177【子どもはどうする?】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
長いため、今回は、1話のみ投稿します。
ちょっと切る場所が……(汗)
それから二日して、ユキオウの『可愛い可愛い』という念話が漏れ聞こえてきた。どうやら、ようやく、そばに寄ることを許されたようだ。
オレはほくそ笑み、念話は控えた。
翌日。朝のご用伺いに、運動場を訪ねた。
最初に気付いたのは、厩舎にラキエルの姿がなかったことだ。まぁ、明かりは点いていたから、いることは間違いないだろう。
『ラキエル?』
『こっちこっち』となんか楽しそう。
『こっち、と言われても念話じゃわからんよ』
『ユキオウのところ』
そちらに目をやると、ユキオウとセツカのところに、ラキエルがいた。
『おいおい。そんな間近に』
『大丈夫だ』『怒ったりしないから、大丈夫よ』とふたり。
『そう?』
そこへと近付くオレ。
三匹とも柔和な雰囲気。
みんなの視線の先には、二匹のネコがいた。でもネコじゃないのはわかっていた。四つ足が太いのだ。頭も大きい。体毛は、全身、真っ白。これはおそらく、雪の中で見つからないように擬態(?)しているのだろう。トラ柄は意外と見つけやすいのだ。
『可愛いな』
『だろう』と胸を張る親馬鹿のユキオウ。
『ありがとう』とセツカ。子どもを見る優しさは、母親のそれ。
『明日』とオレ。『みんなに見せても大丈夫かな? ダメなら女子ふたりだけでも。見るだけでも』
『いいわよ。触らなければ』
『よかった。よろこぶよ』
そのことを話すと、ふたりは飛び上がってよろこんだ。
ほかのみんなは、ブーイングするが、まぁ、ゴネないでくれた。
「それで」とウーちゃん。「名前はどうするのじゃ?」
「名前? 付けないよ。オスメスもわからないし。だいたい、あの二匹だって、町人たちを安心させるために、ユキオウが従魔という手を選んだだけで、春には自然に帰すつもりなんだから」
「ぬっ、今後も一緒ではないのか?」
「そうもいかないでしょ。もともと自然の中で生きてきたんだし。子どもたちを人間に慣れさせるのもどうかと思うし」
「うむむ」
「だいたい食事はどうするの? そろそろゴブリンの在庫も怪しいんだよ? 狩りにはオレが付いていかなきゃダメだしさ。門のところで、行ってらっしゃいってわけにもいかないし」
「それもそうじゃな」
「それにこのまま一緒っていうことは、旅も一緒っていうことだよ? まぁ、しなくてもいいと言えば、いいんだけどさ」
オレは、みんなを見る。みんなも考え込んでいる。
「そういう意味では」とランドルフ。「今後のことをそろそろ考えねばならないな」
オレはうなずいた。ダルトンも同様に。
「ですが」とエイジが口を挟む。「ユキオウたちの考え次第じゃないんですか? 彼らの意見も聞いてみませんか?」
「ふむ」と大人三人は考え込む。
「ふたりは」とウーちゃん。なぜか、笑顔。「一緒がいい、と言っておるぞ」
「はぁ?」
「一緒がいい、と言っておる。たまに狩りに行きたいが、とも言っておるが」
『ユキオウ、ウーちゃんが』
『うむ。聞いたとおりだ』
『子どもを自然の中で育てる、って考えはないの?』
『なくはない。森の中は危険に満ちている。生き方を覚えねば、生き延びられぬ。そのために、春からある程度を森の中で育てるつもりだ。それを許してもらいたい』
『そういうことか。ちょっと待って。こっちで話し合うから』
『うむ』
「本人に聞いた。春から子どもを連れて、森に戻るそうだ。ただし、一時的なもので、戻ってくるつもりらしい」
「そういうことか」とダルトン。「子どもの教育のためだね」
「うん」
「その後」とランドルフ。「子どもはどうするつもりだと?」
『ユキオウ、森から帰ってくるとき、子どもはどうするの?』
『子どもに選ばせる。だが、親離れするだろう』
『なるほどな。じゃぁ、ふたりが戻ってくると考えても?』
『うむ。それでお願いしたい』
『そっか』
「親離れするだろうって。そのあと、こっちに合流するみたい」
「もう子作りしないのか?」
『こっちに戻ってから、子作りしないの?』
『たぶん、無理だろう。お互いに若くはないのだ』
そのひと言に、オレは固まった。
えっ? 若くはない?
