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異世界に勇者召喚されたけど、冒険者はじめました  作者: カーブミラー


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221/648

221【ウーちゃんの気配に誘われたお客】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。


少し長いため、2話連続投稿します(2話目)

 途中、ゴブリンのものと思われる魔獣の集落跡を見つけた。ずいぶんと前に放棄されたらしく、日除けに作られたテントは潰れ、屋根である大葉も枯れていた。新しい痕跡はひとつもない。

 鑑定しても索敵しても脅威はなさそう。

 ここで野営を張ることにした。

 ここしばらく、身体を拭くだけでいたので、久しぶりにお風呂に入ることにした。

 ウーちゃんが駄々をこねました。

 まぁ、その気持ちはわかる。

 だから、湖で使った小屋を出す。もちろん、お風呂場付き。

「身体を洗ってから、入るんだよ、ウーちゃん」

「うむ、了解なのじゃ。ほれ、ラーナも行くぞ」

 ラーナがウーちゃんに、引っ張られていく。

 ふたりがお風呂に入っているあいだに、オレは夕食作り。の前の下拵え。根菜類は皮剥きが手間だからね。剥いたら、塩を入れて湯がいておく。肉は塩コショウしておく。などなど。

 全部やってしまうと、ラーナが機嫌悪くなるからな。文句は言わないが、膨れっ面するんだ。これがまた可愛い。まぁ、本人には言わないが。


 夕食後、お茶休憩。

「サブさんは、お風呂はいいのですか?」

「あとで入るよ。食後すぐに入ると身体に悪いんだ。だから時間を置く」

「そうなのですか。でもお湯に浸かるというのは、気持ちいいものですね。川で泳いだことがありますが、全然、違います」

「お湯に浸かることで、リラックスできるんだ。ケガの治りも早まるんだよ」

「癒やしの効果があるのですか。素晴らしいです」

「ウーちゃんは、気に入って、よく入っているよ」

「うむ。気に入っておるぞ。生活のほとんどが水中であったから、変わらぬ、と思うであろうが、全然違うのじゃ。温まるし、気分が良い」

「そうなのですね。ウーちゃんの顔でわかります。溶けてしまいそうですもの」

「うむ、確かに溶けておるな」

 クスクス笑うラーナ。

 索敵に反応。

「おやおや、お客様だ。ちょっと行ってくる」とイスから立ち上がる。

「ん? おかしいのぉ。気配を薄めていないのじゃが」

「あっ、そういえば。えっと?」

 索敵の対象に鑑定をかける。

「ありゃ、冒険者の集団だわ。ってことは、ウーちゃんの気配を脅威的な魔獣のものと思って、様子見に来たのかな? とにかく、行ってくるよ」

 ラーナの結界から出て、索敵の反応する方向に視線を向ける。念のために、雷爆弾・静を用意。

 冒険者たちは、全部で六人。さまざまな種族の集団だ。おそらくひとつのパーティーだろう。

 この空き地の端で停止。こちらのようすを確認している。


 彼らに手を振る。気付いていることを主張するわけだ。

 ひとりが出てきた。矢をつがえた弓をこちらに向けながら。エルフだ。

「何か用かな?」と問う。

「おまえは、何者だ? ここで何をしている?」

「オレは、サブという冒険者だ。旅の途中でね。ここで野営を張っている。そちらは?」

「オレは冒険者のスーラ。ここからデカい気配を感じて、調査に来た」

 あっ、やっぱりか。

「すまないな。その気配は、オレの従魔のケルピーのものだ」

「ケルピーだと?」

「ああ。今は、人化しているがな」

「人化? ケルピーが人化できるなど、聞いたことがない」

「おや、ケルピーを見たことがあるのか?」

「ある」

「なら、見たらわかるな。ウーちゃん」

「なんじゃ?」とこっちに来るウーちゃん。

「ケルピー化して、見せてやって」

「仕方ないのぉ」

 服を脱ぎ出すウーちゃん。

「な、何をしている!」

「ケルピー化したら、服が破れるから、脱いでいるだけだよ」と言いながら、服を預かる。

