161【《探索の神獣》ふたたび】
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少し長いため、2話連続投稿します(2話目)
昼食前に来客。
「《探索の神獣》のバッケルと言います。サブさんは――」
その声に反応して、リビングから顔を出す。
「よう、バッケル。入ってくれ」
セバスさんがドア前を開け、彼らを招き入れる。
彼らをリビングに招く。
みんなが立って出迎える。
「雪の中、よく来てくれた」
「ああ。森の中での雪中行軍よりはだいぶマシだ。慣れればたいしたことはない」
「まぁ、ともかく、座ってくれ」
全員を座らせ、ヤルダさんがお茶を出す。
《探索の神獣》が、ヤルダさんを見て、引いている。
「おい」とバッケルが自分のパーティーを低い声で叱責する。「やめろ」
彼らがジロジロ見るのをやめる。
「すまない」とバッケルが頭を下げる。相手はヤルダさんだ。
「いいえ」とヤルダさん。顔色変えず。「気にしておりません。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」オレに向く。「すまなかった」こちらにも頭を下げる。
「謝罪を受け入れるよ。でも、君らでも気にするんだな」
「迷信とはわかっているんだが、親兄弟、親戚、ご近所なんかからの話があって、ハーフエルフには近寄り難くてな」
「いいさ。そういうのを信じてしまうのはどこでも同じだからな」
「すまん」
「いいよ。でも、この町に来ていたとは、思わなかったよ」
話題が変わったことに、明らかにホッとするバッケルたち。
「サブたちがイジジ村を出たあと、森の情報を冒険者ギルドが高額で買い取ってくれたんだ。で、その金でどうしようか、と話し合ったんだ。サブからもらった報酬もあるしな。それで、サブたちがミゼス町に向かった、というのは聞いていたから、サブたちの顔を見るついでに温泉に入りに行こう、ということになってな」
「なるほど」
「マナミの姿がないな」
マナミは、昼食の準備中だ。
「あっ、そういうことか。マナミの料理が食べたくて、来たんだな」
彼らが、図星を指されて、照れ笑いする。
「ヤルダさん、マナミに」
「お伝えいたします」と厨房へと下がる。
それを確認してから、バッケルが尋ねてきた。真剣な顔で。
「サブ、よくハーフエルフを雇う気になったな」
「ここに来て、初めて聞いたからな、そんなこと。それにもとからここで働いていたからな」
「もとから?」
「うん。それなりに一緒にいるけど、悪いことは起こっていないし。彼女自身、きちんと働いているし」
「そうか。やはり、迷信だったか」
「まぁ」とランドルフ。「実際に一緒の生活をしてみないとわからないものさ。ハーフエルフは優秀だ。蔑まれていたからか、仕事をさせれば、きっちりやる。給仕だろうが、冒険者だろうがな。彼女もそんなハーフエルフのひとりだ。得難い人材だと思う」
「そうか。いや、悪かった。自分の観念が凝り固まっていたようだ。今後は、ハーフエルフを見たら、気を付ける」
「そうしてくれ。そして、仕事を与えるなどしてやって欲しい。対等な人間として、な」
「わかった」
ヤルダさんが戻ってくる前に、この話を終えた。
「しかし、昨日は驚いたぞ。スノータイガーを、それも二匹も従魔にして、連れてくるなんて。ふつうは、考えられないことだぞ」
「だよな。討伐に行ったつもりが、あれだもんな」これはダルトン。「しかもねじ伏せてのテイムじゃなくて、話し合いって、なんだよ、って感じだったよ」
「それでスノータイガーにキズがついていなかったのか」
「しかも腹ペコなのに、人間襲うのを躊躇していた、って聞いてさ。魔獣でもそういうことを考えるんだ、って思ったよ」
「襲うのを躊躇う? 本当に?」
「ああ」とオレが答える。「腹に子どもがいたら、誰だって戸惑うよ、そりゃ」
「それは」とダルトン。「サブの鑑定があるからだろ? ふつうならそういう情報なんかなくて、人間に危害を加える、と思われてる魔獣をさ、討伐しよう、とするのがふつうなんだからね」
「つまり、ユキオウたちは、運がよかったわけだな。めでたしめでたし」
「これだよ」と呆れるダルトン。
「ユキオウっていうのか、あのスノータイガー」
「オスはね。メスは、セツカ。どちらもオレの国で、雪にちなんだ名前だ」
「なるほどな。いいと思う。で、そのユキオウたちはどうしている?」
「運動場で大人しくしているよ」
「運動場?」
「外に建物、あっただろ? 本当はラキエルを遊ばせるために建てたんだがな」
「雪が積もってなかったが?」
「ここの温水を屋根から流して、雪を溶かしているんだ」
「ほぉ、ここならではの仕組みか」
「ああ」
料理ができたので、食堂へと移動。
彼らは、久しぶりのマナミの料理に感嘆の声を上げる。
マナミもうれしそう。
昼食後、お茶休憩。
「そういえば」とバッケル。「ケルピーはいつのまに従魔にしたんだ?」
「ラキエルのことか?」
えっ、と驚く《探索の神獣》たち。
「あれ? あぁ、そうか、あのころはまだラキエルを馬だと思っていたんだった」
首を傾げる彼ら。
そこで説明する。
「そうだったか。いや、ウーちゃんは? いたよな、白いの」
「白いの、とはご挨拶じゃのぉ、バッケル」とウーちゃん。
「失礼。あなたは?」
「ウーちゃんじゃ。おヌシたちのことは、湖からずっと見ておったぞ」
固まる《探索の神獣》。
「では、改めて紹介いたします。人化したウーちゃんでぇす」とオレ。
「うむ、ウーちゃんである。ふつうにウーちゃんで良いぞ」と胸を張るウーちゃん。
「ひ、人化? ドラゴンじゃあるまいし」とエルフのマウル。
「い、いや」竜人族のガルーラ。「エッヘ・ウーシュカなら可能だと思うぞ。あの巨体、ドラゴンに準じた大きさだ。なれても不思議はない。信じられないが」
「じゃ、じゃぁ、昨日のケルピー二匹は、ウーちゃんとラキエル?」
「うむ、そうである」と答えるウーちゃん。
「じゃぁ」と獣人の兄弟の誰か。いまだに見分けがつかん、この三人。「ラキエルも人化するのか?」
「アヤツは、まだ半人前じゃ。あと三百年は、人化はできんじゃろうな」
「そ、そうですか」
「ウ、ウーちゃん、様?」とバッケル。
「ウーちゃん、で良い。様など、付けたら、頭から食べるぞ」と悪い顔。
彼らが身震いする。
「で、では、ウーちゃん、で」
「うむ」と笑顔。
「ウーちゃんは、どうして湖をあとにしたのですか?」
「世の中を見たくなった、ただそれだけよ」
「旅に出たとき、我々といたあいだは、馬の姿でしたが、理由が?」
「会話が煩わしかっただけじゃ。ずっとひとりでおったからのぉ。人との会話は疲れるのじゃ」
「あっ、なるほど。今はだいぶ慣れた感じですか」
「うむ。だが、ここだけのことでのぉ、ほかでは、ちとな」
「わかります。あっ、そうだ。森を無事に出られたのは、ウーちゃんのおかげ、とサブから聞いております。ありがとうございました」と頭を下げるバッケル。ほかの面々も下げた。
「よいよい。旅は道連れ、世は情けじゃ。良い旅であったぞ。それよりももうふつうに話せ。堅苦しくて嫌になるぞ」
それからは、ふつうに会話するようになった《探索の神獣》。
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