170【ヘッジホッグ】
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少し長いため、3話連続投稿します(1話目)
さらに翌日。外を確認すると、降ってはいるが、視界は良好だ。
索敵してみる。詳細情報を見ると、全員、無事だ。
「大丈夫だったみたいだな」
「サブの索敵か。なら今日にでも帰ってくるじゃろう」
「うん」
これを聞いて、セバスさんとヤルダさんがホッとする。
「動き出したら、知らせるから。そしたら帰宅したときのための準備をしよう」
その場にいる全員がうなずく。
一時間ごとに索敵してみる。
もうすぐお昼というところで、ようやく動きが。でもなんでこんな時間まで、動かなかったんだ?
あれ? 動いた、と思ったら、止まった? 動かない?
詳細情報を見る。これはハルキか。ん? 状態異常? 毒!?
もしかして、と全員の詳細を見る。同じだ。
まずい。すぐさま行かなきゃ。
「彼らが状態異常になってる」
「何!?」
「とにかく、向かう」
オレは、防寒着とゴーグルを装着。
ウーちゃんが服を脱いでいる。
「ウーちゃん?」
「儂も行く。ラキエルも」
いた方がいいか? オレの逡巡はすぐに決定に変わった。
「よし、行こう。セバスさん、みんなの受け入れ体制をお願いします。なぜか毒にやられているらしい。応急処置はしますが、体調がすぐに戻るとは思えません」
「お任せください」
「頼みます」
ウーちゃんが通れるように、玄関ドアを開く。
ウーちゃんが通り抜けざまにケルピー化する。
外にはすでにラキエルの姿が。
運動場前には、ユキオウが、いつでも走り出す体制にいた。
『ユキオウは、ここにいて、屋敷を守って』
『わかった』と力を抜くユキオウ。
ウーちゃんが、乗れ、と言ってくる。
オレは躊躇わずに乗った。浮遊しないと、乗れないんだけどね。
ウーちゃんの背中に収まると、すぐに身体が吸い付けられた。ケルピーの能力か。
『最短距離で行くぞ。方向を指示するのじゃ』
最短距離? ありがたいけど。
『どうした? 指示せんか!』
「方向でいいの?」
『そうじゃ』
「なら、あっち」と指差す。
ウーちゃんが飛び上がる。まるでジェットコースターで登っていくような感じ。慌てて、ゴーグルをして、ウーちゃんにしがみつく。
ラキエルはどうしただろう、と思ったのは、もう空を走っていたときだった。そう、空中を走っていたのだ。高さ五メートルくらいか。振り返ると、後ろからラキエルが付いてきている。
しかし、毒にやられたなら、毒消しポーションを使えばいいのに、なぜ使わない?
しかも、なぜ全員が同じ状態なんだ?
そういった疑問が頭を走るが、振り払う。今はそれどころじゃない。
毒消しポーションは、オレもアイテムボックスに入れてある。大量に作って、みんなにも渡している。それなのに……
もしかして魔獣か?
