湧いてくるよ」
「そうだ」とランドルフも。「まわりのヤツらは繁殖力のない働きアリだ。だからといって、交戦能力はある。一匹はたいしたことはないが、集団になると、手が付けられない。おそらくそれで調査隊はやられたのだろう」
「攻略方法は?」
「大火力で森ごと焼く、それから巣を攻撃する。だが、巣はまるでダンジョンだ。しかもヤツらの身体に合わせてあるから、ヘタをすれば、落下して骨折。そこを襲われる。どこに女王や卵があるのかもわからないから、探すのも骨だ」
「なるほど。大きさも一歩強。単体の弱点は足や体節部分か」と資料を見て、言う。
「巣のまわりは、兵隊アリが守っている。コイツらは単体でデカいし、強い。素早さもある。オレたちタンクが囲い込んで動けなくして、そこをアタッカーや魔法使いが叩くようにしていた」
「オイラは参加しなかった、というか、参加資格でダメだった。でも後方支援をやらせてもらってたんだ。巣はなんとか潰せたけど、かなりの被害が冒険者に出ていたよ。死亡者も本当に多かった」
ゴクリッとノドが鳴る音がした。
「ふたりが体験したのは、別々?」
「オイラが成人して少ししてからの話だから。ランドルフのとは違うね」
「それぞれの動員人数は?」
「二百人強」とダルトン。
「三百人弱」とランドルフ。
「そのくらいは、集めたい、が?」
ギルマスが首を振る。
「おまえたちとソロを含めても百人強というところだろう。あとは、子どもと初心者ばかりだ」
「引退した冒険者は?」
「ほとんどは、ケガがもとで引退したヤツらだ。引っ張り出すのは、どうかと思うぞ」
「別に闘いの場に出すつもりはありませんよ。それで?」
「ううむ……三十数人、かな」
「わかった。ともかく単純に削っていくのは難しそうだ。有効な手立てがないか、考えさせて欲しい」
そこで会議を終えた。
宿屋に帰って、ウーちゃん・ラーナと再会。その余韻に浸ることなく、会議に入る。
「アリに詳しいのなんて、いないよな?」と若者四人に尋ねる。
四人とも首を振る。
「小さいころ」とキヨミ。「アリの行列が、昆虫を解体して、運んでいたのを見たことがありますけど」
そのくらいだった。
「そういえば」とマナミ。「前にテレビCMで、アリを巣ごと全滅させる殺虫剤がありました」おっ、と身を乗り出すオレ。「獲物を運ぶ働きアリに殺虫剤を運ばせて殺すみたいでした」
「あぁ、なるほど。作れるかな?」と知識の書を出して、調べる。それからオレの鑑定能力で、薬剤や素材を当てはめて作れるか確かめる。
「作れなくはないけど」と意気消沈。
「なんか、問題?」とダルトン。
「量だよ。向こうでは、アリというと、こんなくらいの」と親指と人差し指でサイズを示す。「大きさだから、量は必要ないんだが、ヒュージアント用だと一匹用だけでそれなりの量になる。材料が得られても作るにも大変だ。時間も掛かる」
「ありゃ。だとすると、ほかの方法になるね」
知識の書をふたたび開いて、アリについて、調べる。
あっちのアリなら、水攻めという手もある。だが、図体のデカいヒュージアントの巣ともなると、どれだけの水が必要になるか、考えたくもない。アイテムボックスなら問題なく収納できるが。
「先日のゴブリンの集落と同じように」とエイジ。「数を減らしていって、それから巣を攻撃すれば、いいと思うんですけど?」
「それにはこちらの手が足りないんだ。斥候隊程度なら大丈夫だと思う。だけど、行列に手を出すには大変だ。煉獄の実も効きそうにないし」
「確か」とキヨミ。「行列のアリって、フェロモンで道を作っている、って聞いたことがあります。その道を削ってしまうとか、曲げてしまうとか、できないでしょうか?」
「フェロモンか。可能性はあるな」
「雷爆弾は」とハルキ。「ダメなんですか?」
「あれは、範囲がそれほど大きくないからな。一度に十匹くらいがせいぜいだろう。それにヒュージアントに効くかどうかもわからんし」
「ダメなんですか?」
「別に魔法耐性や雷耐性があるわけでもないようだが、体内の構造がふつうの魔獣とは違うからな。まぁ、一度試してみるか」
そうやって、あれこれと意見を出し合う。
食事は、ラーナが作ってくれたので、それをいただく。だいぶ、手際が良くなっている。味も美味しい。
*ヒュージアント(巨大アリ)
小説家になろう ほのぼのる500 著
『最弱テイマーはゴミ拾いの旅
を始めました。』ほかに登場。
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