182【さみしいこと】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、3話ではなく2話連続投稿します(1話目)
ユキオウたちの子どもたちが、ウルフ程度の大きさになった。
四匹を連れて、外に出ると、陽が登るところ。もう春なので、街なかの雪もほとんど溶けている。
まだ朝方なので、気温は低い。
ユキオウの背中に乗る。
ゆっくりと歩き出すユキオウ。そのあとに、子どもたち。殿がセツカ。
今日は、狩りではない。これから子育てに森へと入るのだ。オレは門までの引率係。
門のところへ来る。門衛はうなずくと、静かに門を開けた。オレたちは、そのまま通る。
門衛には事前にこのことを教えてあった。門衛だけではなく、冒険者ギルドにも。
従魔を野へと放つのだ。それなりの手続きが必要になる。ただし、従魔登録はそのままなので、従魔はいずれ戻る予定ということも申告してある。
街道へと出て、しばらく歩き、ある場所で、ユキオウが止まった。
オレが背中から降りる。
『ここから入るのか?』
『うむ』
『戻ってきたときの手順は、覚えているよな?』
『心配ない』
『だな。セツカ、またな』
『サブたちも元気でね』
『ふたりの帰りを待っている』
『うむ』
ふたりはそれ以上、何も言わずに、子どもたちを連れて、森へと入っていく。
子どもたちが、チラチラと振り返る。
オレは手を振った。
姿が見えなくなると、索敵で見送った。
トボトボと門へと戻る。
門衛が、肩を叩いてくれる。励ましてくれているのだろう。まぁ、さみしいのは確かだから、気持ちはありがたい、と思う。
その足で、冒険者ギルドへ。
中には、酔い潰れた酔っ払いたちと、これから依頼を受けようと掲示板に群がる冒険者たちがいた。
掲示板への貼り出しは、基本、依頼主からの依頼を受け、書類が出来次第、行なわれる。だから、朝一番に来ても、いい依頼が貼り出されている保証はない。あるのは、たいてい薬草採取や魔獣討伐などの常設依頼ばかりだ。これらは受け付けする必要がない場合が多い。だから、薬草採取を主にやっている冒険者は冒険者ギルドに寄らずに門の外へと出ていく。
それでも夜のうちに、いい依頼が貼り出されることもあるので、我先にと受けられるように、みんな来ているのだ。
ちなみに、飲んだくれてるのは、夜間の依頼を済ませ、依頼達成をギルドで報告した冒険者がほとんどらしい。仕事を終えたんだから、そりゃ飲むよな。
「サブ」とオレを呼ぶ声に、そちらを見る。冒険者ギルドのギルマスであるドネリーだった。食事処のカウンターのスツールに座っている。まさか飲んでないよな? ジョッキは……ないな。
そこへと向かう。
「見送りは、終わったのか?」
「ああ」
「問題はなさそうだな」
「もちろん」
「冬前には、戻ってくるんだよな」
「ええ。でも絶対じゃないし。オレたちの方が間に合わない可能性もありますから」
「そのときは、任せてくれ。うちで預かるからな」
「期待してます」
「エサ代がかからなきゃ、いいんだがな」
「たぶん大丈夫。自分たちで狩ってきてくれるはずです。マジックバッグを渡しましたから」
「はぁっ!? 従魔にマジックバッグを渡した?」
「ええ。ちなみにですけど」と聞き耳を立てている人間に聞こえるように言う。「ユキオウたちを倒して奪おうとしてもムダですから。バッグはユキオウしか使えない仕様になっています。奪っても見た目と同じにしか使えないんですよ。まぁ、死んだら、オレのところに戻ってきますし、死んだ状況も記録されていますから、誰がやったのかもわかりますからね。その場合、ケルピーをけしかけて、川に引きずり込んでもらいます。何度も溺れてもらいますから。よろしく」
「うわぁ、想像しちまったよ。おい、テメェら! 今の、聞いたな! 手を出すんじゃねぇぞ! オレの仕事を増やすんじゃねぇぞ!」
やらねえよ、倒せるかよ、という声があちこちから返ってくる。
まぁ、記録を取っている、というのは、ウソだけどね。
「で、ユキオウたちは、バッグを使えるのか?」
「使えなかったら、渡さないよ」
「それもそうだな。ケルピーの方はどうなんだ?」
「どうって? オレたちにくっついてくるけど?」
「そうか。まぁ、それならそれでいいんだ」
「従魔とはいえ、魔獣だから?」
「そんなところだ。それほど心配はしていない。念のためだ」
「だろうな」
「ほかにあるか?」
「いや。もしかして、待っていたか?」
「ないとは言わないが、朝飯を喰っていたところだ。気にしなくていい」
「そっ? じゃ、また」
「おう」
それで屋敷に帰った。憂鬱な気分で。
朝食後。お茶休憩。
そこでユキオウたちが森に戻ったことを報告した。
えぇっ、と全員が驚く。ダルトンとランドルフも。
そう、誰にも言わずに、森に帰したのだ。
「なぜ、言ってくれなかったんですか?」とキヨミ。怒っている。
「ユキオウたちと話し合った結果だよ。子どもたちを自然に帰すのに、人間の記憶は少ない方がいい、と判断したんだ。もしも彼らが大人になって、人間と遊ぼうと考えたら、どうなる?」
みんなが押し黙る。そんなことは、想像する必要もない。
「彼らにとっては遊びでも、人間にとっては恐ろしい魔獣にしか見えない。襲われると思うだろうな」
「でも」とマナミ。涙目だ。「教えてくれても――」
「教えてどうなる? ユキオウたちを困らせる結果になるだけでは?」
それで何も言えなくなるマナミ。
「彼らのことを考えての決断だよ。まぁ、気持ちはわかるけどね」
ダルトンが口を開く。
「冒険者ギルドには?」
「事前に申請しておいた。門衛にもな」
「そっか」
「まぁ」とランドルフ。「さみしくなるが、ユキオウたちとは、また会えるんだ。そんなに悲しむことはない」
慰めているのはわかるが、ちょっとひと言、多いな。
ほら、女子ふたりに睨まれた。
その眼力に、怯むランドルフ。
「とにかく、そういうことだ。子どもたちとはお別れだが、ユキオウたちは帰ってくる。それを待とう」
それ以上は、誰も口を開かなかった。
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