179【春近し、若者索敵、オラ見物】
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少し長いため、3話ではなく2話連続投稿します(2話目)
子どもたちが運動場を駆けまわるようになるころ、雪は溶け出し、春の陽射しが暖かさを運んできた。
そうなると、人間の活動が増え、魔獣も活動を増やし、接触が増えることになる。
冒険者も本格的に活動をはじめる。
薬草採取にはじまり、それらの護衛、魔獣討伐とさまざまな仕事が発生するのだ。
商人の護衛は、街道の雪がなくなるまでは、ない。それでも雪がなくなれば、商人の馬車が活動できる。しかし、街道まわりは森であることが多く、魔獣もまた出没しやすい。森が途切れれば、今度は盗賊が出てくる。街道での護衛が必要なのは間違いない。
ちなみに、初夏から秋口にかけては、魔獣被害が減る。なぜなら、人間を襲わずとも魔獣は食料が手に入りやすいからだ。お互いの縄張りさえ侵さなければ、ほぼ大丈夫らしい。
今日は、ユキオウの狩りに付いていく。メンツはユキオウ、オレ、ダルトン、若者四人。ランドルフは冒険者ギルドで王都冒険者ギルドとの連絡をする、と出掛けた。
門で門衛に魔獣出現報告や注意事項がないかを確認。特になし。オレの索敵にいっぱい反応しているんだけど。まぁ目視だけでは仕方ない。
門を出て、しばらく歩き、そこでみんなに索敵の確認をする。みんなもスクロールでスキル取得してもらっていて、それなりにレベルは上がっている、はず。
誰もが、半径三十メートルほどの索敵範囲。そんな中で、半径六十メートルを叩き出したのは、マナミだった。
「なんで?」とダルトンが首を傾げる。
「たぶん」とオレが予想を言う。「向こうの世界で野外活動をしていた関係じゃないかな」
「野外活動?」
「向こうでは、街なかでも屋内に近い環境でな。山とか草原とかは、一種の旅行になるんだ。そういうことをマナミは繰り返していたんだ。まぁ、簡単に言うと、新人冒険者の研修みたいなものかな」
「いろいろと突っ込みたいけど、わかった。わかんないけど、わかった」
「ようするに経験者ってことだな」
「了解。んで?」
「それぞれで反応が異なっていると思う。どうだ?」と四人にも聞く。
「微妙ですね」とエイジ。
「距離があると、同じにしか」とハルキ。「それとも同じか?」
「そのあたりを実際に確認していって、経験を積むんだ。それだけで、種類は無理でも、大きさは特定できる。このあたりでは、ゴブリンが一番大きい魔獣だ。発見したら討伐してくれ。オレはユキオウに付いていく。では、散開」
オレはユキオウとともに歩いて、その場をあとにする。
セツカは、今ごろ、子どもたちに、雪歩きをさせているだろう。完全に溶けたあとでは、難しいからな。まぁ、水の上でもできるけど、ヘタすると溺れちゃうし。
『ユキオウ、子どもたちを連れて、いつごろ森に行くつもり?』
『春の中ごろから終わりになるかならぬかのとき、かな』
『そのあいだ、狩りは何度くらい?』
『あと、二度三度ほどか』
『わかった。さて、行きますか』
『うむ』
今日の狩りは、中物狙いだ。ユキオウとしては、イノシシ(ボアー)系の獲物が欲しいとか。
索敵で調べると、見つけた。レッドボアーという魔獣だ。
『おお』と驚くユキオウ。『大物だな。子どもではないのだろう?』
『んと……成体だな』
『まずは、近付いてみよう』
ということで、視認範囲に移動。
索敵の反応から、方向と距離がわかる。
ある程度、近付くと、ユキオウも気配を感じたらしい。速度を落とす。
その存在を確認して、潜む。
方向と距離から、それは見えているはずだった。だが、そこには雪の中に赤茶色い大岩が鎮座していて、その向こうだろうか、と思った。
ところが、鑑定さんが反応して、情報をくれた。
その大岩が、レッドボアーだった。
確かによく見れば、その岩肌は短毛だとわかる。
『あれをやるの?』
