157【スノータイガー、みっけ】
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少し短いため、2話連続投稿します(2話目)
冒険者ギルド前に、浮遊の魔導具でたどり着くと、冒険者の一団がこちらを見て、自分たちの得物を抜いた。殺気も放つ。
魔獣が二匹も雪の上を走ってくれば、そりゃ、警戒もするわな。
「あの二匹は」と声を張り上げるオレ。「オレの従魔だ! 心配するな!」
ガタイのいい初老の男性が歩み出る。この町の冒険者ギルドのギルマスのドネリーさんだ。
「もしかして、ケルピーか!」
「そうです」
「どちらもプレートがあるな。いつ、登録したんだ?」
「白い方は、屋敷を購入したあたりですね。黒い方は、ここへ来る前に。どちらも商業ギルドにて登録しました」
「まさか、参加させるつもりか?」
「ええ。本人たちは遊びのつもりですがね。撹乱させる程度はできますよ」本当にできるかは知らないが、知っているように話すよ。そうしないと、誰も怖くて、共闘してくれないからね。
「遊びって……まぁ、いい。参加してくれて、感謝する」
だいたいが集まったので、作戦会議に入る。
まずは、現状説明。狩人が発見して、通報。その後、いくつかの場所で、その姿が見られた。
「まだ被害は、出ていない」とドネリーさん。「だが、確実に人里近くに現れている。いつ、被害が出たとしてもおかしくない」
全員が硬い顔で、うなずく。
「スノータイガーはおそらくエサ探しが目的だろう。人間を標的にすることも充分に考えられる。気を引き締めて、やってくれ。では、作戦だ」
テイムされている魔獣に索敵をさせていて、まだ見つかっていない。見つかったなら、そこへと移動し、討伐開始。
討伐は、一匹ずつ確実に倒す、のが望ましいが、状況次第とのこと。仕方あるまい。
スノータイガーが見つかった。とある村近くの森の中。さっそく移動開始。とはいえ、この積雪の中、ふつうの馬でも移動は難しい。
そこで、オレたち《竜の逆鱗》だけ、先行することに。なぜなら、ケルピー二匹なら雪の上を走れる。オレたちは、浮遊の魔導具で浮かび、ふたりに引っ張ってもらう。
魔導具の数があれば、ほかの冒険者も一緒に移動したのだが、オレたち分しかなかった。まぁ、ソリとかで引っ張ってもよかったんだけど、このときは考えつかなかった。残念。
順調に移動していると、索敵していた鑑定さんが反応。
「左前方に気配! 約五百歩!」
全員がそちらに意識を向ける。
ダルトンが言ったように、雪に隠れて見つけられない。
いや、鑑定さんが見つけた!
『ウーちゃん、ラキエル、止まって』
ふたりがゆっくりと停止する。
小声で話す。
「全員、気配を消せ。左前方。距離百。二匹の縞模様がわかる」
まさしく、タイガーだ。白地に黒い縞模様。それに巨体だ。まだよくわからないが、まわりの木々と比較してみても大きいことがわかる。動物園にいるホワイトタイガーとは、まったく別物だ。
「どうする、サブ?」とランドルフ。「今、向こうは背中を見せている。攻撃すれば、確実に消耗させられるぞ」
「オイラも同意見」とダルトン。「攻撃を集中させれば、無事じゃすまない」
確かにここからならオレたちの攻撃範囲だ。風向きは、こちらが風下。ニオイで気付かれる心配はなさそうだな。だが……
『ウーちゃん、気配は消しているんだよな?』
『うむ。ラキエルもな』
「全員、静かにローブ着用」
ダルトンとランドルフは、文句を言わず、従う。若者四人も。
「全員、フードをかぶって、ここで待機。ちょっと見てくる」
文句を言われる前に、ローブを着用し、上昇する。
風上にならないようにしながら、ゆっくりとまわり込む。
真横あたりで、鑑定。
ん? あらら、なるほどなるほど。
オレは、静かにそこを離れ、みんなのもとへ。
「ただいま。あれは訳ありだった」
「訳あり?」とダルトンの小声。
そこで簡単に話す。
「というわけで、オレが行ってくる」
「なぜだ?」とランドルフ。
「オレが従魔と話せるスキルを持っているからだ」
実際には、異世界言語のレベルが、勇者一行の比ではないのだ。ラキエルの場合は、こちらが馬と思っていたので、ラキエルの言葉を理解しようとしていなかったために、発揮されなかった。
「それが本当なら」とダルトン。懐疑的。「やってみなよ」と鼻で笑う。
「じゃ、行ってくる」
オレは、すぐさま移動を開始。スノータイガーの前方に。風上になるので、スノータイガーに気付かれる。警戒される。
デカい。動物園のトラが仔猫に見える。
彼らの前方五十メートルほどで、フードを取り、姿を現す。
ノドからの唸り声を発するスノータイガー。
オレは歩くように、雪の上を移動する。
一匹が立ち上がる。
距離は、もう十五メートルほどだ。これ以上は、ちょっとした挙動で襲われる。
移動をやめる。
立ち上がった一匹に、唸る。
向こうが、また唸る。
それに答えて、唸る。
その答えに、二匹は驚いている。
こんな感じのやり取りだった。
『近寄るな』
『わかるか』
『近寄るな、言った』
『言葉、わかるか』
そこで二匹が驚いたわけだ。
『言葉、わかるか』とふたたび。
『わかる』
『よかった。ふたり、お腹、減る。お腹、子ども、いる。知ってる』
二匹はこれにも驚いている。
