255【ベルタルク辺境伯軍の小人族の視点、その2】
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2話連続投稿します(2話目)
馬の蹄跡を追って、たどり着いたのは、“ネホン”という名の村だった。村を覗くと、まるで馬の生産地にいるかのような光景が、そこにはあった。馬がそこら中に放牧されているのだ。
村人に尋ねると、先日、冒険者パーティー七人組が連れてきた、とか。突然だったが、お金とエサを置いていき、もし売れるときがあったら売ってもいい、と言い、働かせたければ働かせてもいい、とも言ったと。
馬に、キズは見当たらなかったそうだ。
その冒険者パーティーの名前を尋ねると、《竜の逆鱗》と名乗った、と言う。
容姿もこちらの予想にかなり近い。
村人のひとりが、彼らが赤子を連れていた、と情報をくれた。その赤子のために、ミハス町に戻る、と言っていたとも。
商業ギルドか冒険者ギルドはないか、と尋ねると、この村はまだ開拓途中でとても小さく、どちらもまだない、とのこと。
「必要ならば、この先の村にあるよ」と教えてくれた。
村人たちに別れを告げ、先へと進む。
少なくとも、百名もの人間が、忽然と姿を消した。それに関係しているのが、《竜の逆鱗》の七人。赤子のことも不明だ。
夕方には、そこへと到着した。地図上では、ミサナ村。村の入り口には、ふたりの門衛。ふつうは革鎧をするが、彼らは金属甲冑を着けている。明らかにゴウヨーク国の意匠ではない。
オレたちは、物陰に潜みながら、ようすを伺う。しばらくしてから、仲間に周辺調査を指示。スレイプニルは後方で休憩させている。
収集された情報によると、村人の姿はなく、金属甲冑姿の兵士がおよそ五百人。馬もほぼ同数。武器は、剣や槍が中心で、特別なものは見当たらない。
この村は、駐屯地化している、と判明。しかし、大通りが空けられており、少し兵士たちが窮屈そうにも見える。まるで、客を迎え入れるために、今、空けました、と言わんばかり。
仲間内でも、増援が来る、という意見が大半であった。
そこへ仲間のひとりが、注意を門に向けた。全員がそれに倣う。
門に、ひとりの男が出てきた。格好は革のベストに、革のズボン。手足に革を巻いている? 冒険者風だが、剣は佩いていない。
男は、門衛に仲良さげに手を振り、ブラブラと歩き出した。街道脇を入っていく。
索敵担当が、その先に、複数の魔獣がいると教えてくれた。
そちらから、一瞬、光が発せられた。雷にも似ていたが、音がない。
気配を追っていた索敵担当が、驚く。魔獣の気配が一瞬にして消えた、と。
男が何食わぬ顔で、出てきた。
少しすると、索敵担当が新たな魔獣が来た、速度からウルフ系だ、と報告。そのままだと、街道に出てきて、男が確実に餌食になる、と。
そんなこちらの心配もなんのその、男は身体の向きをウルフの方に向けた。ベストから何かを取り出し、両手に持った。
ウルフの群れが街道に出てきた。六匹。
それを見ても、男に動揺はない。それどころか、ウルフの群れに対して、手に持ったものを下手投げで地面に放った。
ウルフの一匹が、一度、引くが、もののニオイを嗅ぐ。が、すぐに興味をなくして、男に向かう。
次の瞬間、ウルフの群れを覆い尽くすように、雷が乱れ狂った。しかも結界があるらしく、音がしない。
十呼吸ほどすると、雷が消え、ウルフたちがバタバタと倒れた。
男はウルフの二匹に手に持ったものを押し当てた。こちらは、バリバリバリバリという音とともに小さな雷が放たれていた。
索敵担当が、あの二匹はかろうじて生きていたが、今ので死んだ、と報告。
こんな短時間で、ウルフ六匹をすべて屠るとは、何者なんだ?
さらに信じられないことが、起こった。
すべてのウルフの遺骸が消えたのだ。
いや、これはおそらくマジックバッグへと収納したに違いない。
遺骸がなくなると、男はこちらに近付いてくる。こちらの存在がバレているのか?
「もしもし、ベルタルク辺境伯軍の方々でしょうか?」
こちらのことを知っている?
