219【怪我人】
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少し長いため、2話連続投稿します(2話目)
商業ギルドからの帰り道。
「喰い付いていたねぇ、エミリー」
「まぁ、あれがお金になるだろうことは、ちょっと利に聡い人であれば、わかりますからね」
「そうだね。もっといろいろあるんだろう?」
「自分では気付けませんけどね」
「あぁ、無自覚ってヤツだね」
「それです。まぁ、細々としたものを作っているんで、商売云々じゃないんですよ」
「それでいいんじゃないかい?」
そんな会話をしていると、シファーさん宅前に到着。三人ほどの男女が待っていた。ひとりは昨日の門衛さん。革鎧のないラフな格好。ラーナ狙いか。ほかの男女は、ふたりとも成人前後。
「どうしたの?」とシファーさんが尋ねる。
「薬草採取してたら」と門衛さん。「ツノウサギに襲われたそうだ。ケガはしてないが、逃げる際に足首を捻ったらしい」
「そこにいな。門衛には?」
そう言いながら、家に入っていくシファーさん。
「伝えた。小さいのがいたらしいから、子連れだろう」
「そういえば、そういう時期だったねぇ」
彼女が出てきた。手にいろいろ持って。座り込んでいる少年のところに行き、手当てをはじめる。
「ケイン、よく逃げたね。無理して闘ってたら、大ケガしてたはずだからね」
「うん。小さいのがいたから、母親だと思った。だから離れれば、大丈夫だと思った」
「その判断が難しいのさ」
「ねえ」
「ん?」
「明日になったら、動ける?」
「今日の薬草は?」
「それなりに採れた」
「なら明日はうちに来な。一日分には足りないだろうけど、仕事をしてくれたら、払うからさ」
「わかった」
「言っとくけど、湿布代はそこから引くからね」
「うっ、仕方ねぇ。わかったよ」
「そんな顔、しなさんな。たいした額じゃないよ」
「それでも減るのは嫌なんだ」
「わかってるよ。ほら、お帰り」
「ありがとう、おばば様」
少年は少女に肩を貸してもらい、帰っていった。
「おやさしいことで」とオレ。
「あれでも稼ぎ頭だからね」
「あっ、そうなんだ。失礼しました」
シファーさんは、持ってきたものを手に、家の中に。
「シファーさんのおかげだよ」と門衛さん。「彼女が長年、ここにいてくれているおかげで、この村はケガや病気で死ぬことが少ないんだ」
「なるほど。薬剤もあるんだろうが、病気にならないようにも、気を付けているんだろうな」
「それもあるな。彼女はここに畑を持っているが、薬草の多くは、商業ギルドに依頼を出してくれているんだ」
「あれ、そうなんだ。じゃぁ、ここの薬草は珍しいもの?」
「この近くには、生えていないものらしい。オレは詳しくないが。とにかく、ここでの薬草採取の依頼を出してくれるから、小さな子どもなんかでもお金を稼ぐことができるんだ。さっきのケインは外に出ての採取で稼いでいる。外の方が高い薬草があるんだが、反面、危険も多くなる」
「なるほどな」
「まぁ、この周辺で危険な魔獣は少ないが、それでも子どもにはどうしようもない相手だ。逃げるが勝ち、ってわけだな」
そこにシファーさんが出てきた。
「こら、カトル。いつまでサボっている?」
「ひでぇよ、シファー様。今日は休み」
「おお、そうか。なら、遊んでこい」手で、シッシッと追い払おうとする。
「オレ、子どもじゃないんだけどぉ」
「あたしにしてみれば、子どもだよ」
「そりゃ、そうだろうけどさぁ」
シファーさんがクスリッと笑む。
「ずいぶんとめかし込んでいるじゃないか。デートかい?」
「ち、違うよ!」と大声上げて、自分で驚き、声を小さくして、「こちらにいるお客様を見に来たんだよ」
「きれいな女の子だもんねぇ」と笑っている。遊んでいるな、こりゃ。
「会わせるのはいいけど」とオレ。「結界の内側には入れられないよ?」
「そ、そこまでは……贅沢は言わないよ」
「わかった。とにかく、本人に確認してくるから」
「頼む」
とにかく、天幕に入る。
「ただいま」
中を見て、オレは固まった。
「お帰りなさい、サブさん」
ラーナが迎えてくれる。苦笑いだ。その原因であるウーちゃんは……地面にシーツを広げ、大の字になって、眠っていた。女性の慎みなど、欠片もない。
「安心しきって寝ているネコだな、こりゃ」
ツンツン、つついてみるが、反応なし。
毛布を出して、掛けてやる。
ううむ、ここに門衛さんを通す? 知り合いならば、笑ってくれるかもしれんが、ウーちゃんを知らない人だから、説明しづらいな。
覆いから出る。
「申し訳ない。本人が、知らない人に会いたくない、って」しかないでしょ。
あっ、肩が落ちた。
「そうですか。わかりました」
トボトボと帰っていく。
まぁ、玉砕覚悟だっただろうし、心配ないだろう。
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