167【ランクアップとネイリンさんの料理】
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少し長いため、3話ではなく2話連続投稿します(2話目)
門に着いたのは、暗くなる手前だった。
そこからは、まず冒険者ギルドへとアーマードベア討伐報告に行く。ユキオウには外で待ってもらって。
カウンターの女性スタッフに、アーマードベア討伐を報告すると、ギルマス執務室へと通された。そうなるのね。
「どうした?」とドネリーさん。
スタッフが教える。それに驚くドネリーさん。
「ホントに?」
「スノータイガーのユキオウとね。ほかには気配はなかった。あれだけだと思う」と報告。
「なんでまた、森に?」
「ユキオウが、セツカの腹の子どもにいい栄養を与えたい、って言うからそれで狩りに出掛けたんだ。そしたら、門衛からアーマードベアの目撃情報があるって聞いて、討伐に行ったわけ。で、すぐに戻って、門衛に報告して、そのまま、狩りに行った」
「えっと、アーマードベアのあとは、何を?」
「ジャイアントディアー。内臓が美味いんだって」
「それをサブとスノータイガーで?」
「両方ともユキオウが狩ったよ。オレは付き添い。野放しにはできないからね」
「それはそうだな」と唖然としている。
「帰っていい? セツカが獲物を待っているんだけど」
ドネリーさんが頭を振って、こちらを見直した。
「その前に、倒した魔獣を見せてくれ」
ということで、解体場へ行き、両方出す。
「どうやって、倒したんだ?」
「えっと」
アーマードベアとジャイアントディアーの倒され方を説明する。
「すごいな。直接見たかったぞ」
「だろうね。見応えがあったよ」
そのあと、ジャイアントディアーを収納して、カウンターへ。そこでギルドカードの提示を求められ、出す。
ドネリーさんがスタッフに小声で何か言うと、スタッフさん、うなずいた。それから何かを操作してから、カードを両手で差し出した。
「昇格、おめでとうございます、サブ様」
「へっ?」と変な声を出してしまった。
「おめでとう、B級だ」とドネリーさん。
「なんで?」
「当たり前だ。何匹、強い魔獣を従えていると思っているんだ? A級にしないだけありがたいと思ってくれ。おまえ自身が強くなくても、あんだけの魔獣を従えているだけで脅威だ。やろうと思ったら、こんな町なんて、すぐに壊滅だ」
想像しちゃった。
「……確かに」
「テイマーとしてもすごいことだからな。養えているのが不思議なくらいだ」
「確かに」
「だから昇格した。何か文句があるか?」
「言いたい、けども、反論の余地がない」
「納得してくれて、ありがとう。助かる」
オレは肩を落として、ギルドを出た。
『どうした、サブ?』
『ちょっと気落ちすることがあっただけ。帰ろうか』
『うむ』
屋敷に帰宅して、その足で、セツカのところへ。
『お帰りなさい、ふたりとも』
『ただいま』
『あら、サブ? どうしたの?』
『ちょっとね。心配ないよ。はい、お土産』とジャイアントディアーを彼女の前に出す。
彼女がすごくよろこんでくれて、こちらもうれしい。おかげで憂鬱な気分もマシになった。
ラキエルが食べたそうな顔をしている。
「ダメだからな」
『わかってるよ。でも美味そう。ゴブリンでもいいや、ちょうだい』
「はいはい」
二匹出してやる。
『ありがとう。向こうは見ないようにする』
「頼むよ」
馬の視野は、結構広いから、見えちゃうだろうな。
屋敷に戻ると、セバスさんに出迎えられた。
「ご無事で何よりです」
「ただいま。何もなかった?」
「はい。伝言鳥もまいりませんでした」
リビングに行く。
ウーちゃんがお茶してた。
「おお、お帰り。狩りはどうじゃった?」
ソファーにボスッと座る。
「アーマードベアとジャイアントディアーを狩ってきた。アーマードベアは冒険者ギルドに置いてきたよ。討伐対象だったから」
「こんなに短時間で二匹も。それはすごいな」
「もっと時間がかかるかと思ったんだけどね。居場所はわかっていたから、見つけるのはわけなかったよ」