オレはすぐさま、条件を変更して、索敵開始。反応あり。みんなの近くだ。
魔獣の詳細情報を出す。
『ウーちゃん、“パラリシスポイズンヘッジホッグ”って知ってる?』
『アレにやられたのか?』
『みたい』
『アレの近くに寄ると、針が飛んでくる。アレの針に刺されると、身体が麻痺する毒が入ってくる。多くの魔獣が身動きできなくされてきた。だが、アレ自体は身を守るために針を使うだけじゃ。それでもかなりの時間、動けなくなる。だから、そのあいだに、ほかの魔獣にやられてしまうのじゃ。では、もう逃げたあとか?』
『いや、まだ、そばにいる』
『いかんな。近くに寄れば、今度はこちらがやられるぞ』
『大丈夫。なんとかする』
広場上空に到着。
白い雪の中に、ポツンと黒いものが見えた。索敵の位置からして、ダルトンたちのキャンプ地だ。外にひとり倒れている。ハルキだ。なんとかそこまで逃げたのだろう。
パラリシスポイズンヘッジホッグらしき姿はない。索敵によると、どうやらキャンプに潜り込んでいるようだ。
まず、ハルキのそばに降りる。浮遊しながらハルキのそばに行く。
毒で倒れているのが、わかっているので、仰向けにして起こし、毒消しポーションを口に含ませる。ハルキのノドがゴクリッと音を立てた。
まぶたを開くハルキ。
「サブ、さん」
「もう大丈夫だ」
「ハリ、ネズミ」
「ヘッジホッグだから、そんなヤツか。わかった。大きさは?」
「バス、ケット、ボール」
「そんなには大きくはないか。わかった。休んでろ」
毛布を出して、巻いてやり、雪の上に横たえる。
念のために、結界を張る。
問題は、どうするか、だ。
生け捕るか、殺すか、で方法が変わる。
だが、状況的に雷爆弾・静は難しい。ヘタをすると、まわりのみんなを巻き込んでしまう。
とりあえず、みんなの救出か。
魔導具をひとつ、手にする。
キャンプの中に入ると、倒れている五人の姿を確認。
撤退前の慌ただしさの中を襲われたらしい。荷物の片付けが中途半端だ。
いた。
こちらに黒い背中を見せている。
モゴモゴしていることから考えて、何かを食べているらしい。
魔導具の設定を半径一メートルにして、短時間で起動するようにスイッチを押す。それからヘッジホッグのそばに落とす。
すぐに反応するヘッジホッグ。
だが、そこで魔導具が機能を発揮する。
と同時にヘッジホッグが針を打ち出した。
しかし、半径一メートルのところで、跳ね返される針。
そう、この魔導具は、獲物を内側に閉じ込める結界を張るものだ。
もともとヘッジホッグは、防御のために針を持っているが、動作が緩慢なために逃げ出すのが難しい。だから、相手に針を打ち込み、相手が麻痺しているあいだに、逃げるのだ。
何を食べていたのかと覗いてみたら、携帯用固形糧食だった。木の実や乾燥果物を蜜なんかで固めたものだ。マナミが作っていた。
ヘッジホッグは放っておき、五人のところへ。
ウーちゃんが入ってきた。
「どうじゃ?」
「捕まえた。ウーちゃん、裸じゃない。寒いでしょ。はい、防寒着。ちょっと手伝って」
オレがアイテムボックスから出した防寒着を着込むウーちゃん。それからオレの指示で、キヨミとマナミの手当てをする。
オレもダルトンとランドルフとエイジの手当て。
まぁ、手当てといっても、毒消しポーションを飲ませて、毛布を巻くだけだ。身体が少し動けるようになったら、そこで栄養ポーションを飲ませるつもり。これは一種のスープだ。少なくとも飲んだ感じは。
『ラキエル、ハルキはどうだ?』
『モゾモゾしてる』
『わかった』「ウーちゃん、そっちはどう?」
「片言で言葉を発する程度には回復しておる」
「ハルキを見てくる」
ハルキのところへ行くと、毛布から出て、上半身を持ち上げていた。
「どうだ、ハルキ?」
「気持ち悪いです」
栄養ポーションを飲ませる。
「吐くなよ」
「大丈夫、です」我慢している。
「おまえが動いてくれてよかったよ。動かなかったら、もう一日は気付かなかった」
「それを聞いて、安心しました。みんなは?」
「大丈夫。まだ片言だが、話し出しているから」
「よかった」ホッとしている。
「もう少し大人しくな。あっちを見てくるから」
「はい」
オレはスタスタとキャンプに向かう。
「サブさん!」
ハルキの叫びに振り返る。
「どうして、雪の上を歩けるんですか?」
ん? あぁ、無意識に雪歩きしてたわ。
「ユキオウに教えてもらったんだ。その話はあとでな」
笑んで手を振ると、キャンプへと向かう。
※パラリシスポイズンヘッジホッグ
独自魔獣。
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