195【空からラキエル、地上にオーガ斥候隊】
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長いため、1話のみ投稿します。
前回の斥候隊討伐から、また二日後。
索敵が反応した。
こちらに向かっている。
ラキエルにケルピー化してもらい、上空から見てもらう。ラキエルは、ブツブツつぶやいていたが、次のひと言で文句をやめた。
「わかったよ。仕方ないな。ウーちゃんにお願い――」
『オレが行く! ウーちゃん様が行なうようなことではない!』
ラキエルがケルピー化すると、ドレックたちは腰を抜かしていた。あれ、説明してなかったっけ?
しばらくして、ラキエルから念話が。
『見つけた。デカいのが二体にふつうのが六体。デカいのは、斧を持っているな。ほかは棍棒に見える』
『縦に並んでいる?』
『いや、ふつうのが前と後ろに三体ずつ。デカいのが真ん中』
『了解。ありがとう。戻ってきたら、ゴブリンをやるな』
『ふたつ!』
『はいはい』
全員にその情報を共有する。
「作戦は変更だ。といってもたいした違いはない。とにかく、オレがデカいのに煉獄の実を試してみる。おそらく、大慌てになるが、すぐに警戒体制に入るはずだ。すぐには手を出すな。オレの合図を待て。いいか?」
みんながうなずく。
「合図のあとは、臨機応変だ。まぁ、いつもどおりでいいか。よし、散開」
前回と同じく、街道の左右にバラける。
ラキエルが戻ってきたので、背中にゴブリンを乗せ、裏で食べるように言う。
それからオレは、ゴーグルと業務用マスクの上からマスク、手には不織布手袋をして、隠遁のローブをかぶり、浮遊する。視野が狭いわぁ。
接触ポイントの上空に到着。
街道の向こうから、オーガの隊列が歩いて近付いてきている。
ラキエルの報告どおりの隊列だとわかる。
それに確かにデカい個体が二体いる。
デカいし、肩に大斧を担いでいる。手作り感、ありありだな。
遠近感が狂っていて、距離感がわからない。だが、木々の間隔から推測する。約二百メートルと少し。
隊列は、街道の幅が狭く感じるほどだ。
今すぐ近付いて、煉獄の実の餌食にしたくなる。が、我慢する。
オーガたちの歩幅のせいか、意外と早く近付いてくる。
よし、接触ポイントに来た。
高度を下げて、デカいヤツの右側に近付く。選んだ理由は、デカいから。単純にこの斥候隊のリーダーだと思って。
アイテムボックスから、このときのための道具を出して、ハンドルに手を絡める。
先端を突き出して、トリガーを引く。
プシューッという音とともに、赤い煙が吹き出す。スプレーだ。
目標のオーガが、音に反応して、こちらを見た。
赤い煙に顔が覆われる。
次の瞬間、叫びとともに顔面を両手で覆うオーガ。
その開いた口に、もうひと吹きしてやる。
今度は、ノドを押さえるオーガ。
ほかのオーガたちが、そのオーガを見る。わけがわからない顔だ。
だが、すぐに周囲を警戒する。
オレは、もう一体のデカいヤツに近付き、顔にひと吹き。
こちらも顔面を押さえる。
大口を開けたので、もうひと吹き。
さっきと同じく、ノドを押さえるオーガ。
後ろのオーガたちの上から、プシューップシューップシューッとかける。
そのあいだに、さきほどのデカい二体が地面に倒れ、もがき苦しむ。
後ろのオーガたちが、顔面を押さえる。
前方のオーガたちが、こちらを見る。
そちらに向かい、三回、プッシュ。
こちらも顔面を押さえる。
そこでオレは、フードを降ろし、隠遁を解く。
みんながこちらを見つけたので、手で合図した。
木々の影から出てくる彼らは、全員が防備を固めていた。
オーガが次々に屠られていく。
オーガたちは、最後まで、煉獄の実の粉に、苦しんで果てた。
