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異世界に勇者召喚されたけど、冒険者はじめました  作者: カーブミラー


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250/648

250【葬送の儀】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。


2話連続投稿します(1話目)

 遺骸を広場に一体ずつ出していく。

 タグが確認され、私物が回収されていく。

 先遣隊は、ひとりも欠けることなく、全員が揃っていた。

 甲冑が脱がされ、掘られた穴に丁寧に入れられ、焼かれる。そうして、土がかぶせられ、そこに墓標がひとつ立てられた。

「本来ならば」と隊長のひとり。隊長全員がこの場にいる。「連れて帰りたい。すまぬ」と墓標に頭を垂れると、ほかの面々も下げた。騎士たちも。


 まぁ、オレが運ぶって手はあるけども、拒否させてもらったよ。一緒にエルゲン国に来い、と言われましても、ねぇ。


 そうして、葬送の儀を終え、ふたたびギルマス執務室に戻ったオレらを待っていたかのように、魔導通信機からビープ音が鳴った。

 ひとりの隊長が受け取る。

 また、ビープ音が鳴った。

 これも受け取る隊長さん。

 ひと目、見て、オレに今のを差し出した。

 受け取る。

 あぁ、はいはい。確かにオレ宛てだわ。

 一番上のメッセージは、“おまえ、何しに行ってるんだよ!”とダルトンの一筆。

 うん、オレにもわからん。

 続きは、ランドルフ。こちらも混乱しているようだ。それでも王都冒険者ギルドのギルマスへと通信した、とのこと。ギルマスからは“待機せよ”だとか。

 了解了解と。

『サブ?』とラキエルの念話。

『うん、どうかした?』

『どうかした、じゃないぞ! 行ったきり、戻ってこないじゃないか!』

『悪い悪い。ちょっと話が(こじ)れてな。今、迎えに行くよ』

「失礼。すぐに戻ります」

 オレは、ドアを(くぐ)り抜けると、隠遁して、窓から飛び出した。浮遊して、作業小屋へと向かう。


 到着すると、ラキエルがヒマそうにしていた。

 地上に降りて、隠遁を解く。

「お待たせぇ」

 ラキエルがこちらを見た。

「何か食べたな」

『ツノウサギ』

「そうか。顔が汚いぞ。ほれ、クリア。歯もむき出しにして。うん、クリア。口も開けて、クリア。世話がかかるなぁ」

『ゴブリン用意しないおまえが悪い』

「へぇへぇ。まずは作業小屋を収納、と。これから多くの人がいる駐屯地に連れていくから、馬らしくお願いね」

『別にこのままで、いいでしょ。肉を食べなければ、バレないしさ』

「まぁね。さぁ、行きましょうか」

 ラキエルに飛び乗り、街道を進む。

 駐屯地の門には、門衛(騎士)がふたり立っている。

 だから、止められた。

「ご苦労様」

「あれっ? 我々、通しましたっけ?」

「いや。ここを通ってないから、君たちのせいじゃないよ。通してね」

「はい。どうぞ」

 ゆっくりと歩き出すラキエル。でも足が止まった。

『ねぇ、サブ、あの赤いのは、もしかして?』

『うん、煉獄の実を触って広がったあと』

『もう!』

 ラキエルは、(いか)り気味に、そこを飛び越えた。もちろん、余裕を持って降りたよ。

 後ろで、門衛ふたりが、おお、と驚いている。振り返って、手を振ってやった。

 冒険者ギルド前にいる騎士(馬預かり係)に説明する。

「この子は、ラキエル。裸馬の状態で乗ってきたから、馬具はないけど、大人しいから」

「わかりました。お預かりいたします」

 いや、どうやって、預かるのよ、というツッコミはしませんよ。彼の大事な仕事なんですからね。

『ラキエル、彼に迷惑かけないでね。ちょっかい出したくなるのは、わかるけどさ』

『そんなことを言われたら』ムッ、ワクワクしてやがる。

『ダメだからね。オレだって我慢しているんだからさ』

『はぁい』

 とりあえずは、信じるか。


 執務室に戻った。

「ただいま戻りました」

「あの馬は、君のかね? いい馬だ」

 窓辺にいた隊長さん。

「ありがとうございます。でも、アイツとは、従魔契約してしまったので、お譲りできません」

「従魔契約? ふつうの馬では、ないのかね?」

「ええ」

「どう見ても、ふつうの、いい、馬だが?」

「種族は、仕事柄、お教えできないものでして」そう言って、微笑む。

「なるほど。わかった。詮索は諦めよう」

「恐れ入ります」

「しかし」と別の隊長さん。「よく裸馬に乗れるねぇ。しかもあそこまでの跳躍。よほど馬術が上手いのだろうな」

「いえいえ。馬が私の指示に従ってくれるというだけです」

「ほぉ。では、ほかの馬では」

「落とされますね」と笑む。「ところで」

「ん?」

「煉獄の実のあとを埋めたらどうです?」

「舞い上がるのではないのかね?」

「あぁ、触るに触れない、ということですか」

 うなずく隊長さんたち。

「帆布で覆うだけでも、風に飛ばされる心配がなくなりますけど」

「なるほど」

 ひとりの隊長さんが、騎士を呼んで、指示する。

「オレが指示します。なんか任せると被害が出そうですから」


 騎士とともに門前に移動。騎士がほかの騎士に帆布を用意させる。ほかに四人を追加してもらった。重しの木材も用意させた。

「いいか。そっとやれば大丈夫だ。ただし、風が吹いてくることもあり得る。そのときは、目をつぶれ、息をするな。あとはオレの指示に従え。きちんと助ける。いいな?」

 はい、としっかりした返事。

「よし。角をひとりずつ、持ってくれ。いいか、風下からではなく、風上から掛けていく。まずは、赤い場所の上に持っていく。そうだ。よし、ストップ。風上側をゆっくり降ろせ。木材、用意。そっと置いて。木材を載せろ。少し弛めてくれ」

 ピンッと張っていた帆布が緩く垂れるくらいになった。

 そこへ木材の上から、踏み出す。

「オレが進むとともに、降ろしていってくれ。慌てる必要はないぞ」

 一歩また一歩と進む。それとともに、帆布が降ろされる。

「最後が肝腎だ。帆布の角を(まく)った状態で、そっと地面に置くんだ」

 ゆっくりと置かれる帆布。

「地面に置いたか?」とそれぞれの顔を確認。みな、うなずく。「よろしい。角から指を離したまえ。木材を置いてくれ」

 帆布に木材が置かれた。

「みんな、ご苦労だった。これで被害は出なくなる。手を貸してくれて、ありがとう」

 緊張が解けて、みな、いい笑顔だ。


 執務室に戻る。

「すまんな、手伝わせてしまって」

「いいえ。騎士の訓練に、あんなことは、含まれないでしょう?」

「確かに」と笑む隊長さん。

「ただし、あれは一時的なものです。強風や突風が来たら、終わりです」

「わかった。注意させておこう」


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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