176【産まれた】
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少し長いため、3話ではなく2話連続投稿します(2話目)
三日後。明け方に念話で起こされた。まぁ、少しウトウトくらいの浅い眠りのときなので、すぐに気付けた。
『産まれた! 産まれた!』というユキオウの声だった。よろこびと怯えが入り混じった声だ。
『おめでとう、ユキオウ。なんで怯えているの?』
『だ、だって、セツカが怖くて、近付けんのだ』
あぁ、気が立っているのね。
『落ち着けよ。少し離れて見ていればいい。っていうか、初めてのお産でもないだろう?』
『う、うむ。しかし、何度繰り返そうが慣れぬ』
『わからんでもない。男はこういうときは役立たずだからな』
『経験があるのか?』
『友人のお産に、ちょっとな。旦那さんが遠出しててさ、その代わりにね』
『なるほど。しかし、可愛いのに近寄れないのは、歯痒いな』とため息。
『わかるわかる。子どもが大事なら、近寄るな。セツカが隠そうとして、食べてしまうかもしれないからな』
これは、犬も猫もよく聞く話だ。
『初めての子どもは、それで亡くした』
おっと、経験済みだったか。
『経験してたか。失礼したな』
『あれ以来、怖くて近付けないでいる』
『それでいいと思うぞ』
『うむ』
『そういえば、食べ物を与えなくても大丈夫か?』
『あぁ、正直、欲しい』
『ゴブリンで大丈夫か?』
『悪くないと思う』
あっ、そうか、いつもは小物の魔獣を用意していたんだっけ。何か別のはあったかな?
ゴブリン以外の魔獣は、その大部分を解体して、キヨミとマナミのアイテムボックスに分配していた。
だから、オレの持っているのは、ゴブリンとその他、である。
あっ、そういえば……
『ボアって、食べるかな?』
ボアというのは、大蛇のことである。
ちなみに、ボアーは、イノシシ系魔獣の総称だ。
『ボア? あれは出会ったら逃げ出さないといけない魔獣だ。食べるなど、とんでもない』
『そうか』
『まさか、倒したのか!?』
『うん』
『どうやって?』
『首をちょん切った』
『ちょん、切った?』
『自分で作った剣で。いやぁ、あれには驚いたよ。だって、スパッと抵抗なく切れたんだからさ』
『ボアは硬いウロコで覆われていて、人間の剣でなぞ、切れるものでは』
『らしいね。みんなも呆れてたわ。あはは』
湖からの移動中の野営で、オレが不寝番のときに襲われた。オレはゴブリンを出して与えると、ボアは口にくわえた。
同時にオレは隠遁のローブでボアの視界から消えた。このローブ、マジで高性能。赤外線の漏出も隠してくれるのだ。これでボアからは見えなくなる。
それで移動して、横から首をちょん切った、というわけ。
そのまま放っておくと、満足せずにみんなを襲う恐れがあったから、討伐したのだが。
あんまりにもスパッと切れたので、思わず、自分の剣を見てしまったほどだ。例のミスリルを混ぜた剣である。
ボアの身体は、首を斬られたあと、ウネウネと動いていたが、うるさいのですぐに収納した。
アイテムボックスが生き物を入れられないという縛りがあるのに、ボアの身体が入ったことに首を傾げたが、考えても答えは神様しか知らない、として考えるのをやめた。
ちなみに、ボアの胴回りの直径は五十センチはなかった。ウーちゃんによると、成熟前の若者らしい。
でも長いんだよね。十五メートルはあると思う。測ってないけど。
とにかく、ユキオウにはゴブリンを与えた。その際に、セツカをチラ見したが、こちらを睨んでいた気がする。触らぬ神に祟りなし、ということで、すぐさま退散した。
朝食後のお茶休憩のときに、産まれたことを話した。キヨミとマナミが案の定、よろこび、騒ぐ。
「でも気が立っているから、見に行くのは、しばらく我慢して欲しい。ユキオウも近寄れないんだから」
わかりました、とふたり。残念そうだ。
「見れるようになったら、ふたりに一番に教えるから」
それで笑顔になるふたり。
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