そう、この二匹は腹を空かせているだけではなく、メスが妊娠しているのだ。
『そうだ』とオス。『喰わない、死ぬ。子ども、死ぬ』
『わかる。でも、人間、集落、こんな近く、何してるか』
『人間、喰おう、思った。だが、襲えば、人間、武器、使う。簡単、違う。オレたち、ケガ、する、大丈夫。でも、子ども、ある。考える。……おまえ、来た』
『わかった。ゴブリン、食べる、どうか』
『冬、ゴブリン、出てこない』
『いたら、食べるか』
『食べる』
オレは、二匹のゴブリンを出した。
『やる。喰え。話、あと』
オレは、ソリを出して、座る。
それからウーちゃんに念話。
『みんなに話はできる?』
『うむ』
『とりあえず、話ができそう。休んでて』
『わかった』
念話を終える。
二匹は、まだゴブリンを食べていない。
『新鮮。大丈夫』
迷ったあげくに、オスが一匹くわえ、メスの前に持っていく。もう一匹くわえ、メスのとなりに陣取り、ゴブリンにかじり付いた。
それを見てから、メスも食べはじめた。
二匹が食べ終わり、ひと息ついたところで、会話を再開することに。
『オレたち、人間、襲われる、嫌だ』返事はないが、続きを待っている。『食べ物、あれば、襲わないか』
『襲わない。だが、新鮮、ない、ダメ』
ふむ。新鮮な食べ物か。まぁ、自然に生きる生物なのだから、当然ではある。中には、腐肉漁りするのもいるけども、それも新鮮なものだからな。
『わかった。ここ、危険。人間、見つかる。強い人間、おまえたち、襲う。オレ、強い人間、仲間、いる。オレ、おまえたち、生きる、欲しい』
『どうするか』
『オレ、住み家、来る。冬、だけ。春、森、帰る』
『人間、ひとり、生きる、無理。そこ、人間、多いか』
『多い。ケルピー、いる。嫌か?』
『ケルピー?』
『後ろ、いる』
振り返る二匹。
ウーちゃんとラキエルがたたずんでいる。
二匹がこちらに向き直る。
『ケルピー、契約、したか』
『オレ、契約、した』
呆然としている二匹。結構、アホ面。
『おまえ、強いか』
『力尽く、違う。ヤツラ、自分、欲望、負けた』
『欲望?』
『白い、ケルピー、縄張り、外、見たい。黒い、ケルピー、肉、食べたい』
二匹がお互いの顔を見合わす。それからこちらを見た。
『オレたち、食べ物、安全、欲しい。契約、する』
『契約、する、必要、ない。食べ物、安全、用意、する。約束』
『契約、する、人間たち、安心。違うか』
確かにそうなんだけども。
『契約、名前、いる。オレ、名前、ヘタ』
名付けのセンス、ないからなぁ。
あっ、笑った。目が優しい。
『任せる。おまえ、付ける、うれしい』
『わかった』
あれこれ、考えに考える。二匹いるのが、困る。似た名前だと兄弟姉妹みたいだし、父親母親的な呼び名もダメだし。
良し、決めた!
『オレ、サブ。おまえ、ユキオウ。おまえ、セツカ。どうか』
『ユキオウ、うむ、うれしい』『セツカ。ありがとう、サブ』
二匹のステータスを確認。それぞれに名前が付いた。オレの従魔になっている。
『これで念話ができるかな?』と尋ねる。
『確かに』『話がしやすいわね』
『やっぱり、オレの話し方は、酷かったかな?』
『仕方ない。サブは人間なのだ。よくあれだけ話せたものだ』
『うん。さて、オレの仲間を紹介したい。いいか?』
二匹から了承の答え。
ウーちゃんに念話して、みんなに来てもらう。ローブを脱いで。
みんなが恐る恐ると近付いてくる。
「サブ」とダルトン。「話はついた?」
「ああ。契約して、屋敷に連れ帰る」
全員が固まった。
「今、なんて?」
「契約して、連れ帰る。もう契約したから」
「なんで?」
「そういうふうに提案されたの。人間のことを考えてくれたんだ。契約していれば安心だろ、って」
「ということは」とランドルフ。「人間を襲うつもりは、なかったのか?」
「いいや。人間を襲うつもりで、ここまで来たんだが、子どものことを考えて、躊躇していたんだ」
「なら、いいタイミングで接触できたんだな」
「そうだね」
「あの」とキヨミ。「名前は? 契約したら名付けしないといけないんですよね?」
オレのネーミングセンスを気にしているんだな。わかるわかる。
「オスが、ユキオウ。雪の王様ね。メスが、セツカ。雪の香り」
「あっ、意外といい名前」とは、マナミの言葉。
「そりゃ、考えましたからねぇ」
「それでどうするのさ?」とダルトン。「ここから」
「まずは、スノータイガーの脅威は去ったことを伝えないとな」
「そだね。近くの村への報告と討伐部隊への報告が必要だね。でもさ、オイラたち、ここのことを知らないから、村の場所を知らないよね。ということは、討伐部隊との合流かな?」
「そうだな。では、半分に分かれよう。先行隊とスノータイガー護衛隊に」
先行隊にダルトンと男子ふたり。護衛隊にオレとランドルフと女子ふたり。
ラキエルが先行隊を引っ張り、ウーちゃんがオレたちと同行する。
ダルトン組が出発。そのあとをオレたちが移動する。最初、スノータイガー二匹がウーちゃんを恐れる場面もあったが、従魔同士での念話ができることがわかったあとは、もう大丈夫だった。しかも二匹は雪の上を走る、ウーちゃんたちのように。そういう魔法が使えるんだな。
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