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異世界に勇者召喚されたけど、冒険者はじめました  作者: カーブミラー


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210/648

210【中間管理職?と素材】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。


少し長いため、2話連続投稿します(1話目)

 それから二日。シャーラちゃんは屋敷内であれば、歩けるようになった。駆けたりはまだまだ体力が追いついていない。

 持続力もないので、これから少しずつ体力を上げていくしかない。それはオレの仕事ではないから、あとはお任せだ。



 翌日。シャーラちゃんに別れを告げると、泣かれてしまった。そっと抱いて、また来るから、と約束した。いや、本当は来たくはないんだけどね。

 ウーちゃんもシャーラちゃんを抱いて、またじゃ、と約束した。

 うなずくシャーラちゃん。

 手を振りながら、門へと歩く。

 門衛が門を開けてくれる。

 門の外には、馬車があり、商業ギルドの女性スタッフが待っていた。

 馬車に乗り込み、商業ギルドへ。


 商業ギルドに到着すると、そのまま、執務室へと案内された。

 待っていたのは、貫禄ある中年女性、ギルマスのアデリアさん。

「お久しぶりです、サブ様」

「お久しぶりです、アデリアさん」

 彼女とは、王都脱出のための馬と馬車の手配を頼んだ、という経緯があった。また、彼女は、オレが勇者召喚された者だとは知らない(はず)。

 ソファーに促されて、座る。

「まずは、今回の依頼、完了としてもよろしい?」

「はい。こちらに署名をいただいてまいりました」

 依頼書を提出。そこに公爵の署名。

「はい。確認いたしました。ご苦労様でした」

 彼女は依頼書を、一緒に来た女性スタッフに渡す。彼女が、それを確認すると、ドアを開け、廊下に声をかけて、別のスタッフに渡す。それでドアを閉じた。

「本来ならば、この依頼をあなたに持ちかけるのは、どうかと思ったのですが」

「気にしないでください。子どもの命が優先です。おそらくですが、すでにほかの方に依頼はしていたのでしょう?」

「そうです。双方の位置関係や対応可能な方々は少なく、サブ様であれば、ギリギリ間に合うのでは、と依頼いたしました」

「そうだと思いました。まぁ、ふつうのケルピーでも怪しい距離でしたが」

「それはどういうことでしょうか?」

「うちのケルピーは特別なタイプでして。ワイバーン並みの速度で走れるのです」

「ワイバーン並み、ですか」

 盛っちゃったけど、いいよね?

