205【味の感想と説明】
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3話連続投稿します(2話目)
食後のお茶を飲んで、感想を聞く。
基本、美味しい、とのこと。あとは、あれがどうこう、これがどうこうと感想が続く。
醤油と味噌を単体で味見してもらうと、しょっぱい色付き水としょっぱい泥という名前をいただいた。これは仕方ない。熱を加えないと、本当にそのままだからな。
試しに、小麦粉を水で練って、フライパンで焼き、醤油を垂らしたものと味噌を塗ったものを用意して、試食してもらうと、全員が信者になった。布教成功。
ただ、欲しがられても、大量には持っていないのよね、これ。大半はマナミに渡してあるし、オレたちの冬籠り屋敷にもあるが、セバスさんたちの分だけで、それほど多くはない。そして、醸造中のものも屋敷にしかない。旅の最中に作ればいいと思うかもしれないが、撹拌時に雑菌が入りやすいから、作れないのだ。
夕方。陛下が帰宅。夕食を食べていないということで、事前に打ち合わせたとおりに、夕食が出される。
まずはスープ。それからサラダ。量はいつもどおり。
「ん?」と怪訝な表情をして、スープとサラダを見る陛下。「今日は、味付けが違うな」
誰も何も言わない。顔にも出さない。もちろん、オレも。
次に出されたのは、薄切り肉の味噌生姜焼き。生姜は、そっくりとはいかないまでも、ほどよいものが森で手に入った。
陛下は、この料理と執事を交互に見て、言葉が出ない。
オレは先に手を付ける。うん、我ながら美味い。まぁ、調理はメイドさんだけど。
陛下も手を付ける。少量、口に入れて、味を見る。よく噛んでいるね。良きかな良きかな。ゴクンッと飲み込む。それからオレを見た。ナプキンで口を拭く。
「なるほど。サブが手配したか」
「なんのことでしょう?」
「屋敷にない調味料が使われている。ほかでも味わったことのないものだ。それに肉の量が多い。客人に、というには多い。どういうことか、知りたいものだ」
「肉に関して言われるとは、思いませんでした。食材と調味料は、ほぼ私が提供させていただきました。みなさんに使うようにとも言わせていただきました。これは自分のためです。昨日の量では足りませんでしたし。それに味付けも少々」
「それは申し訳ない」
「いえいえ、私のわがままですから。それに泊めていただいているわけですし。そうしたお礼も兼ねています」
「なるほど。では、遠慮なくいただこう」
陛下は、カトラリーを手に食べはじめた。
お茶休憩。
「あの味付けは、なんだったのだ」
「私が作った調味料です。醤油と味噌というものです。ある蔦植物のムカゴというものを原材料にして、作っています。まだ試作品程度の量しかなく、売るまではいきませんで」
「ということは、これから増やしていくと」
「そのつもりです。でも、ムカゴ自体が大量に必要となり、森林地帯での採取も大量には採れません」
「では、今後はどうするつもりか」
「実は、ムカゴの栽培をシファー様がやっていらしてまして。先日、その栽培方法を教えてもらったところです」
「ほぅ。なぜシファー殿が」
「なんでも薬を作る際に余分なものを沈殿させるためだとか。ですから、量はそれほどは必要ではなかったようです」
「なるほど。それで栽培方法が手に入ったわけだが」
「そこから進んでいません。旅の途中で採取するつもりでしたから。それにまだ時期ではないのですよ」
「そうであったか」
「手に入れても、そこからまた時間がかかります」
「どういうことか」
「言葉は悪いですが、腐らせる必要があるのです。発酵と呼んでいますが」
「腐らせる?」嫌そうな表情。
「ワインの作り方は、ご存知ですか?」
「いや」と首を振る。
「簡単に言いますと、特定の木の実を潰して、樽に詰めて、寝かせます。樽の中で腐っていき、ワインが出来上がります」
「ワインも腐っているのか」
「腐ったあとの汁を絞ったものが、ワインですね」
「だが、美味い。それと同じだと」
「まったく同じというわけではありませんがね」
「ほかにもあるのか、腐ったものが」
「お酒はほとんどそうですね。それからチーズなんかもそうです」
「チーズもか」
「おそらく、もっといろいろとあると思いますよ。腐らせているとは言わないだけで」
ふむ、と考え込む陛下。
オレは、お茶を啜る。
「腐っても」とウーちゃん。「食べられるものは多いぞ」
その言葉に陛下とともにウーちゃんを見た。
「名前は知らぬ。動物も植物もある。中には、どちらかもわからぬものもある。美味いかどうかは、ものによるがな」
お茶を飲み干し、メイドさんに次を要求するウーちゃん。
メイドさんは、微笑んでお茶を淹れる。
このお茶は、マナミが薬草から作ったものを提供した。
ここのお茶よりも美味しいから。陛下も気に入っている。
「今度、見つけたら教えてね」
「うむ。まぁ、ニオイでわかるじゃろう」
「腐敗臭?」
「いやいや、そんな鼻が曲がるようなニオイではないぞ。まぁ、すべてが、とはいかぬがな」
「へぇ」
少し考えていた陛下が顔を上げる。
「サブよ」
「はい?」
「そなたらが、勇者一行であろうがなかろうが」とオレを見る。真剣にオレの目を見る。「どちらでも構わぬ。力を貸してはもらえまいか」
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