212【教会とひとりの女性】
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少し長いため、2話連続投稿します(1話目)
王城から少し離れたところに、その教会はあった。教会といってもこじんまりとした建物ではなく、広大な敷地に建つ立派な建物である。
どこかの貴族のお屋敷と言われた方が、納得できる規模。それなのに、塀に囲われていない庭園があり、その奥に建物がある。
教会というには、地球の教会にあるシンボルが、どこにもない。代わりにあるのが、建造物前に立つ石像の列。おそらく、この世界の神々を模したものだろう。鑑定さんもそうだと教えてくれた。
人々の列に並び、教会へと入る。人々の服装はバラバラだが、信者だというのはわかる。
建物の中に入ると、やや薄暗く、窓から射し込む光の筋が幻想的で、神聖な雰囲気に包まれる。まるで空気までも霊的なものに感じる。これは信者でなくとも崇めたくなる雰囲気だ。
さすがのウーちゃんも、声が出ないようす。
「どうかされましたか?」と女性に声をかけられた。
そちらに向くと、修道女といった装いの女性が微笑んで立っていた。
「あっ、いえ、すみません。信者ではないのですが、あまりにもここの雰囲気が神聖なものに感じられまして」
彼女がうなずく。
「わかります。私たち信者もそう感じますので」
「失礼ですが、あなたはこちらの方ですか?」
「はい。信者ではない、とのことでしたね。何かご用がおありで?」
「そうです。冒険者ギルドからの依頼を受けた者です。マルクス神父にお取次ぎをお願いしたいのですが」
「聞いております。どうぞ、こちらへ」
横の扉を潜り、廊下を進み、曲がり曲がって曲がりを繰り返して、たどり着いたのは、ひとつの部屋。
彼女がドアをノックすると、小さな声が返ってきた。それで彼女がドアを開ける。
どうぞ、と言われて、入る。
そこには、ひとりの男性が立っていた。神父服なので、間違いなく、マルクス神父だろう。中肉中背の小柄な中年男性。
「マルクスです。あなたが冒険者ギルドから派遣された方ですか?」
「そうです。はじめまして。B級冒険者のサブと言います。こちらは相棒のウーと言います。よろしくお願いします」
ソファーに促されて、ウーちゃんと座る。対面に神父。
案内してくれた女性がお茶を淹れてくれた。お礼を言う。
「話はギルマスから聞かれておいでですか?」
「はい。多少の荷物と女性をエルゲン国へとお連れすること、だと」
「そのとおりです。ただし、邪魔が入る可能性があります」
「暗殺者と聞いています。ここを出たら、危ない、と」
「そうです。それでも依頼を受けていただけますか?」
「その方は、犯罪者ではないのでしょう?」うなずくマルクス神父。「ならば、大丈夫です」
「移動方法をお尋ねしても?」
「こちらには中庭がありますね?」
すでに、廊下の窓から見えていた。
「ええ」
「そこから」とテーブルに両手で囲いを作り、右手の人差し指で、空へと動かす。「という具合です」
神父も修道女も、目をパチクリとさせている。
「私には、従魔がいます。その背中に跨って、空を飛びます。おそらく、暗殺者には手も足も出ないでしょう」
「ワイバーンでも?」
「全然違いますけど。まぁ、似たりよったりですね」
うぅ、とウーちゃんが文句を言いたそうだ。肩をポンポン叩いて、我慢させる。
「まぁ、わかりました。それで旅路も空を?」
「ええ。一日一度、野営するつもりです。それから途中、とある村に立ち寄ります。別の依頼で荷物を届けるので。そこからは寄るところはありません」
「なるほど。野営で魔獣などには襲われませんか?」
「従魔自体が強いですし、結界の魔導具も使いますから、大丈夫です」
「良さそうですね。到着しましたら、あちらの冒険者ギルドから王都冒険者ギルドのギルマス宛てに到着を知らせてください」
「わかりました」
それで彼が立ち、修道女にひと言ふた言言って、下がらせた。
彼が、オレたちに付いてくるように、と促す。
案内されたのは、ひとつの部屋。ドアが開くと、そこは、窓が開けられており、緑色の光が射し込んでいた。どうやら中庭の草木の緑らしい。
そして、ひとつのイスに、ひとりの女性が座って、窓の外を眺めていた。顔は見えないが、艷やかな長い黒髪に緑色の光が反射している。
マルクス神父は、そこから前に出ようとしない。
オレがつつくと、彼はオレを見て、笑む。
オレは、その笑みの意味がわからない。
待つしかない、と判断した。
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