230【村人との交渉】
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少し長いため、2話連続投稿します(1話目)
「ところで、この村は、なんという村でしょうか?」
人々の気配が変わる。殺気に。
「わかっています。ここが隠れ里だと」
「どうしてそう思う?」
「新しい村かもしれない、と最初は考えました。でも百人以上の村人。子どもが生まれて育つだけの年月が過ぎている。それなのに最新の地図に載っていない。それにあなた自身で言っていました、何が売れるかわからない、と。本来の村ならば、ほかの村や町と交流がある。だから、何が売れるのか、わかっているものです」
「なるほど。オレの迂闊だったな。そのとおり。ここは隠れ里だ。知られては生かして帰せぬ」彼は自分の武器を構えた。
彼の後ろの村人たちも。
覚悟した顔付き。本気で来るだろうな。
「そう言うと思いました。あなた方全員が相手でも、オレはひとりで闘うでしょう」
「ほぉ、護衛を呼ばずに、かね?」
「オレは商人でもあるが、B級冒険者でもある。その意味がわかるかな?」
「び、B級だと!?」
「従魔がいようがいまいが、な」
オレはアイテムボックスから魔導具装備を出して、身に着ける。普段は単体で使用するが、こうして身に着けることで、相手を威嚇する目的もある。もちろん、対人装備だ。魔獣相手に装備しても虚仮威しにもならないからね。
背中は小屋のドアだ。前と横だけに注意すればいい。相手の武器もたいしたものではない。剣術なども習っていないだろう。
「それから、オレたちを殺しても商品は手に入らない。なぜなら商品は個人用マジックバッグに入れてあるからだ。オレたちが死ねば、どんなことをしてもマジックバッグは開かなくなる。信じられないのであれば、試してみるがいい」
オレは、スタンガンを左手に持った。そして、前に突き出し、スイッチを入れた。バリバリバリバリ。
音と雷に、村人たちは怯む。
「こちらとしては、命のやり取りよりも、物品のやり取りの方が、うれしいんですがねぇ」
右手で結界を張る。これで弓矢や投擲武器は効かない。もちろん、剣なんかも。
それから、空いた右手に雷爆弾・静(対人タイプ)を握る。いつでも起動できる。
「みなさんを殺したあとは、女子どもを奴隷にしましょうか。その前に慰みものかな?」
男たちの顔付きがさらに強張った。武器を握り締める手が震える。
「なるほど。あなた方は、奴隷商から逃げ出した方々ですね。それとも買い上げられたが、酷い仕打ちを受け続けた。違いますか?」
「そうだ。彼らは何も罪を侵していない。だが、捕まった、奴隷商の手下に。それから売られた。人を動物のように扱うクズに。生かしも殺しもしない扱いに、オレは我慢ができなかった。計画を立て、手筈を整え、実行した。クズを含めた屋敷の全員を殺した。屋敷に火を掛けた。それから彼らを連れて逃げた。そうして、今、ここにいる」
「基本的には、想像どおりだな。だが、その話から、おまえが奴隷ではなかったことが、わかる。おまえは何者だ?」
「クズの用心棒だった」
「なるほど。クズの近くでその行ないを見守ってきたのか。手筈を整えるのは、大変だっただろう」
「仲間がいた。一緒に逃げた。だが、魔獣にやられて死んだ」
「そうか。なぜ商業ギルドに助けを求めなかった?」
「ふん。クズはその商業ギルドのギルマスだったからだ」
「あっ、そういうことか。わかった」
オレは、装備を外して、しまった。結界も解除したので、丸腰だ。
「悪かったな、いろいろと嫌なことを言って。そんなことはしない、と誓うよ。この命に誓って。魔法契約してもいい」
「どういうことだ?」彼の表情が歪む。オレの言っていることが理解できないのだ。
「君たちのことは、誰にも言わない。そういうこと。まぁ、簡単に信じられないのは、わかる。だが、君たちが家族や仲間を守りたい気持ちは、充分に伝わった。まぁ、それでもオレの方が勝っただろう。虚しい結果になるがな」
村人たちが、ざわざわしてきた。
ゾーンは、オレを睨んでいる。
「ゾーン、ひとまず、武器をしまおう。しばらく、滞在するから。話は落ち着いてからにしよう。どうだ?」
ゾーンは、少し考え、うなずいた。それから言った。
「わかった。水と食料はあるか?」
「充分にある。そっちはどうなんだ? あまり食べていないみたいだが」
「正直、そのとおりだ。水も大雨で泥が混じっていた」
「まずいな。ひとまず、こちらで用意する。水もだ。これは勝手にこの場所を占拠してしまったお詫びと思って欲しい。調理器具はあるか?」
「調理器具?」
「あぁ、その顔じゃ、鍋もなさそうだな。とにかく、それも準備するから」
オレは、ドアの内側に入る。それからキッチンへ。女子三人が仕上げに入っていた。
「マナミ、今から村人たちに食事を振る舞いたいんだが」
マナミが笑顔のまま、固まった。ちと怖い。
「それ、終わってからでいいよ?」つい弱腰になってしまう。
「何人でしたっけ?」と笑顔のままで、聞いてきた。怖い。「確か、百人以上でしたよねぇ」
「う、うん。まずは、スープでいいから。彼らもちゃんと食べていないみたいでさ」
笑顔が消えた。真剣な顔付き。
「食べていないんですか?」
「雨で水も汚れてしまったって」
「わかりました。みんなを起こしてください」
「わかりました」
オレは踵を返して、キッチンをあとにした。
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