 裸になったウーちゃんが、ケルピー化する。

「はい、ケルピー」

「ほ、本当にケルピー、だ」と女性の声。

 彼の後ろから、次々と出てくる面々。

 口々に、あれがケルピーかとか、白くてきれいとか、言っている。

「スーラ、弓を下ろせ」と低い声。

 奥から出てきたのは、ひとりの獣人。

 革鎧に金属プレートを付けた黒い毛皮に覆われた黒い顔の男。その瞳は白目がなく、鋭い。

 デカい。ランドルフのふたまわりは大きい。

 思わず、声に出しそうになったが、抑えたよ。だって、ゴリラそのものなんだもん、この男。

「サブとやら、少し話が聞きたい。焚き火のそばに近付いてもいいか? オレは、ベズーラ。S級冒険者だ」

「どうぞ」

 彼らを焚き火のそばに招く。

 あっ、ウーちゃんは、人化させたよ。ちゃんと服を着せたよ。ラーナと一緒に、小屋の奥に移動してもらった。焚き火は、結界の中だったからね。


 お互いにギルドカードを見せ合う。

 彼らは、《守護獣の誇り》というパーティー。ベズーラがリーダー。さきほどのエルフのスーラ、虎獣人、狼獣人、人間族の女性、猫獣人の女性という六人。

 探索をしていたが、脅威的な気配を感じて、調査に来た、と言う。

「ここにそんな気配を漂わせるような魔獣はいない。しかもここには過去にゴブリンの集落があった。オレたちもその討伐に参加したパーティーだ。何か悪いことでも起きているんじゃないか、と疑った」

「なるほど。いや、本当にすみませんでした」と頭を下げる。

「いや、謝らなくていい。正体がわかって、安心しただけだ。しかし」と小屋を見る。「野営だよな?」

「ええ。いつもは、小屋は出さないでの野営なんですけどね。従魔が、お風呂に入らせろ、とうるさくて」

「従魔が?」

「一度、入ったら、病みつきになってしまって」苦笑い。

「ケルピーがねぇ」

「お風呂かぁ」と猫獣人。「話には聞くんだけどさぁ、実物を知らないんだよねぇ」

「みんな、そうよ」と人間族。

「入ってみる?」とオレが水を向ける。「ふたりとも女性なんだから、興味津々でしょ」

 いいのぉ?、といううれしそうな顔のふたり。

「着替えはある? その方がさっぱりするけど」

 あるある、とうなずくふたり。

「おい」とベズーラが弱くふたりを咎める。「オレたちは……」

「ベズーラ」と虎獣人が彼の肩を叩き、首を振る。“こうなったら、どうにもならん”という感じかな?

 ベズーラが大きなため息。

 それを了解と捉えたオレ。

「ウーちゃん」

 奥から顔を出すウーちゃん。

「なんじゃ?」

「お風呂に女性ふたり、ご案内して」

「わかったのじゃ」

 奥から出てきて、ふたりの手を取ると、引っ張っていく。

「身体、洗わせてね」と言っておく。

「もちろんじゃ!」

 引っ張られるふたりは、うれしそうだ。

「すげぇ、上機嫌だな」とエルフ。

「みんなも入る? っていうか、野営はどうするの?」

「ここに張ってもいいか?」と諦め顔のベズーラ。

「いいよ。ほかを探せ、なんて言わないよ。そういえば、夕食は?」

「いや、それどころじゃなかったからな」

「わかった。用意するから食べてって。作っているあいだに野営を張ればいいから」

「いいのか?」

「材料もあるし、たいした手間でもないから。さっ、動いた動いた」


 さまざまな準備ができたころ、女性ふたりが上気した顔でワイワイキャッキャッと戻ってきた。

 テーブルを見て、さらによろこぶ。

 そこには、オレ特製の料理が並ぶ。量を多めに用意したのだ。食べそうな人が三人もいるんだからな。

「味は、もしかしたら薄いかもしれない。その調味料を自由に使っていいから、自分で調整して」

 調味料にコショウはないが、醤油も味噌も出した。甘みは、サトウキビに近い植物から作った液体だけ。

 それぞれを軽く紹介する。

「全部、食べちゃって。オレはお風呂に入ってくるから。じゃ」

 五人とも唖然として、オレを見送った。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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