162【《探索の神獣》の迷い】
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少し長いため、3話ではなく2話連続投稿します(1話目)
話していたら、夕方近くに。
「夕食、食べていくだろう?」
「しかし」と外を見るバッケル。
「泊まっていけば? ひとりひと部屋ってわけにはいかないけど、充分なベッド数があるぞ」
「そうか? しかし、宿屋に夕食を頼んでしまったからなぁ」
「なら知らせればいい。どこだ?」
「《人狼亭》というところなんだが」
「あぁ、あそこか。この町に来て、初めて泊まったところだ。そういえば、子どもがいたな。会ったこと、ないけど」
「そうか」
「可愛いぞ」と獣人のひとり。三人ともあの亭主と同じくだらしない顔をする。
「ふふ。どうだ? 必要なら知らせに行かせるが」
「この雪の中をか? そりゃ、悪い」
「オレが行きますよ」とエイジ。「浮遊の魔導具で飛んでいきますから、たいした時間は掛かりませんし」
「そうか? なら頼むよ。マナミの料理は食べたいから」
おっ、正直者ですな。
「はい」
エイジは、防寒着を着て、出ていった。
それを見送って、マナミが調理しに厨房へと向かう。
「失礼いたします」とセバスさん。オレの耳に顔を近付け、ボソボソとつぶやいた。
「ありがとう」
それで会話に戻る。
セバスさんは、彼らの部屋の準備が整ったことを知らせてくれたのだ。どうやらヤルダさんが準備してくれたらしい。セバスさんはここにいたからね。
ガルーラが立ち上がり、窓に寄る。窓ガラスを指先でコツコツ叩く。首をひねっている。
「ガラスというものだよ、ガルーラ」
「ガラス?」
「マナミが料理に使っていたから見たことはあるはずだ。で、水晶は知っているだろ。あれと似た素材で作ったんだ」
「水晶か。ん? 作った?」
「うん、作った。枠は大工さんにお願いしたけどね」
頭を振っているガルーラ。
「気持ちはわかるよ、ガルーラ」とダルトン。「サブには、これの異常性がわからないんだ」
「失敬な。こんな透明なガラスの存在が、この世界にはないだろうことは知っているさ。だからって実現できる便利なものを実現しないのは、どうなんだ? もちろんさ、危険なものの場合は別だよ。そのあたりのことは自覚しているんだ」
「わかったわかった」とダルトン。「自覚しててもダメなのね」
バッケルたちが笑い出す。
「おまえたちふたりは、変わらないな」
ほかの彼らも賛同する。
「湖でもそんな感じだったよな。まぁ、サブの異常性は今にはじまったことじゃないからな」
「それは」とダルトン。ニヤニヤして、「否定しないよ」とオレを見る。
「はいはい。オレは異常ですよ。従魔も次から次へとテイムして、ありえないと思っているよ」ふぅ。
オレが意気消沈するのを、バッケルは苦笑する。
「まぁまぁ。向こうの世界がそれだけ便利だったんだろう、わかっているからな、サブ」
と慰めてくれるが、言葉だけだとわかる。それでもないよりマシだ。
「それはそれとして」とガルーラ。「一枚いくらだ?」
「その一枚で、金貨一枚」
全員がオレを見る。
「今、なんつった?」とダルトンが睨んでくる。
「一枚で、金貨一枚。たぶんな。大量生産すれば、もっと安くなるけど。まぁ、相当な設備投資が必要だし、素材の入手方法も確立しないと、一般人には手が出ないかな」
「そんなのを屋敷中の窓に、はめ込んだのか?」
「必要だから、はめ込んだ、それだけだよ」
ん? まわりが引いている? 主に《探索の神獣》が。
「あれ? どこに引いているの?」
「金貨一枚するものを」とバッケル。「この屋敷中にはめ込んだ、だと?」
「うん。何かおかしい? うんちに金の器を使うよりは正常だろう?」
「あ、あぁ、そ、そうだな」と頭を抱えるバッケル。そうか?とかつぶやいている。
まわりのみんなが、首を振っている。やれやれって感じ。
「サブが」とガルーラ。「平常運転でよかったよ」と苦笑する。
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