「サブの索敵能力は、さすがじゃな」
「おかげで、冒険者のランクが上がったよ」ため息。
「悪いことか?」と首を傾げるウーちゃん。
「ランクが上がるとさ、面倒なことが指名依頼されたりするの。しかも断れない類いだったりするわけ」
「それは嫌じゃな」
「でしょ。それに貴族にも目をつけられるし。厄介事が増えるわけ」
「ふむ、それは良くないな」
「でもまぁ、ウーちゃんたちを従魔にしている時点で、その恐れはあったんだけどね」
「そうか。覚悟していた、ということか」
「うん。回避したかったけど、仕方ないね」
そこへセバスさん。
「サブ様、夕食に何か召し上がりたいものがございますか?」
「そうだねぇ……みんながよければ、みんなの食べたいものでいいよ。それと、一緒に食べよう。オレとウーちゃんだけじゃ寂しいから」
「そうじゃな。儂もその方が良いな」
「承りました」
そうして、全員が食卓に着いた。
「サブ様、ウーちゃん様」とネイリンさん。「マナミ様の指示なく作りましたので、お口に合いますかどうかわかりませんが、私の腕を振るいました。ご賞味くださいませ」
「わかった」「もちろんじゃ」
見た目は、彩り豊かだ。マナミがいつも留意している点のひとつ。彩りは目を楽しませる。それだけでなく、新鮮な栄養も含まれる。
香りも鼻孔をくすぐる。肉の脂身や香草の香り。コショウの香りもあれば、燻した香りもある。
肉の焼けるジュージューする音もいい。
「口に入れる前から、美味いな」
ウーちゃんなんか、ナイフとフォークを握って、まだかまだかと待ち焦がれている。
「では、いただきます」と言い終わる前に、ウーちゃんが食べはじめた。
いつもなら、たしなめるマナミが今日はいないので、本来はオレがたしなめるべきだが。
まぁ、許そう。たった今、アツアツの肉を食べて、口腔内を火傷したから。ヒイヒイ言いながら、水を飲んでいる。
スープ、サラダ、燻製魚、焼けた肉などなど。もちろん、醤油やソースなど欲しい調味料はここにはない。しかし、ないなりに作れる最高の料理だろう。
最後に冷えたデザートを食べてから、口を開いた。
「ネイリンさん」
「はい」緊張した面持ち。
「どれも美味しかった。しかし、何よりも驚いたのは、全体の調和だ。過不足のない量というのもあるが、味や歯触りの変化、香りの付け方。全体的に満足だ。これならマナミが厨房に入らなくてもいいんじゃない?」
「ありがとうございます。ですが、マナミ様にはまだまだ敵いません。学ぶことがまだまだございます」
「わかった。とにかく美味しかったよ」
「ありがとうございます」
「ホントに美味かったぞ」
「ありがとうございます、ウーちゃん様」
「うむ。強いて言えば」と続けるウーちゃんにネイリンさんが固まる。「もっと量が欲しかったのぉ、ガハハハッ」と大声で笑う。
それにホッとするネイリンさん。
「まだ食べるの?」
「いや。あんまり食べると、風呂に入れなくなるのでな」
「誰かに何か言われた?」
「ハルキがそんなことを言っておった。アヤツ自身の話らしいぞ」
「あぁ、なるほどね」
お茶休憩してから、ミシン作りに精を出す。しかし、難儀するのはわかっていた。だって、ミシンというものをちゃんと見たことがないのだ。いくら、例の本を見て理屈はわかっても、それを形にするのはまた別だ。それでも頑張って挑戦するよ。
※ジャイアントディアー
独自魔獣。のつもりだった。
小説家になろう 江口連 著
『とんでもスキルで異世界放浪メシ』にも登場。
※カリブー
ウィキペディア参照。
北アメリカ大陸に生息するトナカイ。
本作世界には、存在しない。
※アーマードベア
独自魔獣。のつもりだった。
小説家になろう 遠野九重 著
『異世界で手に入れた生産スキルは最強
だったようです。 (以下略)』にも登場。
※馬の視野
ウィキペディア『ブリンカー』参照。
350度だとか。人間は120度。
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