 うむうむ、とうなずいているウーちゃん。

「それはまた」そこから言葉が出てこないアデリアさん。

「ですが、便利に使われるつもりはありませんので、そこは考慮してくださいね」

「はい、わかりましたわ。では、新たな依頼をお願いしたいと思います」

「お話し次第ということで」

 彼女が微笑む。

「もちろんです。依頼したいのは、シファー様への荷物の運搬、及び、それの護衛です。荷物の内容は、薬の素材です。物が物ですので、早めに届けたい、と」

「遅延のマジックバッグではダメなんですか?」

「すでにそちらに入れてあります。しかし、素材の中には、貴重なものも含まれますので、盗賊などに奪われる可能性もありまして」

「なるほど。期日は早め、という以外には?」

「無事に届けていただければ」

「わかりました。お引き受けします」

「ありがとうございます」

 その荷物と依頼書を受け取った。


 その足で、冒険者ギルドへ。

 中に入ると、冒険者たちの喧騒が迎えてくれた。やはり、王都だけあり、冒険者たちの身なりも整っている。

 迷わずに受け付けへ。

 受付嬢に、要件を伝え、少し待つ。と、奥からひとりの女性が歩いて近付いてくる。

 彼女が案内してくれる。二階へと。

 ドアをノックする彼女。それから言った。

「サブ様が到着されました」

「入れてくれ」

 入ると、執務机のところに、スキンヘッドのデカい男性。ギルマスだ。書類処理をしている。合わねぇ。

「座ってくれ。すぐ済ませる」と顔も上げない。

「時間はありますから、どうぞ」

「すまない」

 さっきの女性が、お茶を淹れてくれる。

 お礼を言って、(すす)る。まぁまぁ。

 ウーちゃんも(すす)っている。

 キョロキョロとあたりを見回す。絵画が何点か。大判の地図。正体不明な物品。細々(こまごま)としたもの。基本はきれいにされている。

 獣皮紙の上を走るペンの音だけが、部屋に響く。

 いや、窓が明かり取りに少し開いていて、そこから街の喧騒が流れてくる。それが、いい具合にBGMになっている。

 ふと、ギルマスのペンの音が止まった。

 見ると、窓の方を見ている。

「ラージャ」とギルマス。

 ラージャとは、女性スタッフの名前だったようで、彼女が窓を大きく開く。喧騒がはっきりと聞こえてきた。

 剣戟の音が混ざっている。

「また」とラージャさん。「冒険者同士の喧嘩です」

「剣を抜いている時点で、喧嘩を越えている。どんなヤツだ?」

「騎士崩れですね。受けているのは、確か先日、B級に上がった方かと」

「まったく。降格だな。決着は着きそうか?」

「難しいのではないかと」

 オレは立ち上がって、窓に寄る。

 見てみると、両者とも激しい剣戟の応酬をしている。

 まわりの人たちは、止めるに止められず、遠巻きにして見ていた。

「確かに、互角って感じですね。止めます?」

 ギルマスが首を傾げる。

「ん?」

「止めた方がいいんでしょう?」

「まぁな」

「では」

 オレはアイテムボックスから、雷爆弾・静を取り出し、スイッチを押して、ふたりのところに放り投げた。

 ギルマスがすぐとなりに来て、見下ろす。

 爆弾は、ひとりの足元に転がっていき、結界が張られ、雷が走る。

 ふたりが突然の雷に、驚き、感電する。

 十秒後、魔導具が機能停止。

 ふたりが、バッタリと倒れて、痙攣している。

「はい、終了」

「すげぇな……おい! そいつらをふん(じば)って、中に入れろ! 仲間も同罪だからな! 覚悟しておけ!」

 ギルマスはひとつ鼻息をフンッと鳴らすと、執務机で中途半端だった書類を確認して、何かを書き込んだ。

 オレは、魔導具を回収しておく。危なく、取られるところだった。


 ソファーを示して勧めるギルマスと対面で腰を下ろす。

「手を貸してくれて助かった」

「いえいえ。最近、多いんですか? そんな感じでしたけど」

「そうなんだよ。王城から放り出された騎士たちがな、冒険者になるんだが、もともとの冒険者たちと反りが合わなくてな。しかもすぐに剣を抜く。侮辱するな、とな。冒険者はふつうのことを言っただけなのに、だ。まったく。しかも仕事もしないで、昇級しろとか、言い出す始末でな」

「あぁ、お疲れ様です」

「とにかく、助かった。話は変わるが、仕事の話だ。サブは確か商人だったよな」

「ええ」

「だが、《竜の逆鱗》のひとりでもある。ランドルフからも聞いた」

「ええ、冒険者になるつもりはなかったんですが、強制的にされまして」

「そうか。ご愁傷様。しかも今回は王族と接触したそうだな」

「まぁ、仕方ないですよ。子どもの命がかかっているなら」

「まぁ、詳細は知らないが。で、終わった、と思っても?」

「はい。それで依頼があるとか」

「そうなんだ。書簡にも書いたが、人と荷物の運搬と護衛だ。場所はエルゲン国のチタラ城下」と地図を広げ、指差すギルマス。「人はひとり。荷物も多くはない。背負子ひとつだ」

「なぜ、ふつうの旅をしない?」

「命を狙われているんだ」

「訳ありか」

「そうだ。今いる場所から離れると、すぐに殺されるだろう、という話だ」

「狙っているヤツは、暗殺者か?」

「おそらくな」

「ひとりか、それとも集団? ほかの場所でも襲われるか?」

「集団。襲われる可能性はある」

「つまり、そこに到着するまでは、気が抜けないわけか」

「そうなる」

「その人は、何か特徴的な外見をしているのか?」

「きれいな人ではあるが、特徴的といえるかな?」とラージャさんに尋ねるギルマス。

「特徴は、その一点に尽きるかと」

「だよな」

「きれいな人か。性格は問題ない?」とラージャさんに尋ねる。ギルマスよりも詳しそう。

「性格よりも言葉の違いの方が問題かもしれませんね」

「どこの言葉ですか?」

「アズマノ国です。ご存知で?」

「少しは」まぁ、王城にあった書類に少しあった程度だな。言葉は問題ない。異世界言語スキルは、なんでも来いだからな。

 にしても、アズマノ国って、(あずま)(こく)? テンプレ来たぁ! っていうのは、置いとくよ。

「こっちの言葉は?」

「片言ですわね。意思疎通できる程度には話せます」

「なるほど……ほかに注意点は?」

「あとは、勇者の特徴だな」とギルマス。

「ん?」

「黒目黒髪だよ」

「正確には」とラージャさん。「どちらも黒紫です」

 やはり、正確詳細の情報は、大事だよね。

「助かります、ラージャさん」

「いえ」

 ギルマスがムスッとしている。

 仕事をさせるか、とギルマスに向く。

「で、出発は?」

「おう。任せる。とにかく、無事に送り届けてくれ」

 引き受けることにして、契約の細かい部分を決めていく。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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