250【葬送の儀】
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2話連続投稿します(1話目)
遺骸を広場に一体ずつ出していく。
タグが確認され、私物が回収されていく。
先遣隊は、ひとりも欠けることなく、全員が揃っていた。
甲冑が脱がされ、掘られた穴に丁寧に入れられ、焼かれる。そうして、土がかぶせられ、そこに墓標がひとつ立てられた。
「本来ならば」と隊長のひとり。隊長全員がこの場にいる。「連れて帰りたい。すまぬ」と墓標に頭を垂れると、ほかの面々も下げた。騎士たちも。
まぁ、オレが運ぶって手はあるけども、拒否させてもらったよ。一緒にエルゲン国に来い、と言われましても、ねぇ。
そうして、葬送の儀を終え、ふたたびギルマス執務室に戻ったオレらを待っていたかのように、魔導通信機からビープ音が鳴った。
ひとりの隊長が受け取る。
また、ビープ音が鳴った。
これも受け取る隊長さん。
ひと目、見て、オレに今のを差し出した。
受け取る。
あぁ、はいはい。確かにオレ宛てだわ。
一番上のメッセージは、“おまえ、何しに行ってるんだよ!”とダルトンの一筆。
うん、オレにもわからん。
続きは、ランドルフ。こちらも混乱しているようだ。それでも王都冒険者ギルドのギルマスへと通信した、とのこと。ギルマスからは“待機せよ”だとか。
了解了解と。
『サブ?』とラキエルの念話。
『うん、どうかした?』
『どうかした、じゃないぞ! 行ったきり、戻ってこないじゃないか!』
『悪い悪い。ちょっと話が拗れてな。今、迎えに行くよ』
「失礼。すぐに戻ります」
オレは、ドアを潜り抜けると、隠遁して、窓から飛び出した。浮遊して、作業小屋へと向かう。
到着すると、ラキエルがヒマそうにしていた。
地上に降りて、隠遁を解く。
「お待たせぇ」
ラキエルがこちらを見た。
「何か食べたな」
『ツノウサギ』
「そうか。顔が汚いぞ。ほれ、クリア。歯もむき出しにして。うん、クリア。口も開けて、クリア。世話がかかるなぁ」
『ゴブリン用意しないおまえが悪い』
「へぇへぇ。まずは作業小屋を収納、と。これから多くの人がいる駐屯地に連れていくから、馬らしくお願いね」
『別にこのままで、いいでしょ。肉を食べなければ、バレないしさ』
「まぁね。さぁ、行きましょうか」
ラキエルに飛び乗り、街道を進む。
駐屯地の門には、門衛(騎士)がふたり立っている。
だから、止められた。
「ご苦労様」
「あれっ? 我々、通しましたっけ?」
「いや。ここを通ってないから、君たちのせいじゃないよ。通してね」
「はい。どうぞ」
ゆっくりと歩き出すラキエル。でも足が止まった。
『ねぇ、サブ、あの赤いのは、もしかして?』
『うん、煉獄の実を触って広がったあと』
『もう!』
ラキエルは、怒り気味に、そこを飛び越えた。もちろん、余裕を持って降りたよ。
後ろで、門衛ふたりが、おお、と驚いている。振り返って、手を振ってやった。
冒険者ギルド前にいる騎士(馬預かり係)に説明する。
「この子は、ラキエル。裸馬の状態で乗ってきたから、馬具はないけど、大人しいから」
「わかりました。お預かりいたします」
いや、どうやって、預かるのよ、というツッコミはしませんよ。彼の大事な仕事なんですからね。
『ラキエル、彼に迷惑かけないでね。ちょっかい出したくなるのは、わかるけどさ』
『そんなことを言われたら』ムッ、ワクワクしてやがる。
『ダメだからね。オレだって我慢しているんだからさ』
『はぁい』
とりあえずは、信じるか。
執務室に戻った。
「ただいま戻りました」
「あの馬は、君のかね? いい馬だ」
窓辺にいた隊長さん。
「ありがとうございます。でも、アイツとは、従魔契約してしまったので、お譲りできません」
「従魔契約? ふつうの馬では、ないのかね?」
「ええ」
「どう見ても、ふつうの、いい、馬だが?」
「種族は、仕事柄、お教えできないものでして」そう言って、微笑む。
「なるほど。わかった。詮索は諦めよう」
「恐れ入ります」
「しかし」と別の隊長さん。「よく裸馬に乗れるねぇ。しかもあそこまでの跳躍。よほど馬術が上手いのだろうな」
「いえいえ。馬が私の指示に従ってくれるというだけです」
「ほぉ。では、ほかの馬では」
「落とされますね」と笑む。「ところで」
「ん?」
「煉獄の実のあとを埋めたらどうです?」
「舞い上がるのではないのかね?」
「あぁ、触るに触れない、ということですか」
うなずく隊長さんたち。
「帆布で覆うだけでも、風に飛ばされる心配がなくなりますけど」
「なるほど」
ひとりの隊長さんが、騎士を呼んで、指示する。
「オレが指示します。なんか任せると被害が出そうですから」
騎士とともに門前に移動。騎士がほかの騎士に帆布を用意させる。ほかに四人を追加してもらった。重しの木材も用意させた。
「いいか。そっとやれば大丈夫だ。ただし、風が吹いてくることもあり得る。そのときは、目をつぶれ、息をするな。あとはオレの指示に従え。きちんと助ける。いいな?」
はい、としっかりした返事。
「よし。角をひとりずつ、持ってくれ。いいか、風下からではなく、風上から掛けていく。まずは、赤い場所の上に持っていく。そうだ。よし、ストップ。風上側をゆっくり降ろせ。木材、用意。そっと置いて。木材を載せろ。少し弛めてくれ」
ピンッと張っていた帆布が緩く垂れるくらいになった。
そこへ木材の上から、踏み出す。
「オレが進むとともに、降ろしていってくれ。慌てる必要はないぞ」
一歩また一歩と進む。それとともに、帆布が降ろされる。
「最後が肝腎だ。帆布の角を捲った状態で、そっと地面に置くんだ」
ゆっくりと置かれる帆布。
「地面に置いたか?」とそれぞれの顔を確認。みな、うなずく。「よろしい。角から指を離したまえ。木材を置いてくれ」
帆布に木材が置かれた。
「みんな、ご苦労だった。これで被害は出なくなる。手を貸してくれて、ありがとう」
緊張が解けて、みな、いい笑顔だ。
執務室に戻る。
「すまんな、手伝わせてしまって」
「いいえ。騎士の訓練に、あんなことは、含まれないでしょう?」
「確かに」と笑む隊長さん。
「ただし、あれは一時的なものです。強風や突風が来たら、終わりです」
「わかった。注意させておこう」
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