242【女神像】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、2話連続投稿します(1話目)
ここから『女神像編』になります。
オレたちは、隠れ里を旅立った。
エルゲン国からの帰り道に寄ることを約束して。
ひとまず、街道へと出る。村までは空から入ったので、わからなかったが、街道への道はないに等しかった。あるのは、けもの道のような道だけ。馬車が通れるような道はない。こりゃ、村に馬車があったら、驚くか。
街道に出ると、エルゲン国に向けて、移動を開始。馬車はすぐには出さない。なぜなら、村の存在を示す跡は残したくないからだ。そこで、浮遊の魔導具で飛ぶことにした。ケルピー化したラキエルに引っ張ってもらって。ウーちゃんは、特等席のラキエルに乗って。これにはラキエルうれしそう。
しばらく行くと、街道脇に駐車スペースがあった。誰もいない。
ここで馬車を出した。馬車に取り付けた浮遊の魔導具を起動して、馬化したラキエルに引いてもらう。
「さて」とダルトン。「旅がはじまったわけですが」と地図を広げる。「エルゲン国までの道の途中には、あと九つの村と三つの町がある。まずは、ミハス町に寄ろうと思う」
すでに出発前に話し合って、そのことは決定事項だ。
「実はさ、話していなかったんだけど」とラーナを見る。「冒険者ギルドでエルゲン国の情報を集めてみたんだ」
「やっぱり気になっていたか」とランドルフ。
「うん。《龍蛇の咆哮》と出会ったのは、言ったよね」全員がうなずく。「彼らはエルゲン国に行くつもりだったんだ。それでいろいろと情報を持っていた」
「彼らは、行くのをやめたのか?」と尋ねる。
それに対して、首を振るダルトン。
「状況を見ている状態。どうもきな臭いらしい」
「どういう意味だ?」とランドルフ。
「戦争だよ、バグラールとの。エルゲン国は、バグラールとも接している。でも今まで、軍事的圧力でバグラールの侵攻はなかったんだ。エルゲン国からも。それがバグラールの武器防具が一切なくなった。今度はエルゲン国から侵攻する可能性が出てきた」
「まだ侵攻していないのか」
「《龍蛇の咆哮》が調べた範囲だと、ね。で、オイラがさらに調べた結果、すでにはじまっていた」
「すでに?」
「そう。国境線を押し拡げているみたい。すでにいくつかの砦が落とされているって」
「国土を拡げにきたか」
「エルゲン国内でそれほどの話題になっていないのはね、情報統制しているからなんだ」
「情報統制?」
「うん。国民には、一切知らせていないんだ。国境地帯に軍隊を送ってはいるけどね。オイラが得たのは、そっちからなんだ。軍隊の移動があれば、いろんなところに波及するからね。情報統制されてても、そういうのは止めようがないんだ」
「なるほど。それで?」
「でもバグラールも軍事国家だ。少ない武器を使って、抵抗している。もともとが強い兵士たちだ。簡単には殺られない」
「だが」とオレ。「どうして、エルゲン国が侵攻する必要があるんだ?」
若者四人もうなずく。
「エルゲン国は」とランドルフ。「昔、バグラールに土地を奪われているんだ。しかも肥沃な土地を、な」
「それを取り戻したいんだよ」とダルトン。「武力を高めていたのも、そのため。バランスが崩れれば、そりゃ、攻めるさ」
「国境付近の兵士は、おそらくだが、もともとその土地に住んでいた住民の子孫だろう。取り戻したいと願う意思も強いはずだ」
「なるほどね」
「そんな国がだよ、ラーナを呼ぶってのが、わからない。おそらく結界を使うんだろうとは思うけど、どういう風に使うのかはわからない。ねぇ、ラーナ、サブに会った教会には、サブが来る、どのくらい前に来たの?」
ラーナが首を傾げる。
オレがアズマノ国語で尋ねる。
「ふた月だそうだ」
「だとしたら、すでに武器防具は奪われたあとだね。ちなみに、暗殺者に狙われているというのは、誰から? 襲われたことがあるの?」
「教会の神父からだそうだ。襲われたのは、教会到着直前だと。投擲ナイフが結界にぶつかってわかったそうだ」
「あれ? 暗殺者は、結界のことを知らなかったの? おかしくない? それに暗殺者なら、食事に毒を盛ることもできるよねぇ?」
「知っていたが試しに投擲した、警告、毒殺の意味がない、暗殺者なんていなかった」とランドルフ。「最後のは、暗殺者がいると思わせるための芝居、そんなところか」
「それって」とエイジ。「騙されているということですか?」