「私は、B級冒険者のサブ、と申します。あなた方がスレイプニル二騎での先遣隊であることは存じております。後方には本隊がおり、千人規模の部隊とスレイプニル部隊であることも存じております」
コイツ、どうやって、知った!?
「私は、現在、国王陛下から委任され、エルゲン国との調停を行なっております」
はぁっ!?
オレたちは、つい顔を見合わせた。誰もが理解できない。
「もう一度、言います。私は、現在、国王陛下から委任され、エルゲン国との調停を行なっております。すでにエルゲン国国王陛下へと調停内容の確認書類を冒険者ギルドの魔導通信機を通じて送ってあり、返答を待っている段階です。また、本駐屯地のエルゲン国軍にもあなた方の部隊のことを伝えてあります。彼らはこれ以上の戦闘を行なうつもりはなく、武装解除も厭わない、とのことです」
オレは、意を決して、立ち上がった。本来ならば、危険な行為だ。
彼の近くに出向く。
「私は、ベルタルク辺境伯軍所属、デルフ。この先遣隊の長だ」
「小人族の方々ですね。よろしくお願いします、デルフさん」
彼の言うとおり、オレたちは小人族だ。
「よろしく。スレイプニル部隊のことは、どこから?」
「王都からは、ベルタルク辺境伯軍がやってくることは知らされていましたが、その内容までは知りませんでした」
「では?」
「私の索敵能力と鑑定能力で、知りました。最初に知ったときは、冗談かと思いましたが」と彼は笑む。「あとで見せてくださいね。興味ありますので」
「さっきのウルフを攻撃したのはなんだ?」
「あれですか」
彼がベストからものを取り出した。
「こっちで結界内の獲物を痺れさせます。獲物を無力化できます。こっちも同じですけど、さっきのが複数向けで、こっちは単体用ですね」
「魔導具か」
「ええ。ウルフの前にゴブリン五匹もやりました。うちの従魔のエサなんで。でもウルフは想定していませんでしたね。完全に偶然でした」
「そうか。ところで、君はパーティーに所属していないのか?」
「してますよ。《竜の逆鱗》というパーティーです。今はちょっと責任を取っている感じ、かな」
「やはり、そうか。百名の兵士をどこにやった? 馬は確認したが」
「おや、いろいろ確認したんですか。百名は、先日、この村でエルゲン国軍によって、荼毘に付されています」
「オーガの集落からどうやって?」
「彼らは人間を襲わないで暮らしてきました。話し合う余地があった」
「話し合う? オーガと言葉が交わせると?」
「ええ。当初は、兵士たちに襲われ、怒り狂っていましたが、話し合いの結果、条件付きでの兵士の遺骸の回収に同意してくれました」
「条件とは?」
「私が持っていたゴブリンの遺骸を山盛り、譲りました」
「はい?」
「ゴブリンの遺骸を山盛り」と苦笑。「倒したら、すぐに時間経過なしのマジックバッグに回収してますからね。新鮮ですよ」
「な、なるほど」
この男との会話は、疲れるなぁ。もうクタクタだ。
「デルフさん、本題に移りましょう」
彼の口調が変わった。本題だと?
「ベルタルク辺境伯軍本隊にここへ来てもらうことは可能でしょうか?」
「本隊に? なぜ?」
「エルゲン国国王陛下に圧力をかけるためです。ここの部隊に本隊を見せ、それに対する彼らの抵抗力がまったくないことをわからせることで、本国に報告してもらい、あちらとの交渉を円滑にしたい。まぁ、ここの部隊には、捕虜になってもらうって話もありますけどね」ニカッと笑む彼。悪い顔をしている。
「わかった。総大将に話してみよう」
「頼みます。一応、大通りは空けさせました。本隊すべては入らないとは思いますが」
「援軍が来るから、空けさせたのではなかったのか」
「援軍?」
彼が考え込む。それから言った。
「いませんね。もしそうであれば、交戦の意思あり、と判断して、国王陛下に全軍での行動を進言します」
「つまり、全面戦争か」
「侵略された。だから侵略仕返す。国王陛下もそのおつもりです」
「なるほど。ほかに何か?」
彼は首を振り、手を振って、戻りはじめた。
「また、お会いしましょう、デルフさん」
彼を見送り、振り返って、仲間に指示を出す。三人に見張らせ、オレを含めた残りは、本隊へと報告に戻る。
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