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異世界に勇者召喚されたけど、冒険者はじめました  作者: カーブミラー


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242/648

242【女神像】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。


少し長いため、2話連続投稿します(1話目)


ここから『女神像編』になります。

 オレたちは、隠れ里を旅立った。

 エルゲン国からの帰り道に寄ることを約束して。


 ひとまず、街道へと出る。村までは空から入ったので、わからなかったが、街道への道はないに等しかった。あるのは、けもの道のような道だけ。馬車が通れるような道はない。こりゃ、村に馬車があったら、驚くか。


 街道に出ると、エルゲン国に向けて、移動を開始。馬車はすぐには出さない。なぜなら、村の存在を示す跡は残したくないからだ。そこで、浮遊の魔導具で飛ぶことにした。ケルピー化したラキエルに引っ張ってもらって。ウーちゃんは、特等席のラキエルに乗って。これにはラキエルうれしそう。


 しばらく行くと、街道脇に駐車スペースがあった。誰もいない。

 ここで馬車を出した。馬車に取り付けた浮遊の魔導具を起動して、馬化したラキエルに引いてもらう。

「さて」とダルトン。「旅がはじまったわけですが」と地図を広げる。「エルゲン国までの道の途中には、あと九つの村と三つの町がある。まずは、ミハス町に寄ろうと思う」

 すでに出発前に話し合って、そのことは決定事項だ。

「実はさ、話していなかったんだけど」とラーナを見る。「冒険者ギルドでエルゲン国の情報を集めてみたんだ」

「やっぱり気になっていたか」とランドルフ。

「うん。《龍蛇の咆哮》と出会ったのは、言ったよね」全員がうなずく。「彼らはエルゲン国に行くつもりだったんだ。それでいろいろと情報を持っていた」

「彼らは、行くのをやめたのか?」と尋ねる。

 それに対して、首を振るダルトン。

「状況を見ている状態。どうもきな臭いらしい」

「どういう意味だ?」とランドルフ。

「戦争だよ、バグラールとの。エルゲン国は、バグラールとも接している。でも今まで、軍事的圧力でバグラールの侵攻はなかったんだ。エルゲン国からも。それがバグラールの武器防具が一切なくなった。今度はエルゲン国から侵攻する可能性が出てきた」

「まだ侵攻していないのか」

「《龍蛇の咆哮》が調べた範囲だと、ね。で、オイラがさらに調べた結果、すでにはじまっていた」

「すでに?」

「そう。国境線を押し拡げているみたい。すでにいくつかの砦が落とされているって」

「国土を拡げにきたか」

「エルゲン国内でそれほどの話題になっていないのはね、情報統制しているからなんだ」

「情報統制?」

「うん。国民には、一切知らせていないんだ。国境地帯に軍隊を送ってはいるけどね。オイラが得たのは、そっちからなんだ。軍隊の移動があれば、いろんなところに波及するからね。情報統制されてても、そういうのは止めようがないんだ」

「なるほど。それで?」

「でもバグラールも軍事国家だ。少ない武器を使って、抵抗している。もともとが強い兵士たちだ。簡単には()られない」

「だが」とオレ。「どうして、エルゲン国が侵攻する必要があるんだ?」

 若者四人もうなずく。

「エルゲン国は」とランドルフ。「昔、バグラールに土地を奪われているんだ。しかも肥沃な土地を、な」

「それを取り戻したいんだよ」とダルトン。「武力を高めていたのも、そのため。バランスが崩れれば、そりゃ、攻めるさ」

「国境付近の兵士は、おそらくだが、もともとその土地に住んでいた住民の子孫だろう。取り戻したいと願う意思も強いはずだ」

「なるほどね」

「そんな国がだよ、ラーナを呼ぶってのが、わからない。おそらく結界を使うんだろうとは思うけど、どういう風に使うのかはわからない。ねぇ、ラーナ、サブに会った教会には、サブが来る、どのくらい前に来たの?」

 ラーナが首を傾げる。

 オレがアズマノ国語で尋ねる。

「ふた月だそうだ」

「だとしたら、すでに武器防具は奪われたあとだね。ちなみに、暗殺者に狙われているというのは、誰から? 襲われたことがあるの?」

「教会の神父からだそうだ。襲われたのは、教会到着直前だと。投擲ナイフが結界にぶつかってわかったそうだ」

「あれ? 暗殺者は、結界のことを知らなかったの? おかしくない? それに暗殺者なら、食事に毒を盛ることもできるよねぇ?」

「知っていたが試しに投擲した、警告、毒殺の意味がない、暗殺者なんていなかった」とランドルフ。「最後のは、暗殺者がいると思わせるための芝居、そんなところか」

「それって」とエイジ。「騙されているということですか?」

「可能性はあるねぇ。だいたい王都の混乱の最中に、わざわざ人を運ぼうとするかねぇ。しかも大金かけてまで」

「つまり、それだけの価値がある人物なんだろうな、ラーナが」

「私、知らない」とラーナは首を振る。

「ちょっと待ってくれ」とオレ。「ギルマスは、人と荷物を運んでくれ、と言っていた。人を運んでくれ、ではなく。ラーナ、荷物の中身は? 君の着替え以外に何が入っている?」

