227【大雨の中の仲間たち】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、2話連続投稿します(2話目)
翌朝。オレは寝不足だった。気になって、監視していたのだ。これといった異変はなかった。
窓の外は、大雨の音しか聞こえない。降り方は音に強弱がある。だが、全体的には大量に降り続いている。
こんなとき、天気予報があれば、と何度思ったことか。でも鑑定さんの反応はない。
「酷い顔をしておるのぉ」
「おはよう、ウーちゃん。早いね」
「おまえと同じじゃ。ほれ、食材と道具を出しておけ。ラーナに作らせる。朝食まで眠るのじゃ」
やさしいねぇ、ウーちゃん。抵抗してもムダだな。
「了解」
朝食に起きる。少しは気分がいい。
ラーナの料理は、美味い。品数は少ないが、ひとつひとつに集中したのだろう。充分だ。
それを食べ、お茶休憩。
「さて、外は大雨。向こうも大雨。川のようすは、昨日より酷くなっている。おそらく、みんなは大雨で視界が悪く、状況を把握できていないだろう。動いていないのは、その証拠だと思う」
ふたりがうなずく。
「手遅れにならないうちに彼らと合流するぞ。ラーナの結界があるから、オレとラーナは大丈夫だろうが、ウーちゃんは前を見るのも大変だよな」
「うむ。目に雨粒が当たって、辛いのじゃ」
「だろうね。そこで結界の魔導具を着けるから、安心して」
「良かったのじゃ。ぬれるのは気にならんぞ」
「まぁ、湖に潜っていたんだから、当然だけどね。でだ、距離を考えると、ふつうなら半日と少し。この大雨を考えると、もう少し速度が落ちる。ウーちゃんが疲れるかもしれない。ウーちゃん、無理はダメだよ。向こうに着いたあとも走る必要はあるからね」
「そうか。合流するだけではいかぬか」
「うん。そこから安全な場所に移動する必要があるんだ。だから、無理はダメ。休憩しながら行くよ」
「わかったのじゃ」
軽く準備を整え、一階に。
食堂は朝食を食べる人がちらほらいた。
女将さんは、そこで働いていた。
「女将さん」
「おはよう。食べるのかい? 金取るよ」と笑顔。
「いえ。もう出発しますので」
その場の全員が身動きを止め、こっちを見た。それから女将さんと一緒になって、止めてくれる。
「ご心配、ありがとうございます。でも大丈夫です。雨具がありますから」
「いや、雨具があったって……ああ。そういえば、あんた、昨日、ぬれてなかったね」
「ええ。スキルで道もわかりますから。本当は夜通しでも移動できるんですけど、それをやっちゃうと魔獣に襲われてしまうので、自重しています」と笑む。
「でも地面はぬかるんでいるぞ」とひとりの客。
「そこは頑張ります」としか言えない。
「どうしても行くのかい?」と心配げな女将さん。
「無理はしません。途中で雨宿りしながら行きますので」
「わかったよ。本当に無理だけはしないでおくれよ」
「はい。お世話になりました」
とっとと宿屋を出る。ふたりはすでに雨の中。ラーナの結界でぬれはしない。でも足元はちょっと泥跳ねしている。
「ウーちゃん、馬になって。ここへは馬で入ってきたからね」
「おお、そうじゃった」
裸になって、馬になるウーちゃん。服はオレが預かる。離れ離れになったら、ウーちゃん、裸ん坊だな。
馬になったウーちゃんに、ラーナを乗せ、その後ろに乗る。
『そういえば、ウーちゃん』
『なんじゃ?』
『この状態でも雪走りってできるの?』
『うむ。では、それで走ろうか』
『門近くまでね。少しも跳ねないのは不自然だから』
『うむ。わかったのじゃ』
門に近付くと、門衛にも止められた。
あれこれと説明して納得してもらった。
「自己責任だからな!」
「もちろんです!」
お互いに大声なのは、大雨で聞こえにくいから。でもこちらの気合いが伝わったようだ。通してくれた。
門から十メートルほどで、後ろを振り返ると、大雨のカーテンで、門がかろうじてわかるだけだ。
「首に魔導具を着けて、と。よし、ウーちゃん、ケルピー化して、行こう。途中で大きくなって、速度を上げよう」
ヒヒーンッと嘶く馬ウーちゃん。あら、そんなこともできるのね。
で、ケルピー化に大型化。
大雨の中を駆ける。
途中、何度かの休憩(地面に降りて)を取り、さらに進んだ。
その都度、時計を確認していたが、到着したのは、もうすぐ夕方という時間だった。まわりは大雨で、ちっとも時間がわからないけど。
「到着。このあたりのはず。ウーちゃん、小さくなって」
縮むウーちゃん。
『地上に降りよう。ゆっくりでいいよ。街道の上のはずだけど、脇の森に突っ込むかもしれないからね』
ゆっくりと螺旋を描きながら、降りていくウーちゃん。
索敵にみんなを捉えているが、大雨でまったく見えない。それでも下方はラーナの結界で、状態がわかる。
いた。馬車とラキエルだ。
『今のところにいたよ。地面は水浸しだね』
『どうするのじゃ?』
『もう少し降りて、みんなのまわりを確認しよう』
地上から一メートルほどの高さをグルグルとまわる。オレたちに気付いたラキエルが首を上げ、嘶く。
それに気付いたみんなが幌の下から外を伺う。
元気そうだ。だが、車輪が半分近く水で埋まっている。ラキエルも。
「向こうに! 行ってくる! 待ってて!」
「はい!」
オレは、浮遊と結界の魔導具を起動。ウーちゃんから離れる。
御者台に降り立ち、結界を解くと、幌の中に飛び込んだ。ぬれちった。
「大丈夫か、みんな!」
みんなが、頭を突き合わせる。
「大丈夫だ!」とランドルフ。「なんで、この雨の中を来た!」
「この先の川!」と指差す。「氾濫して危険な状態だ! 急いで離れるぞ! 準備!」
そのひと言でみんなが動く。
オレは、ラキエルの手綱を解く。
『ラキエル、ケルピーになってくれ。ここを離れる』
『わかった』いい返事。待ってました、って感じだな。
みんなの準備ができた。
「結界で雨を! 浮遊でウーちゃんへと向かってくれ! オレは馬車を回収する!」
『ウーちゃん、巨大化して、みんなを頼む』
『わかったのじゃ』
「ちなみに! ウーちゃんに! 乗っている女性は! お客様だ! 手を出すなよ!」と笑ってやる。
みんなを送り出す。
『ラキエル、近くに来てくれ。馬車を回収する』
『えっ、乗るの?』
『あとでゴブリン、あげるよ?』
『了解』とウキウキしてるよ。現金なヤツめ。
馬車から離れ、ラキエルに乗る。うわっ、ぬれてるよ。お尻に染みてくる。
急いで、馬車を回収する。
『よし。ラキエル、ウーちゃんの下に潜って』
『ウーちゃん様を雨よけにするのか!』
『この雨の中、君に方向がわかるかね?』
『わからない』気落ちしちゃった。
ラキエルを叱咤して、ウーちゃんの下に。
索敵で安全圏を確認。
『ウーちゃん、右方向に向かって……この向き。ゆっくり進んで』
『了解なのじゃ』
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