210【中間管理職?と素材】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、2話連続投稿します(1話目)
それから二日。シャーラちゃんは屋敷内であれば、歩けるようになった。駆けたりはまだまだ体力が追いついていない。
持続力もないので、これから少しずつ体力を上げていくしかない。それはオレの仕事ではないから、あとはお任せだ。
翌日。シャーラちゃんに別れを告げると、泣かれてしまった。そっと抱いて、また来るから、と約束した。いや、本当は来たくはないんだけどね。
ウーちゃんもシャーラちゃんを抱いて、またじゃ、と約束した。
うなずくシャーラちゃん。
手を振りながら、門へと歩く。
門衛が門を開けてくれる。
門の外には、馬車があり、商業ギルドの女性スタッフが待っていた。
馬車に乗り込み、商業ギルドへ。
商業ギルドに到着すると、そのまま、執務室へと案内された。
待っていたのは、貫禄ある中年女性、ギルマスのアデリアさん。
「お久しぶりです、サブ様」
「お久しぶりです、アデリアさん」
彼女とは、王都脱出のための馬と馬車の手配を頼んだ、という経緯があった。また、彼女は、オレが勇者召喚された者だとは知らない(はず)。
ソファーに促されて、座る。
「まずは、今回の依頼、完了としてもよろしい?」
「はい。こちらに署名をいただいてまいりました」
依頼書を提出。そこに公爵の署名。
「はい。確認いたしました。ご苦労様でした」
彼女は依頼書を、一緒に来た女性スタッフに渡す。彼女が、それを確認すると、ドアを開け、廊下に声をかけて、別のスタッフに渡す。それでドアを閉じた。
「本来ならば、この依頼をあなたに持ちかけるのは、どうかと思ったのですが」
「気にしないでください。子どもの命が優先です。おそらくですが、すでにほかの方に依頼はしていたのでしょう?」
「そうです。双方の位置関係や対応可能な方々は少なく、サブ様であれば、ギリギリ間に合うのでは、と依頼いたしました」
「そうだと思いました。まぁ、ふつうのケルピーでも怪しい距離でしたが」
「それはどういうことでしょうか?」
「うちのケルピーは特別なタイプでして。ワイバーン並みの速度で走れるのです」
「ワイバーン並み、ですか」
盛っちゃったけど、いいよね?
うむうむ、とうなずいているウーちゃん。
「それはまた」そこから言葉が出てこないアデリアさん。
「ですが、便利に使われるつもりはありませんので、そこは考慮してくださいね」
「はい、わかりましたわ。では、新たな依頼をお願いしたいと思います」
「お話し次第ということで」
彼女が微笑む。
「もちろんです。依頼したいのは、シファー様への荷物の運搬、及び、それの護衛です。荷物の内容は、薬の素材です。物が物ですので、早めに届けたい、と」
「遅延のマジックバッグではダメなんですか?」
「すでにそちらに入れてあります。しかし、素材の中には、貴重なものも含まれますので、盗賊などに奪われる可能性もありまして」
「なるほど。期日は早め、という以外には?」
「無事に届けていただければ」
「わかりました。お引き受けします」
「ありがとうございます」
その荷物と依頼書を受け取った。
その足で、冒険者ギルドへ。
中に入ると、冒険者たちの喧騒が迎えてくれた。やはり、王都だけあり、冒険者たちの身なりも整っている。
迷わずに受け付けへ。
受付嬢に、要件を伝え、少し待つ。と、奥からひとりの女性が歩いて近付いてくる。
彼女が案内してくれる。二階へと。
ドアをノックする彼女。それから言った。
「サブ様が到着されました」
「入れてくれ」
入ると、執務机のところに、スキンヘッドのデカい男性。ギルマスだ。書類処理をしている。合わねぇ。
「座ってくれ。すぐ済ませる」と顔も上げない。
「時間はありますから、どうぞ」
「すまない」
さっきの女性が、お茶を淹れてくれる。
お礼を言って、啜る。まぁまぁ。
ウーちゃんも啜っている。
キョロキョロとあたりを見回す。絵画が何点か。大判の地図。正体不明な物品。細々としたもの。基本はきれいにされている。
獣皮紙の上を走るペンの音だけが、部屋に響く。
いや、窓が明かり取りに少し開いていて、そこから街の喧騒が流れてくる。それが、いい具合にBGMになっている。
ふと、ギルマスのペンの音が止まった。
見ると、窓の方を見ている。
「ラージャ」とギルマス。
