269【餌付け】
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2話連続投稿します(2話目)
冒険者パーティーのリーダーたちとともに座っているのは、冒険者ギルドのギルマス執務室のソファーだ。
あれから多少の疲れが癒えたところで、カラント村へと戻ってきた。
「お疲れ様でした」とギルマスのダンテさん。スタッフと同じ制服姿なので、ギルマスには見えない。「みなさんのお顔を拝見すると、討伐は完了したと思ってもよろしいでしょうか?」
全員でうなずく。
それからオレが口を開いた。
「本来ならば、ゴブリンの右耳を討伐証明とするところですが」
「さすがに六百匹となると、大変ですからね。無理は言いません」
「代わりに、役付きゴブリンの所持品を討伐証明として提出します」
テーブルにゴブリンの役と品物を出していく。その量にギルマスが固まってしまう。
「以上です」
オレのその声で、ようやく我に返るギルマス。
「こんなにも役付きがいたのですか」
「ええ」とうなずいてから「それからこちらが発見されました」
オレが出したのは、ギルドカード。
「ギルドカード? どういう、ッ! そういうことですか」すぐに気が付いたようだ。
「ここらで」とリーダーのひとり。「行方不明になった冒険者の話は聞いたことがありません。おそらく、商隊の護衛かと。商業ギルドのカードもあることから、そう思います」
「わかりました。お預かりして、確認を取ります。それでゴブリンの死骸は?」
「放置もできないので」とオレ。「マジックバッグに回収してあります。あとで処分します。たぶん、燃やすことになるかと」
「六百匹を入れられるマジックバッグ、ですか?」
「いやいや、もちろん複数に分けましたよ。数は持っていましたから」
「あぁ、そういうことでしたか」と納得するギルマス。
だが、リーダーたちは苦い顔。
彼らには、アイテムボックスのことを話して、内密にしてくれるように、お願いした。みんな、すでにオレたちが、常識外れなパーティーだ、と旅のあいだに知られているので、苦笑いながら、秘匿を約束してくれた。
とにかく、ギルドの資料として残したいので、と調書が取られることになった。
結局、夕方前に戻ってきたのに、調書のおかげで、夜になってしまった。
一階に降りていくと、スタッフ以外に誰もいない。
「みなさん、広場に戻られました」とスタッフのひとり。「食事の用意をしておく、とのことです」
「ありがとう」
討伐報酬は、ここではなく、ミハス町での受け取りとなった。ギルマスからは、ここにはまだそれだけの報酬を支払える余裕がない、と言われた。もちろん、オレたちは快諾した。
そのための討伐証明書をそれぞれに発行してもらって、オレたちは広場へと戻る。
広場に戻ると、情けない顔をした冒険者たちに出迎えられた。
「どうした?」
「あのニオイ、暴力的だよ」と情けない声で答える冒険者たち。「早く食わせてくれよぉ」
指差された方を見ると、オレたちのテントの方だった。それだけでオレは察した。みんなはマナミの料理を待っていたのだと。
オレたちのテント前では、いいニオイをさせた料理たちが出番を待っていた。
「お帰りなさい」とキヨミ。
「ただいま。先に食べてても良かったのに」
「みんなで食べた方が美味しいですから」とマナミ。
ようやく配食が開始された。皿を持ち、順番待ちする冒険者たち。そこにオレたちも並ぶ。
本来ならば、パーティーのそれぞれで、食事の用意をして、食べるものだ。だが、ここしばらく、彼らとは一緒に行動してきた。だから交流も兼ねて、食事を提供し続けていたので、しっかりと餌付けしてしまった。
そのおかげか、道中で、喧嘩らしい喧嘩はなかった。お互いに顔を知っている程度の間柄の冒険者たちだ。一緒に同じ食事を取ることで、仲間意識が芽生えたのかも。だといいな。
「ねぇねぇ、サブ」とダルトンが声をかけてきたのは、翌日の朝食後のお茶休憩に入ったときだった。
「ん?」
「そろそろ、ここを出ない?」
「まぁ、依頼は達成したことだし、そろそろだとは思ってたけど?」
フフフ、とランドルフが軽く笑う。
「ダルトンは、エールが飲みたいのさ。ここみたいに杯数制限なくな」
「よくわかってらっしゃる、ランドルフ」と明るい声のダルトン。「そういうわけだから、出ようよ、サブ」
「理由が締まらないな」と呆れる。
「でも」とハルキ。笑んでいる。「ウーちゃんたちのことも心配ですよね。結構な日数、経ちますから」
「あのふたりか。大丈夫とは思っているけど、確かに心配はしていた。ここにいても用事もないしな。出発するか」
善は急げ、とお茶休憩を切り上げ、キャンプを畳むオレたち。
そのようすを見ていたまわりの冒険者たちが慌てて、リーダーをせっついて、リーダーたちがこちらへとやってきた。
「出るのか?」
「ああ。別に急いでいるわけでもないんだが、呑兵衛が満足するまで酒が飲みたい、と言い出してな」と笑みを見せる。
彼らも釣られて、笑みを浮かべた。
「一緒に出たい。待っててもらえるかな?」
というわけで、また大移動することになった。
みんなが準備しているあいだに、オレたちは先にギルドのある通りに進んだ。両方のギルドに挨拶をするためだ。
もちろん、残る冒険者たちもいるので、そのことも伝える。
両ギルドからの依頼はなかった。
これで憂いなく出発できる。
出発する全パーティーが揃ったので、オレたちは門を潜った。馬たちもいなくなったので、身軽に出発できるのはありがたい。
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