166【雪中訓練と討伐と狩り】
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少し長いため、3話ではなく2話連続投稿します(1話目)
翌朝、早くにみんなは出発した。雪は小降り。風もない。積雪はあるが、大丈夫だ。
と思ったら、ランドルフがそのまま、雪に潜っていく。なんと、浮遊の魔導具を使わずに進むらしい。
「おい、ダルトン」
「魔導具は最小限の使用にする。魔石がなくなれば、ああなる。だろう?」
「そうだけど」
「みんな、便利に慣れているから、それを知ってもらわなきゃ。便利が突然なくなったら、ってね」
「そうか。わかった。そう決めたのなら、任せた」
「おう」
彼らの後ろ姿を見送って、オレは運動場へと入った。
『表が騒がしかった。何か、あったか?』とユキオウ。
『うん。みんなが雪なかの訓練に出掛けた。三日ほどで帰ってくるよ』
『そうか……サブ?』
『ん?』
『オレも外に出たら、ダメか?』
『表に出るだけでなく?』
『森に。狩りをしたい。子どもにいい栄養を与えたい』
『狩りかぁ。獲物は何を?』
『できれば、ジャイアントディアー。この時期は木の幹の皮をかじっていたりする』
ジャイアントディアーは、鹿系魔獣だ。
鑑定さんに索敵を頼む。
いた。
『ちょっと離れたところにいるな。倒すのは時間がかかるかな?』
『見つけるのが大変だ……ん? 今、いる、と言ったか?』と目を見開くユキオウ。
『ああ。探したい獲物を索敵できるんだ。だから、探す必要はない。あとは狩る時間。結構かかる?』
『襲って首に噛みつけさえすれば、すぐだ』
『逃げようとするでしょ?』
『いや。雪の上を走る魔法が使えないから、ツノで追い払おうとしてくる。ツノが首を守っているから、すぐには噛みつけない』
『ツノを折る、なんてできないの?』
『春になれば、自分で折る。森の中では邪魔になるからな。あるいはメスを得るために闘って折れる場合もある。だが、冬場はなかなか折ることはできない。以前に何度か叩き折ろうとやってみたが、ダメだった』
『それじゃ、どうやって?』
『後ろにまわって、背中に飛び乗り、首まで行って、噛みつく。噛みついても頭を振って、ツノを当ててくるが、我慢するしかない』
『それほどやっても狩りたい獲物なのか?』
『もちろんだ。特に内臓が美味く、子どもの栄養になる』
『そういうことか。わかった。ユキオウひとりだと、門を通れないから、オレも行く』
『いいのか?』
『ああ。狩れたジャイアントディアーは、オレが運ぶから、引きずる必要もないし、その分、早く帰ってこられる。夕方までには戻れるだろう』
『運ぶ?』
『ゴブリンを出していただろ。同じ場所にしまうんだ。重くもないし、狩りたてのままだから、美味しいと思うぞ』
『なるほど』
『楽しみだわ』とセツカ。目を細めている。
とりあえず、オレの準備のあいだに、ゴブリンを食べててもらう。
ラキエルもごねるので、ゴブリンを与えた。
「おまえさんは、出掛けたいとは、思わないの?」
『ウーちゃん様のそばにいる』
「出掛けたくないだけじゃん」
セバスさんに事情を話し、出掛ける準備をする。防寒着とゴーグルを身に着ける。
「たぶん、来ないとは思うけど、伝言鳥が来たら」
「大丈夫でございます」ちょっと引きつっているけど?「対応は、ダルトン様より伺っておりますので」
「なるほど」
「おケガをなさいませぬように」
「うん。じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
オレは、ユキオウとともに出掛けた。
ユキオウは雪の上をスタスタ走る。
オレは、浮遊の魔導具で飛ぶ。
『その魔法、いいね。親から教えられたの?』
『うむ。雪が降ると、動けなくなるからな。親としては、狩りのようすも見せたいし、生き方のすべてを教え込まぬとまずいからな』
『そうだよな。オレもそれ、使えるかな? 魔力がたくさん必要?』
『いや、子どもでも使えるのだから、たいしたことはない』
『教えてくれる?』
そこから少しのあいだ、雪歩きの魔法を習う。確かに魔力量は必要ない。
