258【塀の外での野営】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
2話連続投稿します(1話目)
ミハス町に到着したのは、夜になってしまっていて、門が閉じられていた。
『やっぱり閉まってたか』
『越えちゃえば、いいじゃん』
『それをやるとね、あとが大変なの。場合によっては、やるけどね。はいはい、馬になって』
『へいへい』
馬化するラキエル。
門近くには、オレたち同様、閉門に間に合わなかった旅人たちが、野営を張っていた。馬車五台が円陣を組んで、真ん中で、焚き火を燃やしていた。魔獣にまわりから襲われないようにしているのだ。
「こんばんわぁ」とラキエルを降りて、声をかける。
「こんばんわ。旅の人かね?」と年配の男性。
「ええ。仲間とここで合流する予定だったんですが、途中時間がかかってしまって。ようやく今、到着したところです」
「そうかい。まぁ、明日の朝までは待つしかない。火に当たるといい。お茶はどうだね?」
「いただきます」
自分の器を出して、お茶をもらう。
息を吹きかけ、少し冷まして、啜る。
吐息が漏れる。
「どこから来なすったね?」
「ミサナ村から。ちょっと距離を見誤りました。いやぁ、まいりました」と笑って見せる。
「見たところ、馬具も着けていないようだが?」
「あぁ、慣れていますんで。こっちの方が速いんですよ、コイツ」
念のために、ギルドカードとプレートを触れ合わせて、持ち馬だと確認してもらう。それでみなさんが安心する。
ラキエルが、甘噛みしてきた。
『なぁなぁ、ゴブリン』
「忘れてた。今やるから」
少し離れたところに連れていき、水桶と飼料桶、それにゴブリンを出す。
『一匹で我慢な』
『ムッ、わかった。明日はちょうだいね?』
『わかったわかった』
首を叩いてやる。
焚き火の近くに戻る。
「よく懐いていますな」
「ええ、おかげ様で。みなさんは、商売で?」
そこに集まっている面々がうなずく。もちろん、護衛の冒険者も何人もいる。
「我々も途中で魔獣に襲われたりしましてね。追い散らしたはいいが、誤って、車輪を壊してしまい、だましだましして、ここまでたどり着いた有様でして」
「こっちは、商品の積み込みが遅れてな」
「どこも似たりよったりだな」
「しかし、一昨日のあれ、びっくりしたよ」
「一昨日?」
「知らないのか? あんだけの地響きを」
「何かあったのか?」
「信じられないかもしれないけどな、スレイプニルの群れが走っていったんだよ」
「おいおい、夢でも見たんじゃないか?」
「夢じゃない。何人も見ているんだ。一頭一頭がデカいのなんの。地響きだけで、みんな、スタンピードかと思ったくらいだ」
「またまたぁ」と誰も本気にしていない。
「失礼」と手を上げる。「彼の話は本当の話です」
「どうしてそうだと?」
「今、そのスレイプニルの群れは、ミサナ村にいます。私は、そこから走ってきました」
「ど、どういうことだね?」
「あとで、商業ギルドあたりで確認してください。実はエルゲン国軍が攻めてきていたんです」
「な、なんだと!」
護衛を含めた全員がオレを見る。
「現在、ミサナ村に駐留していて、これ以上の侵攻はありません。スレイプニルの群れは、そのエルゲン国軍を止めるために走ってきたのです。この群れを率いてきたのは、ベルタルク辺境伯様です」
「おお、あの魔獣退治の辺境伯様か」「あの方がなぜ出てきたのだ?」
「対応できるのが、彼だけだったのではないでしょうか」
「確かにそうかも。で、現在はどうなっている?」
「現在は、話し合いが行なわれています」
「で、兄さんは、そこから逃げてきたんだよな」
「いえ。辺境伯様が到着なさったので、役割を預けてきました」
「役割って?」
「調停役です。足止め役とも言いますが」
「どうやって?」
「話し合いによって、ですね」
「ミサナ村にエルゲン国軍が駐留している、と言ってましたが、なぜですか?」
「本当は、先遣隊百名がここまで侵攻することになっていたそうです。でも途中でオーガの群れに襲われた。駐留軍は先遣隊の帰りを待っていたそうです。でも帰ってこない。そこへ私が現れた、先遣隊全滅の知らせを持って」
「そういうことですか」
「それで先遣隊の遺骸を回収したりなんかしているうちに、ベルタルク辺境伯様がご到着、という次第です」
「しかし、闘いにならなかったのですか?」
「スレイプニルの軍勢を見て、戦意を保てるでしょうか」
「あぁ、そういうことか」
「このまま、エルゲン国へと攻め上がるという話もあったのですが、まぁ、ちょっとした騒動がエルゲン国側にありましてね」
「ちょっとした騒動?」
「まぁ、明日になれば、知れることですからね。エルゲン国国内で謀叛が起こりました」
「はい?」護衛も含めた全員がこっちを振り向く。
「謀叛です。そして、エルゲン国はダイナーク国と名称を変えました」
「ダイナーク?」「ダイナークは確かエルゲン国に滅ぼされたのでは?」
「ダイナーク国の王女様が、エルゲン国の王妃様となったとか」
「確かに、唯一の王族の生き残りだと聞いていたな」
「その王妃様が反旗を翻したのです」
「なんと」
「ですから、エルゲン国軍もベルタルク辺境伯様も寝耳に水でして、もう茫然自失でした」
「そ、それでエルゲン国国王は?」
「そこまでは、伝わってきていませんでした。おそらく、死んでいるのではないかと」
「まぁ、そうだろうな。そうか、そんなことがあったのか」「あそこでの商売は大丈夫だろうか?」
「王城内だけの変化でしょうから、そんなに心配はしなくてもいいかと。ただ、ネホン村以外の向こうの村や町は、住民がいませんから、旅は大変かもしれません」
「住民がいない、とはどういうことです?」
「エルゲン国軍によれば、住民は錯乱しており、彼らの言葉が通じず、剣にも怯えず、自分から死を選んだと」
「いったい何が」
「彼らのひとりによれば、麻薬中毒によく似ていたそうです」
「麻薬中毒! だが、麻薬売買は極刑、持ち込んだだけでも死罪だ。誰がそんなことを」
「わかりません」と答えておくよ。その方が平和だからね。でも不安は残るかな?
その後は、ほかの話題へと移り、いろいろな情報を得た。
不寝番には、参加した。一緒に組んだ冒険者は、スレイプニルについて、聞きたがったが、姿を見ただけだと話した。実際、そのとおりだしね。
深夜、ウルフの群れが近付いてきた。オレは立ち上がり、不寝番仲間にすぐ戻ると言って、ウルフに向かった。
ウルフは、十八匹。オレを見つけて、囲い込もうとしてきた。
オレは、雷爆弾・静をウルフに向けて転がす。一度、避け、ニオイを嗅ぎ、興味を失う。そして、雷が放たれた。
今回は、かなりの個体が生き残った。スタンガンでとどめを刺す。で、収納。雷爆弾・静も回収。今のうちに魔石を交換しておこう、と。
で、焚き火のところに戻った。
「あんた、今、何を?」
「ウルフ十八匹を倒した。ウルフって面白いことに、ひとりで向かうと、飛びかからないんだよね」
「なんか稲光が走ってたよな」
「うん。雷魔法を使った。音がしなかったのは、結界」
「すげぇな。しかも一瞬じゃないか」
「ありがとう。でもオークやオーガにはほぼ効かないんだ」
「いや、ウルフだけでも充分だよ」
その後は、朝まで、魔獣は来なかった。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




