188【薬師シファー】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、3話ではなく2話連続投稿します(1話目)
そんな感じで、町や村をまわり、商いをする商人を手伝った。
ある日、メカタ村というところに立ち寄った。
商人のひとりに連れられて、薬師のところへ向かう。
そう、ムカゴのことを知っている薬師のもとを訪れるのだ。
訪れたのは、ほかの家々とたいして変わらない建物。看板が出ているわけでもなく、客が訪れているようすもない。
ほかと違うのは、軒先に薬草と思われる植物が吊るされていることか。
開け放たれたままのドアを、商人が入っていく。
「おばば、いるかい?」
反応がない。商人の声が聞こえない?
商人が出てきた。何も言わずに、家の裏へと歩いていく。
オレは、商人のあとを付いていく。
家の裏には、畑があった。どうやら薬草畑らしい。
そこには、大きな麦わら帽子をかぶった小柄な女性が膝立ちになって、薬草の世話をしていた。
「おばば」と商人が声をかける。
その女性が振り向き、こちらを見る。
「おや、珍しい」と意外と若い声。「キンバリーさんじゃないか。どうかしたの?」
「やぁ。今日は、こちらの人を案内してきたんだ」
「冒険者のサブと言います。よろしくお願いします」と一礼。
彼女が立ち上がり、帽子を取った。
「こちらこそ。薬師のシファーです。この村では、おばば、と呼ばれているけどね。お茶でも飲むかい?」
彼女は二十代中ごろに見える。が、エルフなので、実際の歳はわからない。
家の中に入り、四人掛けのテーブルに着く。
シファーさんが、お茶を淹れてくれる。
彼女が腰掛ける。
「いただきます」
お茶をフゥフゥと冷まして飲む。スーッとする。
「ハッカ茶かな?」
「おや、珍しい呼び名を知ってるねぇ」
「自分の国にもあったので」
「そうかい。それで? アタシに用があって来たんだろ?」
「はい」ムカゴの瓶を出す。「これを大量に欲しいんです」
「ムカゴだね。うちのを欲しいというなら、これほどもないよ?」
「いえいえ。そうではなく、栽培方法が知りたいんです。自分で栽培しますので」
怪訝な表情をする彼女。
「いったい何をするつもりだい?」
ふたつの瓶を出す。醤油と味噌だ。
「このふたつを作りたいのです。どちらも調味料です」
「調味料? ムカゴで作るのかい?」
「はい。ムカゴを乾かして、お湯で茹でて、発酵させます」
「ハッコウ?」
「腐敗です。それを発酵と呼んでいます」
「なるほどねぇ。ちなみにさ、今し方、気付いたんだけどさ、この入れ物はなんだい?」
「ガラスというもので作った入れ物です。材料は水晶とほぼ同じです」
「どこかで売っているかい?」
「自分で作ったので、売っていません」
「どうやって、作ったんだい?」
「材料を溶かして、成形します。でも高温で溶かすので、大変ですが」
「依頼したら作ってくれるかい?」
「まぁ、はい。ですが、材料調達やら加工費で、かなり高いですよ?」
「いくらくらいだい?」
「ものによります。板状とか瓶型とかの形状、大きさ、個数などなど。場合によっては、作れないこともあります」
「これは?」とムカゴの瓶を指す。
「それひとつなら、銀貨五十枚」
「うっ、確かに高いね。十個で金貨五枚か」と考え込む。
「多少は値引きできますけど。それにムカゴの栽培方法を教えてもらえれば、無料にしてもいいですよ?」
「それほどに欲しいのかい?」
「はい」
「わかった。十個頼む」
「フタは、いりますか?」
「フタもガラス?でできないかい?」
ムッ、それは……
「難しいかい?」
「ガラスのフタが、この木製のフタと同じにするには、かなりの手間がかかります。これって意外と歪でして、きちんとまん丸にしないといけないんです。内側もフタ側も」
「そういうことか。単純に上に載せるだけなら?」
「あぁ、板状にして載せればいいか。それなら手間はさほどないですね」
「では、それで頼む。こちらではムカゴの栽培方法を書いておこう。それで良いかい?」
「はい」
契約成立の握手を交わす。
「空いてる土地はありますか? 作業用に小屋を用意したいんですが」
畑のそばにある空き地を借りた。そこに作業小屋を出す。
「マジックバッグか。大きいものを入れておるな」
「材料や道具は、小屋の中なので、たいしたことはありませんよ。じゃぁ、キンバリーさん、ここで作業しますので、明日、迎えに来てもらってもいいですか?」
「わかりました。みなさんには、なんと?」
「ムカゴの栽培方法とガラス容器の交換で、話がついた、と」
キンバリーさんを見送って、シファーさんに向く。
「たぶん、明日の朝にはできるはずです」
「徹夜するつもりかい?」
「大丈夫です。出来上がりは熱を持っているので、それを冷ます時間がかかるだけです。オレ自身は食事もしますし、睡眠も取ります。ご心配にはおよびません」
「そうか。わかったよ。よろしくね」
それでオレはガラス容器の製作に入った。
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