221【ウーちゃんの気配に誘われたお客】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、2話連続投稿します(2話目)
途中、ゴブリンのものと思われる魔獣の集落跡を見つけた。ずいぶんと前に放棄されたらしく、日除けに作られたテントは潰れ、屋根である大葉も枯れていた。新しい痕跡はひとつもない。
鑑定しても索敵しても脅威はなさそう。
ここで野営を張ることにした。
ここしばらく、身体を拭くだけでいたので、久しぶりにお風呂に入ることにした。
ウーちゃんが駄々をこねました。
まぁ、その気持ちはわかる。
だから、湖で使った小屋を出す。もちろん、お風呂場付き。
「身体を洗ってから、入るんだよ、ウーちゃん」
「うむ、了解なのじゃ。ほれ、ラーナも行くぞ」
ラーナがウーちゃんに、引っ張られていく。
ふたりがお風呂に入っているあいだに、オレは夕食作り。の前の下拵え。根菜類は皮剥きが手間だからね。剥いたら、塩を入れて湯がいておく。肉は塩コショウしておく。などなど。
全部やってしまうと、ラーナが機嫌悪くなるからな。文句は言わないが、膨れっ面するんだ。これがまた可愛い。まぁ、本人には言わないが。
夕食後、お茶休憩。
「サブさんは、お風呂はいいのですか?」
「あとで入るよ。食後すぐに入ると身体に悪いんだ。だから時間を置く」
「そうなのですか。でもお湯に浸かるというのは、気持ちいいものですね。川で泳いだことがありますが、全然、違います」
「お湯に浸かることで、リラックスできるんだ。ケガの治りも早まるんだよ」
「癒やしの効果があるのですか。素晴らしいです」
「ウーちゃんは、気に入って、よく入っているよ」
「うむ。気に入っておるぞ。生活のほとんどが水中であったから、変わらぬ、と思うであろうが、全然違うのじゃ。温まるし、気分が良い」
「そうなのですね。ウーちゃんの顔でわかります。溶けてしまいそうですもの」
「うむ、確かに溶けておるな」
クスクス笑うラーナ。
索敵に反応。
「おやおや、お客様だ。ちょっと行ってくる」とイスから立ち上がる。
「ん? おかしいのぉ。気配を薄めていないのじゃが」
「あっ、そういえば。えっと?」
索敵の対象に鑑定をかける。
「ありゃ、冒険者の集団だわ。ってことは、ウーちゃんの気配を脅威的な魔獣のものと思って、様子見に来たのかな? とにかく、行ってくるよ」
ラーナの結界から出て、索敵の反応する方向に視線を向ける。念のために、雷爆弾・静を用意。
冒険者たちは、全部で六人。さまざまな種族の集団だ。おそらくひとつのパーティーだろう。
この空き地の端で停止。こちらのようすを確認している。
彼らに手を振る。気付いていることを主張するわけだ。
ひとりが出てきた。矢をつがえた弓をこちらに向けながら。エルフだ。
「何か用かな?」と問う。
「おまえは、何者だ? ここで何をしている?」
「オレは、サブという冒険者だ。旅の途中でね。ここで野営を張っている。そちらは?」
「オレは冒険者のスーラ。ここからデカい気配を感じて、調査に来た」
あっ、やっぱりか。
「すまないな。その気配は、オレの従魔のケルピーのものだ」
「ケルピーだと?」
「ああ。今は、人化しているがな」
「人化? ケルピーが人化できるなど、聞いたことがない」
「おや、ケルピーを見たことがあるのか?」
「ある」
「なら、見たらわかるな。ウーちゃん」
「なんじゃ?」とこっちに来るウーちゃん。
「ケルピー化して、見せてやって」
「仕方ないのぉ」
服を脱ぎ出すウーちゃん。
「な、何をしている!」
「ケルピー化したら、服が破れるから、脱いでいるだけだよ」と言いながら、服を預かる。
裸になったウーちゃんが、ケルピー化する。
「はい、ケルピー」
「ほ、本当にケルピー、だ」と女性の声。