オーガたちの遺骸をクリアして、回収する。クリアしないと、出したときに、粉が舞う可能性があったからだ。危険物危険物ぅ。
ついでに自分たちもクリア。
それから集まって、反省会。
「すごかったなぁ」とダルトンが第一声。
「いやぁ、あそこまでの反応だとは思わなかったよ」とドレック。仲間のふたりもうなずく。
「でも」とランドルフ。「死ぬまでは、いかなかったな」
「その前に討伐したからね」とオレ。「そのままだったら、かなり疲弊しただろうな」
「抵抗できない感じでしたね」とハルキ。少し物足りなさそう。
「煉獄の実で、潰せると思う?」とダルトンがオレに問う。
「たぶん、オレたちだけでは、難しいと思う。今回のヤツラは、明らかにこっちが強いヤツを抱えていて、斥候隊がやられているのをわかってやってきた。その連中が帰ってこない。おそらく今度は斥候隊レベルではなく、殲滅を目的に来るんじゃないかな」
「可能性あるね。あるいは、町の方に目標を変更するか」
「そっちもあるか」
「どうする?」
「そうは言われてもなぁ。町に知らせても半日。そこから打ち合わせて、人を出すとしても来るまで一日半。対応しようとする人間がいるかどうか、も問題になるな」
「そう。かといって、村は避難しただろうから、援軍は望めない。もしかしたら、次は二日も待たない可能性もあるね」
「あるな。となると」と考え込むオレ。
「どっちにしろ」とランドルフ。「町には知らせる必要があるな。それなりに斥候隊を潰したし、今回の斥候隊のことも知らせて、対策を協議させた方がいい」
「だな」
「わかった。ダルトン、頼めるか?」
「おう」
『ラキエル?』
『何?』
『食べ終わったか?』
『まだ』
『急いで、頼みたいことがあるんだ。まぁ、ウーちゃんでも――』
『ウーちゃん様を使うな!』
『ならやってくれるな?』
『おう。急いで喰う』
食べてる最中だったか。
『すまんな』
ダルトンに、これまでのこと、これからのことを頼む。
「場合によっては、オレたちだけで、数を減らしに行くから」
「わかった。それも伝えておく。でも無理するなよ?」
「ああ。準備をして、万全な状態で挑むよ。無理を通すつもりもない。手柄を残そうか?」と茶化す。
「これ以上、昇級するつもりはないよ」と笑う。
ダルトンがラキエルに乗って、走り去った。もちろん、空を。
オレはウーちゃんに乗せてもらって、オーガたちの集落のようすを確認する。
彼らは、軍備を整えていた。軍備といっても大斧や棍棒、大盾だが。
軍備を整えている、ということは、確実に強者との闘いを想定している、ということだ。
デカいオーガたちが、何体もいる。
索敵では、三十二体。そこにはメスや子どもも含まれる。それらを除外すると、十体ちょっと。
子どもの討伐は、女子ふたりには、酷な仕事だろう。
となると……
『ウーちゃん、ありがとう。戻ろう』
『もういいのか?』
『ああ』
出発して、一日で、ダルトンは戻ってきた。
「誰も助けに来ない」
「そんなことだろうと思った」
「なんとかして欲しい、とはギルマスが言っていたけど」
「まぁ、わかるけどな。あのあと、集落を見てきた」
「どうだった?」
報告する。
「次は、総攻撃かな?」
「可能性は高いな。煉獄の実と道具は、準備できている。まだ決断はできないが、休んでくれ」
「サンキュ」
どうやら、かなり疲れているようだ。今のうちに休ませないとまずい。
ダルトンを除くみんなで、計画を練る。
どちらにせよ、次の斥候隊(おそらく総攻撃部隊)を叩く。村に行こうが、町に行こうが、その前に叩く。
集落の殲滅はそれから考える。
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