222【彼らとの野営】
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少し長いため、2話連続投稿します(1話目)
お風呂から戻ってきたら、見事にお皿がカラになっていた。作った人間としては、うれしい。マナミの気持ちがよくわかった。
「これ、野営じゃねぇよ」と虎獣人。「どこかの村の広場での野営よりも贅沢」
「わかるわかる」と猫獣人。「お風呂に美味しい料理。あとは快適な寝床があれば、もう高級宿屋よね」
「さすがに、寝床は用意できないよ」と苦笑いのオレ。
「いや」とベズーラ。「テントを張れただけでもありがたい。それにこれだけの気配があれば、魔獣も寄り付かないだろうから、安心して眠れる」
「その点は、太鼓判を押すよ」
「しかし、これはサブたちのふつうなのか?」
「まさか。いい空き地があったからで、ふつうはちょっと帆布を張って、その下で飲食する程度だよ」
「そうか」
「でも」とエルフ。「いろいろな調味料があったが、知らないものもあったな」
「うん。醤油と味噌は、アズマノ国にあるものを再現したものだよ。本当は向こうから取り寄せたいんだけど、遠いから難しくってな」
「さっきのは?」
「試作品。別の原料で作ったんだ。まだ試作段階だから、売り出せないんだけどね。味はどうだった?」
全員から、美味しい、とお墨付きをもらった。うれしい。
「それと」と狼獣人。「驚いたのは、魔導具だよ。火の出ない魔導コンロなんて、初めて見た。ただでさえ、魔導コンロなんて、新しいものなのに」
「新商品なんだよ、あれは」
「ん?」
「魔導コンロ、オレが登録者なんだ」
狼獣人の目の色が変わった。
「本当に!?」
「ああ。あの魔導コンロは新開発したんだけどさ。人から、火が出ないから、使えているか、わからない、って文句が出てね。売れそうにないんだ」
「サブは、魔導具師なのか」
「うん。ほかにも魔導ライターや魔導飲用水ポットも登録したよ」
「うわぁ、全部、欲しいのばっかりのヤツだ」と頭を抱える彼。
「ありがとう」と礼を言っておく。
「悪いな」とベズーラ。「こいつは、魔導具好きでな」
「魔導具好きで、何が悪い!」と狼獣人。
「うるさい。このとおりでな。金を得ると、全部、魔導具に注ぎ込むバカなんだ」
「だから、大金を持たせないの」とクスクス笑う猫獣人。
「可哀想だと思わない?」と猫なで声で狼獣人。オレに聞かれても、ねぇ。
「魔導具買って、飯が食えなくて、ヒイヒイ言うのは、おまえじゃないか」とエルフ。
「そうだけどさぁ」とうなだれる彼。
なるほど。彼はこのパーティーのおバカ担当なんだな。うちでは、ダルトンかな? おバカ具合は、負けるけど。
「まぁ、このおバカは、放っといて」と人間族。「旅をしている、と言っていたけど、何かの依頼?」
「おい」とベズーラが、人間族の彼女を咎める。
「ベズーラ、大丈夫だ。商業ギルドからの依頼で、物品を運んでいる。届け先は、済まないが、教えられない」
「悪かったわ。こういうのは、聞いちゃいけない行為だったわね」
「知らない人間同士だ。しかもこんな場所で出会った。怪しく思ってもおかしくないさ。それにそっちの仕事も聞いたしな。このくらいの情報は出しても大丈夫だ」
「そう言ってもらえると助かるわ。迷惑ついでに、もうひとりの女性について、聞いても? さっきお風呂に行くときに、チラッと見えたのよ」
「別に秘密でもなんでもない。人見知りでね」
「でも冒険者には、見えないのだけど?」
「まぁね。彼女は後方支援要員でね。結構、助かっているんだ」
「後方支援? いったいどんな?」
「さすがにそれは、うちのパーティーの秘密だから」
彼女はひと息吐き出すと、うなずいた。
「それでいいわ。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」これで我慢してくれるかな? 男性三人に問う。「さて、お風呂、どうする? 三人一緒は入れないと思うけど」
「まずは」とベズーラ。「見せてもらってもいいかな?」
「そうだね」
オレはウーちゃんに念話して、ラーナをお風呂場から離すように言う。わかった、との返事。
お風呂場を見せて、まずは虎獣人と狼獣人が、入浴することに。ベズーラは最後だ。
ふたりに入り方を教えて、しっかりと身体を洗ってもらい、しっかりと浸かってもらう。ベズーラには、そばで見ていてもらい、入り方を覚えてもらう。
三人が入浴をすませ、焚き火のところに、順々に戻ってきた。
「ふぅぅ。いいもんだな」とベズーラ。たっぷり堪能したようだ。
全員にジュースを配る。
「うわっ! これ、冷たい!」と猫獣人。「なんで?」
「もちろん、冷やしたからだよ」
「どうやって?」
「魔導具で」
「何!? 魔導具!?」と狼獣人。
ううむ、“魔導具”という言葉を禁句にすべきか。
「うちのパーティーのメンバーのひとりに要求されてね。で、作った。でもわざわざ魔導具に頼る必要はないよ。氷を作れれば、それだけで冷やせるからね」
「氷」
猫獣人の彼女が見たのは、人間族の女性だった。
彼女は、氷魔法を使えるのか。
「余裕があったらね」と渋々。
「わかった。贅沢は言わないよ」
「充分、贅沢よ」と呆れている。
しっかりお姉さんと頑張る妹的な関係?
もう少し話して、眠ることに。
ウーちゃんの強い気配があるとはいえ、彼らはやはり、不寝番を立てる、と言う。
小屋に入ると、女性ふたりは先に眠っていた。
明かりを消し、ベッドに横になる。
まさか、こんなところに冒険者パーティーがいるとは思わなかったなぁ。でも、それなりに信頼できそうな冒険者たちだった。まぁ、完全に信じるのは危険ではあるが。それに明日には、別れるのだ。それまで我慢我慢。
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