247【もうひとりの工作員と魔導通信機】
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少し長いため、2話連続投稿します(2話目)
工作員は、もうひとり、いた。商業ギルドのスタッフだ。その場で、拘束。そのまま肩に担いで、ギルマス執務室を訪れる。
「失礼します。私は、鉄級のサブと申します。また、B級冒険者でもあります。ウワサは耳にしていると思います。工作員が潜伏し、知らぬ間に麻薬をばら撒いたことを」
呆然としながらも、うなずくギルマス。
「そして、麻薬の供給を止め、王都へと暴動を起こそうとした」
首を振るギルマス。
「その工作員は、冒険者ギルドにふたり、商業ギルドにひとりいました。彼女がそうです」
キヨミに拘束を解くように言う。
箸のような棒で、拘束を解除するキヨミ。
「ギルマス! 言い掛かりです! 私がそんなことをするわけがありません!」
「まぁ、これを見てからにしてください」
オレは彼女の前に、像を置いた。
次の瞬間、彼女が、ヒヒィッと後退る。
「見事な彫刻ですな」
「ええ。実にもったいないですね。これが麻薬だなんて。しかも高純度。工作員にとっては垂涎の的でしょうね」
手を伸ばしかけたギルマスは、すぐに手を引っ込めた。
「メイフィス君、君の反応で、誤解の余地ないことだとわかったよ。残念だ」
女性スタッフが肩を落とす。
彼女もまた、ほかのふたりとともに、土埋めの刑に。
「まずは、お腹、空いたでしょう? 栄養ポーションを飲んで。大丈夫。毒は入れてないよ。自白剤も入れていない。純粋な栄養ポーションだよ」
三人の猿ぐつわを外す。
「すまないが」と男。「それをひとつにまとめて欲しい。我々ふたりは君の言葉を信じるが、メイフィスは信じられないだろう」
「確かに」
器を出して、彼らの前で栄養ポーションを器に注ぐ。それをスプーンでかき混ぜる。
そこから味見程度の量を取り、自分で飲む。
「これでどう?」
三人がうなずく。
ひとりひとりにスプーンで飲ませる。
「さて、まずは報告ね。昨日、君たちの国の先遣隊百名余りは、壊滅しました」
「なっ!」
「信じられないよね。証拠を出すよ」
彼らの目の前に、一体の遺骸を出す。
「どう? 君たちの国の鎧でしょ? 一応、遺骸はすべて回収したよ」
「ど、どうやって」
「間違って、オーガの集落に突っ込んでしまってね」
「街道を進んでいたはずだ」
「それがね。煉獄の実が大発生して、街道は封鎖されたんだ」
女性ふたりは、なんのことかわからないようす。
でも男は顔色を失った。
「煉獄の実」とつぶやく。
「そう。だから、迂回して、オーガの集落に入った」
「そんな」
女性ふたりに、煉獄の実について、簡単に説明する。
「報告は以上ね。次に聞きたい。まだ後方に部隊がいる。連絡は取れないだろうか? まぁ、煉獄の実の被害にあっても構わない、というなら教えてくれなくても、いいよ」
「信じられないのだが、どうやって部隊配置を知った? 我々でも知らないことを」
「索敵能力と鑑定能力が優れた者がいるんだ。信じられないなら、駐屯部隊に確認の連絡を取ればいい」
「わ、わかった」
彼を地面から引き上げ、クリアする。
駐屯地に魔導通信機で連絡すると、すぐに返事が来た。なぜ、駐屯地の場所を知っているか、と。
何度もやり取りをした結果、男が工作員であることが確認された。
その後、こちらの持っている情報が提示された。
しばらく返信が来ず、雑談をしていると、来た。
「我々は撤退する、か。おそらく進軍してくるだろうな」とランドルフ。
「だね」とダルトン。「撤退する、というのは、こちらからの情報を鵜呑みにしないで、進軍する。そう決定したわけだ」
「まぁ、とりあえず、様子見だな。フロイドル、了解した、と返事をしてくれ」
「わかった」
フロイドルとは、カウンターにいた銅貨隠しの工作員の男だ。
彼が書類に書き込み、その書類を女性スタッフが、魔導通信機にセットして、送った。
「フロイドル、どうすれば、撤退してくれるかな?」
「それをオレに聞くか……まぁ、ほかにいないか。ふむ、遺骸を届けるのは、どうか」
「まぁ、いつまでも持っていたくはないけど。それだけで引いてくれるかな?」
「煉獄の実を手に入れられないか? 無理か」
「それで下がってくれるなら、ここにあるよ」と瓶入りを出す。ドンッ。
オレとダルトンとランドルフ以外が、物陰に隠れる。
「大丈夫。特別製の瓶に入れてある」
「すごい、本物だ」とフロイドル。「よく手に入れたな」
「そっとそっと、瓶に入れて、切り取ったからね」
本当は、アイテムボックスにたくさんしまってあるけどね。
「遺骸とこれで、信じてもらえるかな?」
「少なくとも、検討に値するだろうな」
「ふむ。でも、ただで返すのも癪だな」
「まぁ、そう考えても無理はないが」
「ちなみに、遺骸が彼らの手元にあったら、どうする?」
「連れて帰りたいが、運搬専門の馬車は、少ないだろうから、それぞれのタグや私財の類いを持ち帰るだけだろう。遺骸自体は焼く。おそらくな。鎧や剣は隊長格だけを持ち帰ることはあるかもしれんが、どうかな」
「隊長さんによる、か」
「うむ」
「軍人さんが怖いものって、なんだ?」
「オレの場合は女房だが、先立たれたからな。まぁ、冗談だ。軍人が恐れるもの、それは夢魔だ」一度、苦笑いして、すぐに真剣な顔付きに。
「夢ってことか?」
「そうだ。倒した敵が、実は家族や友人だった、というような、な。悪夢を見続け、寝るに寝られず、睡眠不足となる。場合によっては、錯乱して、仲間を斬りつける者もいる」
「なるほどな。夢魔か。ちなみに、幽霊って、足はある?」
「はい?」
「いや、オレの知り合いの国の幽霊は、足がないんだって。だから、エルゲン国ではどうなのかな、と思って」
「そんな話は聞いたことはないが……少なくとも、足はある。だが、あるのに動かず、宙を進むそうだ。聞いた話だがな」
「なるほど」
「サブ」とダルトン。「悪い顔になってるぞ」
「おっと、いけねいけね」
両手で顔を擦る。
そのあと、オレは自分の考えを形にするのに、時間を費やした。
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