彼の後ろから、次々と出てくる面々。
口々に、あれがケルピーかとか、白くてきれいとか、言っている。
「スーラ、弓を下ろせ」と低い声。
奥から出てきたのは、ひとりの獣人。
革鎧に金属プレートを付けた黒い毛皮に覆われた黒い顔の男。その瞳は白目がなく、鋭い。
デカい。ランドルフのふたまわりは大きい。
思わず、声に出しそうになったが、抑えたよ。だって、ゴリラそのものなんだもん、この男。
「サブとやら、少し話が聞きたい。焚き火のそばに近付いてもいいか? オレは、ベズーラ。S級冒険者だ」
「どうぞ」
彼らを焚き火のそばに招く。
あっ、ウーちゃんは、人化させたよ。ちゃんと服を着せたよ。ラーナと一緒に、小屋の奥に移動してもらった。焚き火は、結界の中だったからね。
お互いにギルドカードを見せ合う。
彼らは、《守護獣の誇り》というパーティー。ベズーラがリーダー。さきほどのエルフのスーラ、虎獣人、狼獣人、人間族の女性、猫獣人の女性という六人。
探索をしていたが、脅威的な気配を感じて、調査に来た、と言う。
「ここにそんな気配を漂わせるような魔獣はいない。しかもここには過去にゴブリンの集落があった。オレたちもその討伐に参加したパーティーだ。何か悪いことでも起きているんじゃないか、と疑った」
「なるほど。いや、本当にすみませんでした」と頭を下げる。
「いや、謝らなくていい。正体がわかって、安心しただけだ。しかし」と小屋を見る。「野営だよな?」
「ええ。いつもは、小屋は出さないでの野営なんですけどね。従魔が、お風呂に入らせろ、とうるさくて」
「従魔が?」
「一度、入ったら、病みつきになってしまって」苦笑い。
「ケルピーがねぇ」
「お風呂かぁ」と猫獣人。「話には聞くんだけどさぁ、実物を知らないんだよねぇ」
「みんな、そうよ」と人間族。
「入ってみる?」とオレが水を向ける。「ふたりとも女性なんだから、興味津々でしょ」
いいのぉ?、といううれしそうな顔のふたり。
「着替えはある? その方がさっぱりするけど」
あるある、とうなずくふたり。
「おい」とベズーラが弱くふたりを咎める。「オレたちは……」
「ベズーラ」と虎獣人が彼の肩を叩き、首を振る。“こうなったら、どうにもならん”という感じかな?
ベズーラが大きなため息。
それを了解と捉えたオレ。
「ウーちゃん」
奥から顔を出すウーちゃん。
「なんじゃ?」
「お風呂に女性ふたり、ご案内して」
「わかったのじゃ」
奥から出てきて、ふたりの手を取ると、引っ張っていく。
「身体、洗わせてね」と言っておく。
「もちろんじゃ!」
引っ張られるふたりは、うれしそうだ。
「すげぇ、上機嫌だな」とエルフ。
「みんなも入る? っていうか、野営はどうするの?」
「ここに張ってもいいか?」と諦め顔のベズーラ。
「いいよ。ほかを探せ、なんて言わないよ。そういえば、夕食は?」
「いや、それどころじゃなかったからな」
「わかった。用意するから食べてって。作っているあいだに野営を張ればいいから」
「いいのか?」
「材料もあるし、たいした手間でもないから。さっ、動いた動いた」
さまざまな準備ができたころ、女性ふたりが上気した顔でワイワイキャッキャッと戻ってきた。
テーブルを見て、さらによろこぶ。
そこには、オレ特製の料理が並ぶ。量を多めに用意したのだ。食べそうな人が三人もいるんだからな。
「味は、もしかしたら薄いかもしれない。その調味料を自由に使っていいから、自分で調整して」
調味料にコショウはないが、醤油も味噌も出した。甘みは、サトウキビに近い植物から作った液体だけ。
それぞれを軽く紹介する。
「全部、食べちゃって。オレはお風呂に入ってくるから。じゃ」
五人とも唖然として、オレを見送った。
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