254【ベルタルク辺境伯軍の小人族の視点、その1】
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2話連続投稿します(1話目)
ゴウヨーク国ベルタルク辺境伯軍に所属するオレたちは、新しい国王陛下からの命を受けた。
その内容には、誰もが驚く。なんと、エルゲン国からの侵攻を受けている、というのである。
一刻も早く撃退せねばならぬ、とベルタルク辺境伯様自らの指揮により、オレたちは出撃した。
通常ならば、馬で行く場所ではあるのだが、辺境伯様は重馬隊を使うことを選択された。
重馬隊とは、伝説の魔獣とも神の騎乗する馬とも言われていたスレイプニルを駆る部隊である。この部隊によって、辺境一帯の魔獣狩りが迅速に行なえるようになった。
スレイプニルは、八本脚の馬型魔獣。最初は奇形かと思われていた。ところが、集団が発見され、スレイプニルだと断定されたのだった。
このスレイプニルの集団を注意深く観察すると、好奇心旺盛であることが判明。珍しい人間に恐れもなく、近付いてくる個体もいた。ひとりがちょっとした世話をしはじめると、オレもオレも、と言わんばかりに群がってきた。そこから関係を深めていき、重馬隊となったのだった。
重馬隊のスレイプニルは、従順であり、多少の魔獣にも怯まない、持久力のある頼れる馬である。
しかし、この重馬隊に関しては、箝口令が敷かれた。国内外だけでなく、国王陛下や宰相、その他閣僚にもこの情報を渡せない、と辺境伯様は判断されたのだ。
ただし、ひとりの例外がある。オレたちは、“ジョージ”という名前でしか知らないが、ときおり辺境伯様の屋敷へと訪ねてくる屈強な冒険者がいた。辺境伯様はジョージには重馬隊を見せ、その練度を教えていた。
ジョージが、何者かは、誰も知らない。だが、辺境伯様が誰よりも信頼しているのは、見ていればわかった。
そして、重馬隊のことがウワサにもなっていないことからも、ジョージが重馬隊のことをおのれの胸のうちに収めていることは明らかだった。
「先遣隊二騎、侵攻軍の現在地とその状況を調べよ!」
オレたちが、辺境伯様にそう命じられたのは、部隊が続けていた進軍を辺境伯様が止めたすぐあとだった。
本隊は、そこで侵攻軍との戦闘に向けての準備を整える。移動装備と戦闘装備の切り替えを行なうのだ。また、身体を入念にほぐし、万全の体制を整えておくのだ。
それはさておき、オレたち先遣隊二騎は先へと進む。街道の路面の状態から、まだ集団が通った痕跡は見受けられない。
地図を確認して、この先にひとつの村が。“ケルガン村”とある。村の入り口付近も商人の馬車が走った跡が見られるだけ。
索敵担当を見ると、違う、と首を振る。
だが、ある程度、そこから離れると、街道中央に痕跡が見つかった。スレイプニルの速度を落とし、停止させた。
痕跡は、馬が慌てて反転した跡。七日前後だ。
馬の蹄跡を追うと、何かを避けて、さっきの場所を目指して進んでいた。何を避けたのか。相談の結果、丸太を組んだものだと思われた。通行止めの柵のような。
小屋でも組んだような跡もあったが、ありものをただ置いただけのように見える。
とにかく、ここでふたつの馬が並んでいる。まず、ひとつが先に来て、何かをし、一度戻って、もうひとつを連れて戻ってきた。そこから最初の馬が進み、引き返してきた。小屋のところで、水を浴びた? その痕跡が残っていた。何をしたかはわからないが、人間の足跡も残っていた。冒険者御用達のブーツだ。なんらかの交流があったのは間違いないようだ。
馬の蹄跡を追ってみると、なぜか、森のけもの道へと入っていく。
蹄跡を三人に追わせた。
残りで、馬が来た方角へと遡ってみた。
なるほど。百名ほどの人間が騎乗した馬が、ここで通行止めに引っかかり、ひとりが警戒しながら先に進んだが、なんらかの出来事があり、けもの道を行く必要に迫られた、というところか。
ひとりが、クシャミをした。なんと鼻水を垂らしていた。また、クシャミ。
ようすを尋ねると、空気に刺激物があり、それに反応している、という。しかも水を浴びたと思われるところで、と指差す。
総合すると、こうか。
百名の軍隊が馬で来た。通行止めがあり、そこに冒険者の男ひとりがおり、第一の軍人が何事かを話して、一度引き返し、第二の軍人とともに戻り、また男と話して、第一の軍人がこの先へと向かい、なんらかの刺激物を浴びた。反転して、小屋近くで、水を浴びて、この刺激物を洗い落とした。
この刺激物を回避するには、街道から外れて、けもの道を行くほかになかった、か。
そのけもの道を探索していた仲間が、街道の先から出てきて、戻ってきた。
話を聞くと、オーガの集落跡につながっている、という。馬の蹄跡はそこで散開して闘ったとみられる痕跡はあった。だが、オーガは数日前に魔獣らしき存在に討伐されていて、放置されていた。また、軍人の身に着けていたであろうものが、何ひとつ見つからない、とも。
馬もオーガに食べられたかに思われたが、その骨も革もない。ふつう、オーガはゴミを山のようにしておく習性がある。そこからすると、ない、というのはおかしい。
そして、彼らは、集落を去る蹄跡を見つけ、痕跡を追った。その結果、街道に出てきた、と言う。
ただ、この蹄跡には冒険者とみられる靴跡もあった。五人から七人で、ひとりは大柄、ひとりは小柄。ほかは成人してはいるが、まだ若い。それでもオーガの集落から、落ち着いて、馬を連れ帰る技量のあるところから判断すると、上位冒険者パーティー、と思われる。
小屋の近くにあった靴跡を見てもらう。
けもの道でも同じ靴跡はあった、と証言が得られた。
少なくとも、その上位冒険者パーティーが、関係しているのは、間違いないようだ。
ここでは、これ以上は何もわからない、と判断。街道に出てきた馬の蹄跡を追うことにした。
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