173【雪歩き教室】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、3話ではなく2話連続投稿します(1話目)
翌朝の食後は、当然、雪歩きの勉強会。
さすが勇者一行である。若さも手伝っているんだろうな。小一時間で、走りまわっていた。
そんな四人を見て、悔しがっていたのは、ダルトン。ランドルフはとりあえず歩けるくらいにはなった。なのに、ダルトンはムダな力が入っていて、一向に雪の上に立てない。
助言するか? でもヘタな助言だと、余計に力が入りそうだし。煽っても余計だろうし……
「おぉぃ、ダルトン」
「何!?」
「おまえは、酒飲んだ方が、きっとうまくイクぞ?」
「どういう意味だよ!」と睨まれた。
「おまえさ、オレの作った魔法剣をそんなに力尽くで、振ってたのか?」
「えっ?」ポカンッとするダルトン。
「いとも簡単に振って、石を割ってたじゃん。それと同じだよ。力んでムキになっても、無理だよ。そのくらい、気が付けよ、まったく」
これでイケるはず。
ダルトンはそれで、力んでいたのに気付き、どうやら反省したらしい。
あれ? ポーチから小瓶を取り出したぞ? あの野郎、ホントに酒を呷りやがった。
「プハーッ」と声を上げると、オレを見た。「酒じゃねえからな! 魔力回復ポーションだ! 悪いか!」
こっちは、首を振るしかない。
「よぉし、やったるぞ!」
また力を入れるのか?
いや、魔力の循環を意図的にやってる。なるほど。そうやって、気持ちを落ち着けるのか。
おっ、ダルトンのようすを見て、ランドルフも真似しはじめた。
基礎に立ち返る、というのは、いい発想かもな。
実際、ダルトンはすぐに雪の上に乗れた。だが、バランス制御はまた別だ。それでも氷の上を歩くような感じで、歩いている。
ランドルフもさきほどよりは、ふつうに歩けるようになった。
もうすぐお昼というところで、雪がちらつきはじめた。しかもしっかりと積もる雪だった。
昼食の時間だ、と言って、終わらせた。
六人とも、汗だくだ。一度、風呂に入らせ、軽く汗を流させた。そのままだと、風邪を引くだろうからな。
お昼のお茶休憩後、キヨミとマナミを呼んで、執務室に。
「ミシンなんだが、とりあえず、ここまでできた。といってもオレはミシンをちゃんと見たことも裁縫をやったこともないんだ。先日、ヤルダさんに習いはしたけどな。それで作ってみたのが、これだ」と机の引き出しから取り出したものを置く。
「不細工なのは勘弁してくれ。で、改良点を教えて欲しい」
「えっ、裁縫を習ったんですか?」とマナミ。
「うん。ミシンの機構自体はわかるんだが、どういうふうに縫われればいいのか、わからないから。それで教えてもらった」
「すみません」とキヨミ。「もっと簡単だとばかり」
「いや。オレもそう思っていたから。それで、縫えたのがこれなんだけど」とアイテムボックスから縫い合わせた布を出す。
それをじっくりと見るキヨミ。それから言った。
「縫い目をもっと細かくお願いします。それから針が太過ぎです。縫い方もあといくつか欲しいです」と容赦のない意見。
「現状、レベルはどのくらい?」
「雑巾にもなりません」ビシッと言われた。凹む。
「キヨミ」とマナミがキヨミを咎める。
「マナミ、いいんだ。少なくともこれでは服も作れないレベルなのはわかっているからさ」
「でもここまで作るのも結構な時間が」
「まぁね。でもここまでできたら、あとは改良していくだけだから。まぁ、その改良でまた悩むんだろうけどね」と苦笑。
「あのぉ」とキヨミ。「申し訳ないことを聞きますけど」
「うん。なんでも言って。言うのは、タダだから」と笑む。
「下着って、何種類もの布がありますよね」
オレは記憶からブラジャーのことを思い出す。
「確かに」
「その布って、この世界に、というか、この町にありますかね?」
「ん? そういえば、気にしたことないな。ヌイグルミを作ったときに見なかった?」
「まぁ、いろいろとありはしたんですけど」
「ブラジャーに使える生地って」キヨミの反応で、なんとなく察した。「ないの?」
「はい。絹なんてなかったですし。私が買っていたのは、ポリウレタンとかナイロンとかの化学繊維ばかりで。それにレースなんかも」
「ウオオオッと叫びたくなるな、それ。おじさん、画用紙で作りたくなってきたよ。画用紙ないけど」と冗談めかして言ってみた。
「画用紙?」とマナミが何かを思い付く。「あの、もしかして、不織布なんて作れるものですか?」
「不織布? あぁ、マスクなんかに使われているヤツね」
「それ、ブラジャーにも使われていたりするんです」
「えっ? ちょっと待って」オレは例の本を出して開く。知識が頭に浮かぶ。「作れるな。でもこれも簡単じゃない。素材もあるかどうか」
「調べてもらえませんか? 不織布があるだけで、生活にもいろいろと役立ちますので」
「わかった。そうか、マスクでブラジャーを作るのか」と想像する。
「なんか変な想像してそう」とキヨミが苦笑している。
「うん、してる。マスクブラ。売れそう?」
「売れなさそう」とふたりに笑われた。
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