『それって、残る寿命が短い、ということか?』
ユキオウが笑った。
『そうではない、サブ。子作りは難しい、と言っているだけだ。寿命自体はまだまだ遠い』
ホッとした。
『驚かせるなよ』
『すまぬな』と笑うユキオウ。
「子作りは無理だろうって。寿命はまだまだ大丈夫らしいけどね」
「意外とおっさんだったんだ」とダルトン。失礼だな、コイツ。まぁ、今にはじまったことでもないか。
「ならば」とランドルフ。ダルトンの言葉を無視したね。「少なくとも一年ほどは森に戻るのか?」
『ユキオウ、森にはどのくらい、いるつもり?』
『秋の終わりごろまでか』
『冬場の過ごし方を、教えはしないの?』
『もちろん、教えはする。だが、一緒にいては子どものためにはならぬ』
『なるほどね』
「秋の終わりごろまで、だって」
「とすると、その前にエサを確保する必要があるな」
「それもそうか」
「それなら」とダルトン。「ゴブリンとかの討伐依頼を受ければいいじゃん。集落ができたら、それ中心に、さ。ほかの魔獣も出てくるだろうしさ」
「つまり、ここを拠点にするのか?」とランドルフ。ちょっと苦い顔をしている。
「ランドルフは違う考えなのか?」
「いや。もう国外脱出はする必要がないだろう。旅の必要はなくなった。ここで旅は終わり、と思うと……少し、な」
「旅をしたい、と思っているのか? これは疑問ではなく、ひとりの意見として、聞きたいんだ」
「正直、オレは根っからの冒険者だ。あちこちへと冒険をしたい」
「うん。ひとつの意見として受け入れるよ。ダルトンはどう?」
「リーダーはサブだぜ?」
「個人の意見を聞いているんだ。判断材料だよ。その上で、今後の活動方針を決めるって話だよ」
「了解。オレはどこに行ってもいい。だけど、酒が飲める場所でないのは困る。それから美味い飯も食いたい。マナミ以外の飯で美味いものがあるとは思えないけど、ほかのも食べたい。だから、旅をするのは賛成。ここで暮らすのも賛成。居心地いいもんな」
「それは否定できないな。さて、ウーちゃんは?」
「今のところ、不満はない。楽しんでおる。儂もダルトンと同じ意見じゃ」
「わかった。四人は? それぞれで意見を言ってくれよ。ひとりひとりの意見を参考にするからな」
うなずく四人。
「じゃぁ、オレから」とハルキ。「やっぱり強くなりたいです。ここにいて、強くなれるんなら、います。でも違いますよね?」
「おそらくな」
「なら旅を選びたいです」
「わかった」
「オレは」とエイジ。「ハルキほど、強くなりたいわけじゃありません。でもそれなりには強くなれたら、とは思います。だから、どっちでも構いません」
「それは、どちらも選択できるが、まわりの意見に流されます、と言っているのか? エイジ、ここではどっちを選ぶのか、聞かせて欲しいんだ。ウーちゃんはこんなだから、どちらも得るものがある、と判断しているんだ。でも今のエイジの言葉は、自分の意見とは言わないぞ?」
あっ、と思わず口をあんぐりと開けるエイジ。
「エイジは、後回しな。次は?」
女子ふたりが顔を見合わせる。どっちが先かな? ふたりがこちらを向く。
「私から」とキヨミ。「魔法の勉強がしたいです。基礎を覚える前に、発動しちゃっているので、わからないで使っている感じなんです」
「確かに」
「だから基礎を学んで、ちゃんと使いたいと思っています」
「わかった。マナミは?」
「私はもっと料理を作りたいです。量ではなく、バリエーションを増やしたいです。そのためには、調味料や食材が少なくて。ちょっと不満です」
「そうなんだよなぁ。マナミのおかげで料理は美味いけど、あれこれの味が恋しくなっているよな」
「そうなんです。それでできれば、そうした調味料や食材を見つけたいです。そうした情報が欲しいです」
「明確だね。わかった。さて、エイジ」
「はい」どうやらまとまったようだ。「正直に言います。わかりません。バスケもハルキに誘われたからで、自分で決めたわけでもありません。みんなみたいにやりたいこともありません。でもこれだけは言えます。みんなと一緒にいたいです」
「わかった。さすがの賢者様も自分のことはわからないか」
後頭部をかくエイジ。
「まずはそれでいい。そのうちに何か見つかるかもしれない。そのときは言ってくれ。みんなも、な」
全員がうなずいた。
「ちなみに」とダルトン。「サブは?」
「それ、聞いちゃう?」
「モチ」と楽しそうだ。
「オレはみんなといて、充実している。物作りも好きだ。冒険も好きだ。命のやり取りは苦手だ。正直、怖い。従魔のみんなも好きだ。ラキエルはちと捻くれてるけどな」そこでみんながクスクス笑う。「正直、商売はそんなにやりたいことでもないし、作った魔導具が売れるのはうれしいし。でもダルトンが言ったように、あちこちで美味しい食べ物を食べたい気持ちもある。エイジ、オレも正直な話、わからんよ。旅に出るか、ここに残るか。どちらもメリット・デメリットがあるから」
「はい」
「で、だ。まず、春までにできることをしよう。この町の雪掻き依頼をしながらな。春になったら、旅に出る前提で、だ。行き先は未定だがな」
「そこは」とダルトン。「応相談ね」
「そういうこと。決まっていた方がいいのは、わかっているけど、特にないからな、今のところは」
「そうだな」とランドルフも同意。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価をお願いします。励みになりますので(汗)