「私たち、崇める、像」

 それをマジックポーチから出すラーナ。彼女にもマジックポーチを与えてあった。

「おお」と誰もが唸る。

 それは見事な彫刻が施された像だった。大きさは、三十センチほど。土台の上に立つ女神像だった。柔和な顔立ちで、半眼で、うつむき加減。背中に後光のような透かし彫りの円盤。金箔などは施されていない。木製に見える。

 鑑定してみた。うわぁ。

「ラーナ、これ、何体、ある?」

「これを入れて、十体です」

 オレは頭を抱えた。

「どうした、サブ?」とランドルフ。

「これだよ、本当に運びたいのは」

「まぁ、美術的価値は認めるが」

「見た目はな。一流の彫り師に彫らせたんだろうな。もったいない。これは麻薬の塊だよ」

「麻薬!?」とダルトン。

「ああ。しかも高純度に精製されたものだ。わざわざ木目まで付けているのが、凝っている。もしかしたら、粗悪なものもこんな像にして、運ばせているのかも」

「マヤク、なんですか?」とラーナ。

 アズマノ国語で教える。

「アズマノ国、僧侶、使います。神様、相談、するため」

「それは、頻繁に、ではないだろう?」

「はい」

「粗悪品を少量、使う程度ならば、問題はないんだ。でもこれは」と像を指差す。「少量でも人が狂う」

「狂う?」

「人を殺すことに、戸惑わないようになる。理性がなくなるんだよ」

「それ、大変」

「うん」

「それだ」とダルトン。「それを兵士に飲ませて――」

「自国の兵士にか?」とランドルフ。「違うな。オレだったら、捕虜に飲ませて、送り返すな、麻薬を持たせて。それで仲間を麻薬漬けにする」

「うわぁ」

 オレもそうするだろう。自国民を守るために。

「ダルトン、ランドルフ、これは持ち運ぶべきか?」

「麻薬は、持ち出しも持ち込みも禁止だったはずだね」

「ああ。ミハス町で兄貴に相談しよう」

 オレはうなずいて、応えた。

 すべての像は、オレが預かった。


 ミハス町に到着したのは、その日の夕方。

 ランドルフは、そのまま冒険者ギルドへと入り、オレたちは宿屋を確保する。ハルキが、宿屋の場所を伝えにランドルフのもとへ。


 ふたりは、夜になって、しばらくしてから帰ってきた。

 夕食前に、ランドルフから話を聞く。気になって、食事どころではない。

「そのまま待機。像には手を付けるな。対応を検討する。以上だ」

「その言い方、暗号でやり取りしたの?」とダルトン。

「ああ。内容が内容だからな」

「そだね。ならしばらくはここに滞在か」

「そういうことになるな」

 夕食を摂る。


 その夜は、女性と男性で、ふたつの部屋に分かれた。ほかに部屋がなく、男五人は雑魚寝部屋となった。貸し切りとはなったが、床に直寝という部屋だ。

 部屋を魔導掃除機(もちろん、女子からの要望で作りました。モーターではありません。風魔法です。意外と静かです)で掃除して、持参のマットを敷き、持参の毛布を身体に掛ける。

 魔導ランタンを絞り、横になる。

「旅は」とハルキ。「どうなるんですか?」

「エルゲン国には行けるよ」とダルトン。「でも出られるかなぁ?」

「やっぱり」とエイジ。「国境封鎖ですか?」

「可能性はあるねぇ」

「だが」とランドルフ。「すぐには、そうならない。国民も知らないことなんだからな」

「それでも可能性はあるから。難しいところだね」

「王都まで行くつもりだったのになぁ」とオレ。「鏡を売りたかったよ」

「腐るわけじゃないんだから、いいじゃん」

「そうなんだけどさ」

「旅を楽しみたかったです」とハルキがボソッとつぶやく。

「だな」

「おいおい、旅はこれからだぞ」とランドルフ。「今日、はじまったばかりじゃないか」

「あっ、そうだった」と笑う男子ふたり。オレも。

「このまま、ここで足止めはないからさ。気楽に行こう」とオレ。

「そうそう」とダルトン。「だいたいエルゲン国に行く目的だって、曖昧だったじゃん」

「そうでしたね」と苦笑するハルキ。

「さて、寝よう。明日のためにも」


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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