問題はバランス感覚だ。ユキオウたちは四足だからいいが、オレは二足。立つだけならいいが、歩くとなると、伝い歩きしないと、ひっくり返る。
『こりゃ、ちょっと練習が必要だな。先にそっちの用事を済ませよう』
『ありがたい』と笑うユキオウ。
門に来ると、門衛たちが驚く。
門のまわりは雪掻きされていて、門扉は開かれていた。
「ちょっと散歩に行ってくるよ。夕方までには帰るから」
「気を付けてください。アーマードベアがいる、と報告を受けていますので」
「アーマードベアか」『アーマードベアがいるって。行く?』
『狩ってもいいのか?』
門衛さんに尋ねる。
「アーマードベア、倒しても大丈夫? この子、狩るつもりなんだけど」
「えっ? まぁ、倒してくださるのは、ありがたいですが」
「そっ? えっと?」
アーマードベアを索敵。おっ、意外と近い。
「じゃ、行ってきます。ユキオウ、行くよ」
門を出て、見つけたアーマードベアへと向かう。
『先にアーマードベアを倒しておこう』
『良いな。爪研ぎにいい』
プッ! 吹き出してしまった。
『爪研ぎって、ホントに?』
『あの身体がいい具合の硬さで、軽い準備運動にはなる』
『あらら』
十分もせずに見つけた。デカい。三メートル以上あるな。雪の下が想像通りなら。
『オレはここで待つよ。ひとりの方がやりやすいだろ?』
『頼む』
次の瞬間、ユキオウの姿が消えた。それくらい速く、アーマードベアへと向かったユキオウ。
アーマードベアが気付くも、雪に足を取られて、身動きできない。
ユキオウがアーマードベアの腕を両方とも、一撃ずつの腕落としで削る。
両腕を落とされたアーマードベアは絶叫を上げる。
その絶叫もすぐに途切れた。
その頭が身体から離れて、雪の中に落ちた。
崩れ落ちるアーマードベアの身体。
『フッ。ちと物足りないな』
『あらあら。ユキオウに飛び掛かられたら、アーマードベアも一瞬だな』
オレは、アーマードベアを収納していく。
索敵してもほかに危険な魔獣はいない。
一度、門に戻って、倒したことを報告。
あとで、冒険者ギルドに報告するように、と言われた。懸賞金が出るそうだ。
また、森へと向かった。
ジャイアントディアーは、だいぶ離れたところにいた。こちらもデカい。背丈がないだけ、アーマードベアよりは低いが、ツノの枝分かれが立派だ。大鹿というより、馬化したウーちゃんの身体に牛の頭を載せた感じ、といえばいいだろうか。地球のカリブー(トナカイなのか?)という動物によく似ている。といってもテレビでチロッと見た程度でしかないけどね。
『行ってくる』
『うん。気を付けてな』
『うむ』
ユキオウは今度は素早く動かず、ゆっくりと背後に忍び寄る作戦らしい。ちょっと時間がかかりそうだな。
オレは隠遁のローブをかぶる。オレの役目は静かに見ていることだ。
ユキオウはジャイアントディアーの背後に着くと、ジャイアントディアーが気付いた。振り向いて、ユキオウを見つけると、身体をユキオウに向けようとする。
ユキオウはそこからダッシュしていき、回り込むようにして、ジャイアントディアーの尻に前足を叩きつける。ツメが喰い込む。身体を引き寄せ、にじり寄るように首へと近付く。首を守ろうとする枝角を片足で押さえ、首に噛み付いた。牙をしっかりと喰い込ませるユキオウ。
しばらくジャイアントディアーは足掻いていたが、力を失って、その場に崩折れ、やがて目から光が消えていった。
それを確認しても、なおも離れないユキオウ。確実に死んだとわかっても離すべきではないのだ。離したとたん、息を吹き返し、逃げるか襲うかしてくるのだ。
ようやく離れたユキオウ。
フウッ、と息を着く。
『サブ、頼む』とジャイアントディアーを見たまま、言ってくる。
オレは隠遁を解いて、その場に飛ぶ。それからジャイアントディアーを見た。
『これはふつうの大きさ?』
『まぁまぁだ』
『そうか』
回収。
『いい獲物が狩れた。ありがとう、サブ』
『うん。セツカもよろこぶな』
『ああ』
オレたちは、とっとと帰る。
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