231【村人への施し】
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少し長いため、2話連続投稿します(2話目)
なんと彼らは食事用の器も持っていなかった。
エイジとハルキに、土魔法で器を作らせた。それをお風呂のお湯の中に入れて温める。温かい料理が冷めたら美味くないからね。いや、マナミの料理は冷めても美味いよ。本当だよ。
それから土魔法で、テーブルも作らせた。立ち食いさせるのだ。
村人たちは、目をまん丸にして、それを見ていた。子どもたちは、すごいすごい、とよろこんでいる。
そこへダルトンとランドルフ、それにウーちゃんもが、スープの入った鍋を持って出てきた。
鍋をテーブルに置いて、温まった器に、お玉で入れていくダルトンとランドルフ。
カラになった鍋を持って、小屋に戻るウーちゃん。
オレは、村人たちに列を作らせ、ひとりひとりに器を渡していく。
「具材は入っていないけど、あとから料理が来る。スープを飲んで待ってて」
受け取った器からスープを飲んだ何人かが、美味い、美味しい、と声を上げる。
まだ受け取っていない人たちが期待しているのがわかる。
ダルトンとランドルフが、カラの鍋を持って、小屋へと戻る。だが、すぐに戻ってきた。大皿を持って。大皿には、山盛りの料理。
なんだ? 薄い餃子の皮に包まれた緑の具材。それに餡が掛けられている。
「ひとり三つだって」とダルトン。
オレたち三人で、スープを飲み終わった人たちを並ばせて、それを三つずつ分けていく。
新鮮な草だ、美味い、という声が上がる。
なるほど、サラダを衣で巻いたのか。春巻きの一種?
次に来たのは、焼いた肉を三センチ幅で切り分けたもの。こちらも三本ずつ。
最後に、切り分けた果物。
「ありがとう、サブ」とゾーンから礼を言われた。
「礼には及ばない。お詫びなんだからさ」
「いいや。人間の食べ物を与えてくれた礼だ」と村人たちを見るゾーン。やさしい目をしている。
「そうか。ところで、ギルマスを殺ったのは、どのくらい前だ?」
彼の顔が歪む。
「わからぬ。生きていくのに必死だったから」
「そうか。でも子どもたちはここで生まれたんだろう?」
「ああ」
その子どもたちの多くは、腹が満たされ、眠くなって寝ていた。
「とすると、一番大きな子からして、七年、かな」
栄養状態がよくなかっただろうから、本来よりも小さいとして、そのくらいだろう。鑑定さんも肯定してくれる。
「七年か。そうかもしれん」
遠い目をするゾーン。これまでの月日を振り返っているのだろう。
「よく頑張ったな。ゾーンも彼らも」
「ありがとう」
感傷に浸っている彼には申し訳ないが、彼の肩を叩く。彼がオレを見る。
「おまえたちは、ここに住み続けたいんだよな?」
「もちろんだ」
「だが、人間らしい生活も求めている。そうだな?」
うなずく。
「ここでそれを求めるのは、君らだけでは厳しいぞ」
「わかっては、いる」渋々、認めるゾーン。「だが、ここにいる誰も、どうすればいいのか、がわからない」
「そうだ。まさか、器までないとは、思わなかったよ。よくぞ、生きられたものだ」
「森の恵みのおかげだ」
「だが、有効活用していない。それを教える。今日から大変だぞ」
「教えてくれると言うのか。なぜだ?」
「あの」と村人たちを指差す。「幸せそうな笑顔を、また以前の苦しい生活に戻したいか? 答えは、それだけだよ」
「あぁ、そういうことか。では、頼む」
「任された。でも努力はしてもらわないと困るぞ」
彼がほくそ笑んだ。
「確かにそうだな」
一度、小屋に引っ込み、自分たちの朝食を食べる。そこで、この村の過去、現在、未来を話す。それから、ここにしばらく留まり、彼らにいろいろな知識を与えて、生活向上させる、と宣言した。
「そんなことだろうと思ったよ」とダルトン。
「別に反対はしない」とランドルフ。
「オレも反対しません」とハルキ。
「オレも」「私も」「同じく」
「ラーナは?」
「生活、続く、うれしい」
「ウーちゃんは?」
「お風呂があれば、どこでも良いぞ」
「そうでした。了解。ありがとう」
「で、何からはじめるのさ?」
「基本の衣食住。でも衣服は後回し。食はとりあえずこちらで提供して、後日、狩りや採取に移す。住居はあるけど、快適とは言えない。表であれだから、中身もたいしたことはないだろう」
「そうだな」とランドルフ。「だが、水は問題ないのか?」
「忘れてた。濾過装置は、原始的なものは簡単に作れる。でもそのあと、煮沸消毒は必要だな。それに使う薪が多くなるのは問題だ。かといって、魔導具なんて使っていたら、魔石を消耗する。やはり、クリアの魔法を教えるのがいいだろうな。常に使うようにしてもらえば、病原菌を身近から減らせるからな」
病原菌のことは、以前に話してある。だから、ダルトンもランドルフも引っかからずにスルーしてくれる。
「魔法は」とエイジ。「どこまで教えるつもりですか?」
「まずは、生活魔法だな。次に防御。最後に攻撃。まぁ、得手不得手があるから、注意しながらってことになるな」
「ラーナちゃんにも」とマナミ。「教えていいですか?」
「あっ、そういえば、そっち方面、何も教えてなかった。いいけど、魔力量が結構あるから、注意してね」
「えっ? あっ、結界魔法ですね」
「なぜかはわからないけど、魔力量があんまり減らないんだよね。常時使っているから減りそうなものなんだけど」
「じゃぁ」とキヨミ。「コントロールしないとまずいですよね」
「うん。確実にイメージを持たせないと、とんでもないことになりかねない」
「わかりました。気を付けます」
まずは、全員の鑑定をすることからはじめた。魔力量やスキルなどをチェックするのだ。これが結構大変な作業。
すべてをオレが見るのは、効率が悪い。そこで若者四人に鑑定してもらい、紙に記入していってもらう。
村人たちは、誰も識字できない。その教育も課題になる。
ちなみに、紙は以前に不織布を作った際に、同様の工程で、材料を変えて、調整すれば、出来ることを知り、大量に生産しておいた。普段、使わないが。
同じく、鉛筆も作った。消しゴム的なものも。
四人の鑑定で、出てこない情報を紙に書き込むのが、オレの仕事だ。
面白いことに、すでに魔法を使っている人もいた。それは生き残るための方法として、得た力だろう。だが、活用するまでには、達していなかった。
そうした個々の能力を顕在化させて、有効活用するのが、目的だ。
中には、魔力量がほとんどなく、魔法が使えない者もいたが、魔力を身体に巡らせる訓練をして、しっかりしたイメージを作ると、手のクリアくらいなら、日に数回使えるようになった。
もちろん、なぜクリアを覚える必要があるのか、をきちんと教える。病気のもとが、手について、病気になり、死にやすくなる、と。もうしつこいほどに徹底させる。
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