236【もうひとりの聖女】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、2話連続投稿します(1話目)
翌日。範囲限定版結界発生器を村人全員と仲間たちに配る。この上から、結界を張っても大丈夫。ちゃんと実験しましたよ。
村人たちには、ちょっとしたお守り、ということにした。
配り終わると、それぞれに役割を与えて、散開。
ラーナは、炊事の女性たちのいる場所から、マナミに呼ばれた。それでオレを見る。
「行っておいで。さっきのお守りは、結界の魔導具なんだよ。狭い範囲だけのものだから、ラーナが近付いても、なんともないんだ」
「本当ですか?」
「ウソだと思ったら、行ってごらん。大丈夫だから」
彼女はうなずくと、マナミのところにゆっくりと近付く。そして、手を伸ばして、マナミに触れる。それがわかって、オレに笑顔を向けた。
オレも笑顔を返す。
あとは、マナミたちに委ねよう。
オレは、ほかの作業をみんなに任せて、作業小屋での武器作りをする。ナイフと槍先。材料は金属甲冑。ミスリルは残り少ないので入れない。まぁ、ナイフにくらいは、入れてもいい気はするんだけどね。
ひと通り終えて、次は?と書字板を見る。前腕部とスネ部か。スネ部は、できれば、冒険者用のブーツの方がいいと思うんだけど。それはオレには作れないしなぁ。まぁ、出来るところからやっていこう。
作業が終わって、作業小屋を出ると、塀が結構出来上がってきていた。L字型を横に寝かせた形。それが横へ横へと続いている。
高さは三メートルほど、厚さ五センチほど。向こう側が見えなくなるが、魔獣対策としては、充分だ。
その手前の地面に溝が掘られていた。なんだろう? オレの指示にはなかったものだ。
現場監督のエイジを見つけて、尋ねた。
「あれですか? 排水溝です。先日の大雨の雨量を考えると、あれが必要だと思って。いけませんでしたか?」
「いや。オレが思い付くべきだった。ありがとう」
「いえ。ただ、排水先をどうしようかと悩んでいます」
「排水先?」
「今は排水溝を掘っただけです。流れる先がないと、溜まる一方ですから」
「そうだな。門のところでいいと思うけど?」
「やっぱりそうですよね。そうします」
索敵に反応。複数。ゴブリンだ。外に出ている狩人たちは、別方向に行っている。村にいるのは作業中。
ラキエルのエサに欲しいな。
門衛に近付く。
「ちょっと出てくる。すぐ戻るから」
「はい」
少し門から離れ、そこで対魔獣装備を身に着け、隠遁のローブとマスクで隠れる。
すぐにゴブリンを見つけた。六匹。一匹が少し離れている。
まとまっている方に雷爆弾・静を転がす。離れた一匹には、スタンガン。ほぼ同時に殺る。で、回収。
ほかにはいないかな? いた。五匹。
近付いて、殺る。回収。
ほかには、いない。
魔獣、という括りで探す。まぁ、小さな魔獣は外して。
フォレストベア発見。でもこっちに来るようすはない。
ボアー系がちらほら。ツノウサギもあちこちに固まっている。この反応を見るに、子ども連れか。狩らずにおこう。ヘビもさまざまにいる。
装備を外して、戻る。途中で、薬草を自分の手で採る。これが欲しくて出ましたよ、というアピールだ。
門衛に軽く挨拶して、塀の内側に入る。
塀の出来具合を見る。陽が暮れる前には出来上がりそうだ。
作業小屋に入り、書字板を確認。あれやった、これやった、と消していく。
とりあえず、急ぎの仕事は終わった。
今日は、これで終わりにしよう。
作ったものを収納して、作業小屋も収納した。
外のみんなの作業をイスに座って眺める。
単にボーッとする。
ここがどんな村になっていくか、ぼんやりと思い描く。そして、思い浮かんだことを書字板に書き込む。
読み書きはさせたい。
畑も必要。
小さな魔獣を飼う。鳥型魔獣を飼って、卵が欲しい。それでマヨネーズが欲しい!
王家所有地と主張するのは、どうすれば?
ここで取得した素材などを売る(しばらくはオレたちが代理役)。売ったお金で必要な物品を購入する。
服装をなんとかしたい。作る?
ここで調味料の確保はどこまでできる?
特産品を作る? 目立っていいの?
夕食。お茶休憩。
ラーナがお礼を言ってきた。例の魔導具についてだ。
そのことにうれしい笑みを向けた。実際にうれしい。彼女がふつうの生活に近いことができるのは、彼女にとっては、よろこびだろう。今まで不自由な生活を強要されてきたのだから。
仕方ない部分はあるが、それでもふつうを求めるのがふつうの人間だ。少なくとも、そう思う。
ラーナのよろこびは、みんなに伝播し、この場が幸福に包まれる。彼女こそが、聖女と言わんばかりに。
実際、そうなのかもしれない。
マナミも聖女だが、ラーナの場合、人々を癒やす力としては、ないに等しいのかもしれないが、純真さゆえの心の平穏を与える気がする。
つまり、彼女こそ、聖女なのではと思うわけだ。
それとも、ふたりでひとつの聖女なのかもしれない。
まぁ、そちらは今、考えても仕方ないことか。
いい気分で就寝。
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