194【オーガ討伐生活と唐辛子?】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
長いため、1話のみです。
新たな斥候隊が来たのは、それから二日後。
事前に、オレの索敵が発見し、倒すために、街道の左右に陣取る。
斥候隊は、今回も八匹。
今回は、ハルキのマグマバレットを後ろの三体に浴びせ、前の五体を水球による口封じと土魔法による足止めをする。そこを剣で足首を斬る。あとは削っていく。
間近に来た。
攻撃開始。
ハルキのマグマバレットが飛んでいく。
飛翔音を聞きつけたオーガが、そちらを向く。
後ろの三体が顔面に来るマグマバレットを避けようとしたが、ホーミングして、顔面を捉えた。そして、広がる。
顔面に広がるマグマバレットの熱に、火傷の痛みがオーガを襲う。それに息をしたくても、口が塞がれていて、呼吸がままならない。目も塞がれているので、周囲の状況もわからない。
そんな三体を見る余裕もないほかのオーガたち。
水球が頭を覆い、地面が両足を固定する。
そこを剣で足首を斬っていくオレたち。
痛みとアンバランスになって、倒れるオーガたち。
そのオーガたちの身体のあちこちを斬っていく。
だが、オーガたちも痛みを無視して、暴れる。
そこへハルキが剣を振るっていく。
すでにマグマバレットを受けた三体は、斬り倒されていた。
一体、また一体と屠られ、最後の一体になった。
すると水球が解けた。
水の円盤になる。
次の瞬間、その水の円盤が、その一体の首に吸い込まれ、オーガの抵抗が終わった。
その首が落ちたのだ。
「今のは?」とキヨミに問う。
「水を糸のようにして、絞りました。粘土を糸で切るような感じですね。もっと早く気付けばよかったです」
「いや、いい手だ。コントロールは難しい?」
「そうですね。最後の一体だったんで、大丈夫でしたけど、それ以上は難しいです」
「わかった。練習しておいてくれ。水球の前に使って、数を減らす方向で使いたい」
「わかりました」
夕食後のお茶休憩。
「こんなに快適でいいんだろうか?」とドレックたち。笑っている。
「いいと思うよ」とダルトン。完全にくつろいでいる。「ふつうなら、こんな斥候隊潰しなんて、やらないよ。パーティー集めての集落襲撃が一番いい。でも集めようにもいないんだからな。だからといって、村の襲撃がわかっているのに、見て見ぬフリなんてできないし。たまたまオレたちがいたってだけさ」
「悪いな」とオレ。「巻き込んでしまって」
「自分から巻き込まれたんだ。文句はないよ」と笑うドレック。「だが、順調でよかったよ。まぁ、これからだろうけどな」
「そうだな」とランドルフ。「これで三度目。ヤツラもバカじゃない。討伐されたと考えて、強いヤツを出してくるに違いない」
「そうだな」と彼らは気を引き締める。
「ちょっといいですか?」とマナミ。
「ん?」
「話は全然、変わるんですけど、“唐辛子”ってないですかねぇ?」
唐突だな。そういえば、辛い食べ物、こっちで食べたことがないな。
「“唐辛子”かぁ。そういうのもあるとうれしいよな」
索敵条件を変更して、唐辛子を探そうとする。ない。辛子成分を内在する植物に切り替える。
「あった。お取り寄せっと」
さっそく収集する。
取り出して、鑑定。
見た目は、野球ボール大の真っ赤な木の実。表面がシワシワでプラスチック製に見える。
ドレックたちから、“それは”という声が出た。身体も引いている。
「毒ですか?」
ドレックたちは、うんうんうなずく。
「毒、じゃないけど」というオレを信じられないという顔で見るドレックたち。「ううむ。カプサイシンを凝縮して、中のタネを守っているんだな」
「凝縮ですか。タバスコ?」
「いやいや、たぶん十倍は辛いよ、これ」
「それって」と身を乗り出すキヨミ。「武器になりませんか?」
「えっ?」
「いや、小説で、“唐辛子”の粉末を敵に撒いて、相手の戦意を奪う、っていうのがあって」
オレたちは、オレの手のひらに乗る果実を見る。それからお互いの顔を見た。
「ちょっと危険じゃない?」
「風の向きを気を付ければ。あとは、マスクして、ゴーグルして」
「怪しい格好が必要なのね」
「いやいや、何を言っているんだ?」とドレック。「それ、煉獄の実だぞ。それを破裂させたら、苦しみ抜いて、死んでいくんだ」
「つまり、破裂させれば、いいのか?」
「破裂させるな! なんで知らないんだ!」
「なんでって、言われても、なぁ」
ダルトンとランドルフが、いつのまにか、オレの風上に立っていた。
「何、逃げてるんだよ」
「ドレックたちの言うとおりだからさ」
「オレもそれには関わりたくない。それで魔獣が苦しんで死んでいくのを見たことがある。その名前どおりなんだよ」
「じゃぁ、オーガに当てたら?」
「苦しんで死ぬだろうな」「うんうん」
「そっか」
とにかくしまった。
それで、ホッとする五人。
「じゃぁ、次の斥候隊に使ってみよう」
その途端、五人が引く。
「どのくらいの効果があるか、確かめないと使えないだろう?」
「使うって?」とダルトン。
「オーガの集落襲撃に。うまくやれば、オレたちだけで、片付けられるんだぞ」
「煉獄の実だけで、か?」
「危険な賭けじゃないぞ。風に乗せて撒けばいいだけだ。まぁ、多少は生き残るかもしれないが、疲弊したオーガなら、相手にもならないだろうな」
「オレたちは?」
「もちろん、防備は固める。まぁ、作戦は、斥候隊の反応次第かな」
そのあとも喧々諤々あったが、斥候隊に使うことは、決定した。
オレは作業小屋を出して、そこで煉獄の実の解体作業を行なうことにした。
道具類を並べてから、不織布マスク(肌にぴったりの業務用を模したもの)とゴーグルと不織布手袋を装着。
ガラス容器の中に、煉獄の実を置き、ガラス板でフタをする。
どうなるのかわからないので、大袈裟なくらいな方がいいだろう。オレも命は惜しいし。
鋭いメスをフタの隙間から差し入れ、煉獄の実にそっと当てる。
メスに力を静かに入れていく。
皮に食い込むのがわかる。
風船のようには、割れない。
ゆっくりとノコギリを使うように、引いたり押したりしていく。皮に少しずつメスの線が描かれる。
少しすると、開いたところから、赤い煙のような粉が舞い上がっているのに、気が付いた。
すごく細かい、ということか。これを見ているだけでも、くしゃみが出そう。我慢するよ。ここでくしゃみをして、手元がブレたら、穴が突然大きくなって、空気が入り込み、粉が広まろうとする。
慎重に煉獄の実の皮を切っていく。
四分の一周ほど、カットできた。
容器を九十度まわす。
それからまたメスを入れ、四分の一周ほどカット。
そのあいだにも細かい粉の煙が湧いてくる。
メスを止めた両端にメスを入れ、皮を外す。
その途端、赤い煙が容器の中に充満し、溢れ出てきそうになり、メスを抜いて、フタを閉じた。危ない危ない。
メスにクリアの魔法をかけて、きれいにする。
ふむ。これを活用しようとするならば、専用の道具が必要だね。
ブツブツつぶやきながら、思考と製作を行なう。
時間は知らぬ間に過ぎ去り、朝まで没頭していた。
※煉獄の実
独自植物。
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