186【旅立ち】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、3話ではなく2話連続投稿します(1話目)
なお、ここから“新たなる旅”編としてスタートします。もう追手の心配もなく、彼らは冒険者としての旅をはじめます。
行ってきまぁす、とオレたちは屋敷を出た。
セバスさん、ネイリンさん、ヤルダさんが見送りしてくれる。
そう、旅に出発したのだ。
三日前に決めた。目的地は、エルゲン国。当初、国外脱出に選んでいた国だ。
そこを選んだのは、たいした意味はない。ほかでもよかったが、まぁ、最初に選んだ国だったから選んだだけだ。
行く先を決めると、商業ギルドと冒険者ギルドに、話をしておいた。
予定としては、冬前に戻ってくるつもりだ。ユキオウたちのこともあるし。
門の前で、別のグループと合流。
このグループは、商人ふたりと護衛のC級冒険者パーティー三人組。パーティー名は《商いの風》。長年、この五人で一緒にやっているらしい。
お互いに紹介して、出発する。
途中までは、オレたちと一緒だ。
単独の旅でもよかったが、まぁ、急ぎ旅でもないし、護衛仕事の勉強も兼ねて、こちらからお願いした。
彼らも快く承諾してくれた。ありがたい。
ゆったりとしたスピードでの旅行き。道の両端には、まだ雪が残っている。それでも馬車が通れるくらいには、なっている。
オレは、まわりからさまざまなものの収集をしている。もちろん、必要以上には集めない。絶滅させるつもりはないから。
彼らは、ときどき小休止を取る。ちょっと多いくらいに。
「冬のあいだ、ほとんど動いていないから、馬がへばるんだ。それでゆっくりの移動になる。小休止が多いのもそのためだ」と《商いの風》のリーダー、ドレックが説明してくれた。「そっちは大丈夫そうだな」
「ああ。運動場で走りまわっていたからね」
「羨ましいな。雪に閉ざされたら、どうにも動けないからな」
「わかるよ。そうすると、今日はずっとこんな感じか?」
「そうだな。馬のようすを見ながらになるからな。申し訳ないな、遅くて」
「いやいや。気にしないでくれ。こっちは護衛仕事の勉強をさせてもらっているんだからさ。いつもどおりで頼むよ」
「ありがとう。助かる」
昼過ぎに、魔獣が現れた。ゴブリンがワラワラと。合計で十二匹。武器は、棍棒や錆びついたナイフや剣。
ドレックには、事前に、助勢が必要ならば声をかけてくれ、とは言ってある。
だから、三人に任せるが、すぐに出られるように、若者四人を降ろし、スタンバイさせておく。
見ていると、たいした手間ではなかったようで、淡々と倒していた。
討伐終了する。
オレはドレックに近付く。
「やっぱり春先で腹を空かせていたようだな。力が弱かった」とドレック。
「そうだろうな。ところで、コレ、どうする?」
オレは討伐されたゴブリンを指差す。
「本来ならば、右耳を集めて、冒険者ギルドで換金するんだが、護衛仕事の最中だから、道の脇に放っておく」
「なら、もらうな」
「構わない」
許可はもらった。一体一体、収納する。マジックバッグに入れるフリして。
「マジックバッグか。羨ましいな。それがあれば、運ぶ商品の量を増やせる」
「売ろうか?」
「あるのか?」
「うん。いくらなら買う?」
「性能は?」
「遅延機能付きのとないヤツ。どちらも重量軽減。大きさはそちらの馬車くらいかな」
「遅延機能のある方なら、金貨一枚。ない方なら、銀貨五十枚。ダメだよな」と苦笑い。本当はもっと高いのだ。それはあちこちの店で確認している。
「いいよ。どっちがいい? それとも両方?」
「おいおい、本当にいいのか?」と驚くドレック。
「うん。ある筋からちょいと買い叩いて、たくさん買ったんだ。でも買いすぎた。ちょっとでも捌きたい」
ということで、彼は両方購入してくれた。
それを聞きつけた商人ふたりもそれぞれ買い求めてくれた。
もとはタダ(盗品)だからね。こちらとしてはアイテムボックスの肥やしを減らせて、ありがたい。整理が大変なんだ。いや、ごめん。たいした手間ではありませんです。
それ以降は、特に魔獣が現れることはなく、夕方に野営を張ることになった。テントは使用しない。魔獣が出た際に、咄嗟の行動が必要だからだ。
薪を集めて、火を起こす。彼らは火打ち石を使って、火口に火花を散らし、小さな火を作る。それから小枝に火を移し、小枝からだんだんと火を移して、焚き火を作った。この方法では、火打ち石と火口、それに時間が必要だ。
若者四人は、それを真剣に見つめていた。オレたちだけなら、火魔法を使って、火を起こすが、今回は護衛仕事の勉強だから、先輩冒険者に習うことにしている。
夕食は、黒パンと干し肉、それとお茶。オレたち日本人は苦労して食べる。
「なんだなんだ。食べたことがないのか?」とドレック。
「いや、食べたことはあるんだ。ただ、オレたちには合わなくてな」と苦笑。
「そんなんじゃ、やっていけないぞ?」
「うん。そうなんだけどさ。冬のあいだ、贅沢しすぎてな。旅のあいだでも贅沢したくなってるよ」
「できるなら、やればいい」
これは、やれるならやってみろ、と言われてる?
「んじゃ、明日からな。もちろん、おすそ分けするから」
「期待しないで待つよ」と笑われた。
不寝番は、オレたちを含めて行なう。順番を決める。それからちょっとした会話をして、それぞれの寝床へと向かい、眠りに着く。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