「可能性はあるねぇ。だいたい王都の混乱の最中に、わざわざ人を運ぼうとするかねぇ。しかも大金かけてまで」
「つまり、それだけの価値がある人物なんだろうな、ラーナが」
「私、知らない」とラーナは首を振る。
「ちょっと待ってくれ」とオレ。「ギルマスは、人と荷物を運んでくれ、と言っていた。人を運んでくれ、ではなく。ラーナ、荷物の中身は? 君の着替え以外に何が入っている?」
「私たち、崇める、像」
それをマジックポーチから出すラーナ。彼女にもマジックポーチを与えてあった。
「おお」と誰もが唸る。
それは見事な彫刻が施された像だった。大きさは、三十センチほど。土台の上に立つ女神像だった。柔和な顔立ちで、半眼で、うつむき加減。背中に後光のような透かし彫りの円盤。金箔などは施されていない。木製に見える。
鑑定してみた。うわぁ。
「ラーナ、これ、何体、ある?」
「これを入れて、十体です」
オレは頭を抱えた。
「どうした、サブ?」とランドルフ。
「これだよ、本当に運びたいのは」
「まぁ、美術的価値は認めるが」
「見た目はな。一流の彫り師に彫らせたんだろうな。もったいない。これは麻薬の塊だよ」
「麻薬!?」とダルトン。
「ああ。しかも高純度に精製されたものだ。わざわざ木目まで付けているのが、凝っている。もしかしたら、粗悪なものもこんな像にして、運ばせているのかも」
「マヤク、なんですか?」とラーナ。
アズマノ国語で教える。
「アズマノ国、僧侶、使います。神様、相談、するため」
「それは、頻繁に、ではないだろう?」
「はい」
「粗悪品を少量、使う程度ならば、問題はないんだ。でもこれは」と像を指差す。「少量でも人が狂う」
「狂う?」
「人を殺すことに、戸惑わないようになる。理性がなくなるんだよ」
「それ、大変」
「うん」
「それだ」とダルトン。「それを兵士に飲ませて――」
「自国の兵士にか?」とランドルフ。「違うな。オレだったら、捕虜に飲ませて、送り返すな、麻薬を持たせて。それで仲間を麻薬漬けにする」
「うわぁ」
オレもそうするだろう。自国民を守るために。
「ダルトン、ランドルフ、これは持ち運ぶべきか?」
「麻薬は、持ち出しも持ち込みも禁止だったはずだね」
「ああ。ミハス町で兄貴に相談しよう」
オレはうなずいて、応えた。
すべての像は、オレが預かった。
ミハス町に到着したのは、その日の夕方。
ランドルフは、そのまま冒険者ギルドへと入り、オレたちは宿屋を確保する。ハルキが、宿屋の場所を伝えにランドルフのもとへ。
ふたりは、夜になって、しばらくしてから帰ってきた。
夕食前に、ランドルフから話を聞く。気になって、食事どころではない。
「そのまま待機。像には手を付けるな。対応を検討する。以上だ」
「その言い方、暗号でやり取りしたの?」とダルトン。
「ああ。内容が内容だからな」
「そだね。ならしばらくはここに滞在か」
「そういうことになるな」
夕食を摂る。
その夜は、女性と男性で、ふたつの部屋に分かれた。ほかに部屋がなく、男五人は雑魚寝部屋となった。貸し切りとはなったが、床に直寝という部屋だ。
部屋を魔導掃除機(もちろん、女子からの要望で作りました。モーターではありません。風魔法です。意外と静かです)で掃除して、持参のマットを敷き、持参の毛布を身体に掛ける。
魔導ランタンを絞り、横になる。
「旅は」とハルキ。「どうなるんですか?」
「エルゲン国には行けるよ」とダルトン。「でも出られるかなぁ?」
「やっぱり」とエイジ。「国境封鎖ですか?」
「可能性はあるねぇ」
「だが」とランドルフ。「すぐには、そうならない。国民も知らないことなんだからな」
「それでも可能性はあるから。難しいところだね」
「王都まで行くつもりだったのになぁ」とオレ。「鏡を売りたかったよ」
「腐るわけじゃないんだから、いいじゃん」
「そうなんだけどさ」
「旅を楽しみたかったです」とハルキがボソッとつぶやく。
「だな」
「おいおい、旅はこれからだぞ」とランドルフ。「今日、はじまったばかりじゃないか」
「あっ、そうだった」と笑う男子ふたり。オレも。
「このまま、ここで足止めはないからさ。気楽に行こう」とオレ。
「そうそう」とダルトン。「だいたいエルゲン国に行く目的だって、曖昧だったじゃん」
「そうでしたね」と苦笑するハルキ。
「さて、寝よう。明日のためにも」
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