ラージャとは、女性スタッフの名前だったようで、彼女が窓を大きく開く。喧騒がはっきりと聞こえてきた。
剣戟の音が混ざっている。
「また」とラージャさん。「冒険者同士の喧嘩です」
「剣を抜いている時点で、喧嘩を越えている。どんなヤツだ?」
「騎士崩れですね。受けているのは、確か先日、B級に上がった方かと」
「まったく。降格だな。決着は着きそうか?」
「難しいのではないかと」
オレは立ち上がって、窓に寄る。
見てみると、両者とも激しい剣戟の応酬をしている。
まわりの人たちは、止めるに止められず、遠巻きにして見ていた。
「確かに、互角って感じですね。止めます?」
ギルマスが首を傾げる。
「ん?」
「止めた方がいいんでしょう?」
「まぁな」
「では」
オレはアイテムボックスから、雷爆弾・静を取り出し、スイッチを押して、ふたりのところに放り投げた。
ギルマスがすぐとなりに来て、見下ろす。
爆弾は、ひとりの足元に転がっていき、結界が張られ、雷が走る。
ふたりが突然の雷に、驚き、感電する。
十秒後、魔導具が機能停止。
ふたりが、バッタリと倒れて、痙攣している。
「はい、終了」
「すげぇな……おい! そいつらをふん縛って、中に入れろ! 仲間も同罪だからな! 覚悟しておけ!」
ギルマスはひとつ鼻息をフンッと鳴らすと、執務机で中途半端だった書類を確認して、何かを書き込んだ。
オレは、魔導具を回収しておく。危なく、取られるところだった。
ソファーを示して勧めるギルマスと対面で腰を下ろす。
「手を貸してくれて助かった」
「いえいえ。最近、多いんですか? そんな感じでしたけど」
「そうなんだよ。王城から放り出された騎士たちがな、冒険者になるんだが、もともとの冒険者たちと反りが合わなくてな。しかもすぐに剣を抜く。侮辱するな、とな。冒険者はふつうのことを言っただけなのに、だ。まったく。しかも仕事もしないで、昇級しろとか、言い出す始末でな」
「あぁ、お疲れ様です」
「とにかく、助かった。話は変わるが、仕事の話だ。サブは確か商人だったよな」
「ええ」
「だが、《竜の逆鱗》のひとりでもある。ランドルフからも聞いた」
「ええ、冒険者になるつもりはなかったんですが、強制的にされまして」
「そうか。ご愁傷様。しかも今回は王族と接触したそうだな」
「まぁ、仕方ないですよ。子どもの命がかかっているなら」
「まぁ、詳細は知らないが。で、終わった、と思っても?」
「はい。それで依頼があるとか」
「そうなんだ。書簡にも書いたが、人と荷物の運搬と護衛だ。場所はエルゲン国のチタラ城下」と地図を広げ、指差すギルマス。「人はひとり。荷物も多くはない。背負子ひとつだ」
「なぜ、ふつうの旅をしない?」
「命を狙われているんだ」
「訳ありか」
「そうだ。今いる場所から離れると、すぐに殺されるだろう、という話だ」
「狙っているヤツは、暗殺者か?」
「おそらくな」
「ひとりか、それとも集団? ほかの場所でも襲われるか?」
「集団。襲われる可能性はある」
「つまり、そこに到着するまでは、気が抜けないわけか」
「そうなる」
「その人は、何か特徴的な外見をしているのか?」
「きれいな人ではあるが、特徴的といえるかな?」とラージャさんに尋ねるギルマス。
「特徴は、その一点に尽きるかと」
「だよな」
「きれいな人か。性格は問題ない?」とラージャさんに尋ねる。ギルマスよりも詳しそう。
「性格よりも言葉の違いの方が問題かもしれませんね」
「どこの言葉ですか?」
「アズマノ国です。ご存知で?」
「少しは」まぁ、王城にあった書類に少しあった程度だな。言葉は問題ない。異世界言語スキルは、なんでも来いだからな。
にしても、アズマノ国って、東の国? テンプレ来たぁ! っていうのは、置いとくよ。
「こっちの言葉は?」
「片言ですわね。意思疎通できる程度には話せます」
「なるほど……ほかに注意点は?」
「あとは、勇者の特徴だな」とギルマス。
「ん?」
「黒目黒髪だよ」
「正確には」とラージャさん。「どちらも黒紫です」
やはり、正確詳細の情報は、大事だよね。
「助かります、ラージャさん」
「いえ」
ギルマスがムスッとしている。
仕事をさせるか、とギルマスに向く。
「で、出発は?」
「おう。任せる。とにかく、無事に送り届けてくれ」
引き受けることにして、契約の細かい部分を決めていく。
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