『うむ。本来ならば、セツカと一緒にやるのだが』
『デカ過ぎでしょ。ツメやキバも通じない気がするんだけど?』
『そのとおり。だが、あれにも弱点はある。走って木にぶつかれば折れるほどの力だが、その力が自分に向けば、命取りとなる。しかし、それは人間が罠を張るしかない。では、我々はどうするか、というと、魔法を使う』
『魔法ねぇ……あっ、そういえば、雷魔法を使えるんだっけ』
『うむ』
『使うところを見たこと、なかったな』
『これから見せよう。ただし、個体によって、効かない場合もある。どちらにせよ、近寄らぬ方がいいぞ』
『了解』
そこで空中に浮遊して、毎度おなじみ、隠遁のローブをかぶる。マスクもする。
それを確認せずに、ユキオウは身体を低く保ちながら、レッドボアーに近付く。
上空から見ると、レッドボアーは、大岩ではないのはわかる。だが、たいした違いがない。
レッドボアーは、雪の下の何かを食んでいるらしい。モゴモゴとアゴが動いている。ユキオウには気が付いていない。
充分に近付いたユキオウは、レッドボアーの背中を一気に駆け上がった。
レッドボアーはようやく気付き、身を震わせる。それで振り落とすつもりだ。ユキオウはそう長くいられないだろう。
そこへすごい閃光とともに雷が放たれた。間髪入れずに、雷鳴が轟く。
雷はレッドボアーの頭に集中して放たれた。脳を焼き尽くそう、ということか。
凄まじい雷魔法。まるで樹木を断ち割る自然の雷にも似て見えた。さすがに断ち割るまではいかないが。
決まった、と思った次の瞬間、レッドボアーはまた身震い、いや、頭を振っている。
ふたたび、雷が落ちる。
それも頭を振って、意識を保とうとするレッドボアー。四肢も固定されているかのように微動だにしない。
草食の四足動物は、眠っていても、足が骨や腱で固定されているそうだ。危険が迫ったときに、すぐに逃げられる体勢なのだとか。それに馬などは横たわると、内臓を圧迫してしまうらしい。おそらく、レッドボアーもそうした構造をしているのかもしれない。
もう一度、雷の閃光が走った。
レッドボアーは、頭を振ることを、もうしなかった。
うなだれた、かと思ったら、前のめりに倒れた。鑑定してみると、生きてはいるが、状態異常となり、動けない状態だった。痙攣もしている。
ユキオウもそれはわかっているらしく、レッドボアーのノドの柔らかいところを噛み千切る。
レッドボアーの首から、血が溢れて出てくる。
『サブ、終わった』
『まだ生きているけど?』
『これで立ち上がったとしても、もう脅威でもなんでもない。全身が痺れ、心臓は弱まり、血も流れている。意識も朦朧としていて、動けぬだろう。まぁ、完全に死ぬまでは、気を抜かぬ方がいいがな』
『なるほどね。じゃ、トドメを差しても問題ないかな?』
『ん? サブがやるのか?』
『ああ。獲物を横取りはしないよ?』
『任せる』
オレは、アイテムボックスから、剣を取り出した。ミスリル合金の剣だ。
剣を振りかぶり、一気に首を落とした。
これでレッドボアーは全身から力が抜け、ただの肉の塊になった。
オレは剣を振って、血を払い落とした。そうして、アイテムボックスにしまう。あとで手入れしないとな。
レッドボアーからは、大量の血が溢れていく。鉄臭い血のニオイがあたりを覆う。
『このまま、持っていく? それとも何かするのかな?』
『もう少し待ってくれ。ある程度、血を出しておきたい』
『血抜きだな』
オレは、レッドボアーの後ろ足に浮遊の魔導具を固定して、浮き上がらせる。首を下にした。それだけで血が出ていく。本当は心臓が動いているときにやると、早いんだが。
血抜きを終えると、魔導具を付けたまま、頭とともに収納する。魔導具の魔石が、かなりの魔力を消耗していた。それだけ重かったのだろう。
『さて、帰りますか』
『うむ』
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