251【騎士の身体】
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2話連続投稿します(2話目)
その夜は、ギルド前の停車場横に、作業小屋を出して、寝ることになった。ギルド内の部屋を与える、とは言われたが、作業もしたいので、と断った。
夕食にも誘われたが、こちらも断った。なぜなら、騎士用の食事だ、内容も知れよう。実際に見ると、塩分濃そうだし、残念なメニューだった。
「食事の席には、いてもらいたいのだが」
「自分の料理を持ち込んで良いのでしたら」
「料理? 自分で作るのかね?」
「当然では? ひとりで旅するとなれば、食材を採取しなければなりません。もちろん、調理済の食料を買い込んで、マジックバッグに入れて持ち運ぶとしても、いつかはそれもなくなる。違いますか?」
「いや、君の言うとおりだ。ちなみに調理するところを見せてもらっても構わないかね?」
「構いませんよ。どちらでやります?」
「火のそばがいいのであろうから――」
「どこでも大丈夫ですよ。ここでだって、作れます」
ここは、ギルマス執務室だ。
「あっ、でも調理の際のニオイが残ってしまうか。別の場所の方が良さそうですね」
「まぁ、どこでも、というのであれば、外でも良いのではないかな?」
ということで、ギルド前で、調理することになった。なぜ?
とその前に、停車場の騎士に、ラキエルが飼料を食べないのだが、と相談された。
「ラキエル?」
『腐ってる。飼葉ちょうだい』
「ほかの馬は平気なのか?」
「与えるものは、食べますよ?」
オレは、少し考えてから、声を張り上げた。周囲の騎士たちに聞こえるように。
「すべての飼料をチェックせよ! 今、与えているエサも取り上げろ! 馬は、騎士の身体だろう! 大事にしないでどうする! 腐っている飼料を与えて、馬が死んだら、騎士として最低だぞ! 急げ、急げ!」
周辺の騎士たちが、キビキビと動き出す。
オレは、容器を出して、飼葉を入れ、ラキエルに出す。
『やった』と容器に顔を突っ込んで、モシャモシャと食べはじめた。
「慌てなくても、取られんぞ?」
『見せびらかしてるの』
馬たちを見ると、ほぼ全部が、ラキエルを見ていた。地団駄踏む馬もいる。
「おまえ、性格、悪いぞ」
『人のことをバカにしていたのは、アイツらだよ。言うにことかいて、野良馬だって、バカにするんだよ。どう思う? それでもオレは性格悪い?』
「悪かった。我慢していたんだな、偉い偉い」と背中を叩く。
そこへ団長さんたち。よくよく聞くと、隊長さんたちは騎士団の長だとか。なので、“団長”さんたちと呼ぶよ。
「何か、あったのか?」
「馬に与えていた飼料が、腐っていたので、すべてをチェックするように命じました。指揮系統を乱した行為、お許し願いたい」
「腐っていただと!?」
「このラキエルによると、まだ死にたくない、とのことでして」
「だが、馬たちは、食んでいたぞ?」
「信頼している騎士たちから、与えられる飼料です。安心して食べられる、と思い込んでいますよ。腐ったものだろうが、出されたものは喰う、というのが、躾られているんでしょうね。疑うなんて考えもありませんよ。あなた方もそうでしょう? 王命が出たら、異議を申し立てもせずに、粛々と任務をこなす」
こんだけの嫌味をどう受け取る?
「あなた方が忌避する冒険者は、自らの判断で依頼を選びます。場合によっては、依頼失敗も受け入れる。それが道義にもとることならば、なおさらに。騎士道を尊ぶのであれば、正しい意見には耳を貸さないと、先遣隊のようになりますよ」
オレは、冷たい目で、団長さんたちを睨んだ。
誰もが、何も返せないでいる。
「それに今さらでしょうが、今回の作戦は、街道ありき、ですよね。街道を進む、ということは、街道脇から襲われる、ということもありえます。街道脇に、弓兵を配置され、一斉射を受ければ、甲冑を着込んだ騎士は大丈夫といえども、馬は確実に動けなくなります。そうなれば、重い甲冑を着込んだ騎士は、馬から放り投げられ、落馬し、甲冑の重みで、かなりの衝撃を受ける。場合によっては、そこを相手の軽装歩兵に倒される。どうです?」
ハッとしている面々。
なんだ、コイツら!
「おい! こら! そのくらいの戦略や戦術を想定せずに、戦ができるか! 街道を進んでいく、ということは、後方からも襲われる可能性もある! さっきの戦法と併用すれば、おまえら、全滅だぞ!」
ようやく、そのことに気付いたらしい。ひとりなどは、震えていた。
「それに別の戦法として、このまわりを兵士で固めて、籠城戦という手もある。そうなった場合、君たちには、餓死か自決か降伏という手しか残されない。勝つことは無理だ」
それを想像したのか、震えていた団長さんが、ヒザを屈した。
「そういうことです。騎士だけで、国を奪うなんて、バカげていますよ。なぜ、騎士が一番強いと考えるのか、そこを考えて欲しいですね。まったく」
どうやら、飼料の問題は、解決したようで、馬たちに新しい飼料が配られた。
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