235【仕事が増える】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、2話連続投稿します(2話目)
「まぁ、オレとしては」とオレ。「与えてもいいとは思うが、ものは限定したいかな」
「どうしてさ?」
「選択肢が増えると、どれを使うべきか、悩むだろ」
「まぁね」
「それに魔石が必要になる。頻繁に使えば、魔力がなくなる。切れたときが悲惨だ。入れ替えている時間はない」
「なるほどねぇ。ちゃんと考えているんだぁ。感心感心」と茶化すダルトン。
「とりあえず、魔導具はなし、でやろう。武器は、ナイフと槍。盾はどうだ?」
「体力的に大きいものは無理だな」とランドルフ。「それよりも腕を守るものが欲しい。魔獣の多くは、腕に噛みついてくる。牙の食い込み、破壊力。それらから腕を守れれば、次の行動に移ることが可能だ。もちろん、ベア系魔獣は腕を振り下ろしてくるから役には立たんが、それは盾でも同じだ」
「食い付かれるっていうと、ここだね」とダルトンが自らの腕を持ち上げ、前腕部を叩く。「身を守ろうと、腕を上げるから、ここに食い付かれる」
「できれば」とランドルフ。「ヒザから下もだな。小さな毒ヘビなんかに噛まれないように」
「それは大事だね」
「ふむふむ」オレは書字板にメモる。途中で思い出した。「彼ら、革のクツだったよな。ヘビの牙は大丈夫なのかな?」
「無理じゃないかなぁ」
「たいしていい作りはしていなかったな」
「ならクツから考えた方が良さそうだな」
「仕事が、増えたな」クククッと笑うランドルフ。ダルトンも笑っている。
「まぁね。でも、ひとりで作るわけじゃないから、少しは気が楽だよ」
お茶を啜る。
「それから」とオレ。「塀をどうしようか?」
「今、あるのは、塀というよりも柵だよねぇ」
「今後のことを考えると、やはりきちんとした塀の方がいい」
「そうだよな。そして、内側に畑を作れば、作物ができる。子どもでも世話をして、採取が可能だ」
「およ、畑を作るの? まわりにいっぱいあるのに?」
「そっちの採取は、ある程度の年齢の子どもが行ける。それに畑があれば、薬草なんかの勉強にもなる。外に出られるようになっても即戦力だ」
「なるほどねぇ」
「できれば、小型の魔獣を飼いたいところだが」
「魔獣を飼うだってぇ!?」と驚いて立ち上がるダルトン。
「食料として、だな。狩りに行かずとも狩れる。鳥型魔獣なら卵も得られるだろ?」
「へっ? ラ、ランドルフ、採れるの?」
「わからん。サブ、卵の中は、ヒナだぞ」
「あれ? 産み落とされた卵の中身を知らない?」
ふたりが首を傾げる。そういえば、この世界で、鳥型魔獣は知っていても、その生態を知っている人は少ない。日本人みたいに卵を割ったら、液体が出てくるなんて、知らなくても仕方がないか。
「ランドルフが言うとおり、中身は、ヒナだ。でも最初からヒナではないんだ。最初、卵の中身は、栄養素と子種が入っている。子種が成長していって、ヒナになるんだ。その栄養素を得たいんだよ。だから産みたてが一番いい」
「食べるの?」
「食べるんだよなぁ」
「食べるよ。卵が手に入ると、マナミが美味しい調味料を作ってくれる。ハマるぞ」
ここで言っているのは、マヨネーズのことね。
ふたりがゴクリッとノドを鳴らす。うん、このふたりもマナミの料理の中毒患者だね。かくいうオレも、だけど。
「まぁ、魔獣を飼うのは、追々だな。とにかく、明日は土魔法で塀を作ろう、と思う。いいか?」
ふたりが、うなずく。
「まずは、薄い塀を立てよう。それを補強するように厚くしていく。それと監視塔も立てたいな。まぁ、後回しでいいか」
「門も」とランドルフ。「ちゃんとしたのを作らないとな。全員が入ったら、閉めておく。そうすれば、魔獣に入られずに済む。よそ者が来ても、追い返すことが可能だ」
「そだね。あっ、ねぇ、サブ」
「ん?」
「ここを王家所有地ってことにできないかなぁ? 別に本当にそうする必要はないけどさ」
「王家所有地か」とランドルフも考える。
オレは王城から奪った書類から、所有地に関するものを引き出して、読む。
「王家所有地は、いくつかあるし、今は書類も地図もないから、ここがそうだ、と主張したら、ふつうの人たちには通ると思う。問題は、この領地を治めている領主には通用しない、ということかな」
「領主がここを知るときは、彼らも力をつけていて、移動にも苦労はしないでしょ」
「それもそうか。ふむ、そうしよう」メモメモ。
そのとき、コンコンコンとノックの音。
ドアは開いている。
そちらを向く。マナミだった。
「いいですか?」
「どうぞ」
「あの、相談があるんですけど」
「なんだろう?」
「ラーナのことなんですけど、みんなの輪に入れるようにできないでしょうか? やっぱり彼女ひとりにすることが、気になってしまって」
「だよな。彼女にも仕事を手伝ってもらいたいんだが、結界の問題があるからなぁ」
「結界に入るには」とダルトン。「結界の魔導具で入れるんだっけ?」
「そう」
「なら逆に、魔導具の結界の中には、入れる?」
「入れる。来るか行くかの違いだな」
「ならば、この村の中を結界で覆えない?」
「つまり、大きな傘の下に、彼女が入ればいい、と?」
うなずくダルトン。
「ちょっと待ってくれ。仕様書を確認するから」
脳内で鑑定さんが、仕様書を出してくれる。
「かなりの魔力を消費するなぁ。というか、そこまでの広さにはできないよ」
「あの」とマナミ。「別に高さは必要ないですよね。ならば、ある程度の範囲の結界を村中にばら撒くのは、どうでしょう?」
「シャボン玉でこの村を埋めるイメージ?」
「そうですね」
それをイメージすると、鑑定さんが、答えを出してくれた。
「なるほど。かなりの数を用意しないとダメだな。それに魔力消費量も多い。これだけ作るんなら、ひとりひとりに持たせるよ」と笑った次の瞬間、自分が言った言葉に驚く。「そうか。そうすれば、いいんだ」
三人がポカンッとしている。意味もわかっていない。
「つまり、ひとりひとりに魔導具を持たせるんだ。自分を薄く覆う程度の結界を張り続けるんだ。それでラーナの結界に入れる。入っても魔導具は切らずにいる。それでも魔力消費量は、そんなに多くはない。魔石に魔力を充填するのは、ラーナの役目とすればいい」
「おい、サブ」とランドルフ。「また、仕事を増やしたぞ?」とニヤける。
「はいはい、頑張りますよ」ため息ひとつ。
夕食して、お茶したあとは、限定版結界の魔導具を大量生産し続けた。魔石をセットしたら発動する形の範囲限定版結界発生器。これを付けていれば、ラーナに近付くことも近寄られることも、意識する必要がなくなる。
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