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異世界に勇者召喚されたけど、冒険者はじめました  作者: カーブミラー


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155/648

155【魔石問題と雪掻きとラキエルと】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。


少し長いため、2話連続投稿します(2話目)

 オレたちの雪下ろしは、思った以上に、魔石を消耗した。そのままでは、魔石の魔力がなくなってしまう。


 これは、湖にいたときから、すでに顕在化していた問題だった。

 だから、魔石の魔力充填装置を作った。大きくはないので、身に付けられる。人体の表面にある魔力を吸収して、魔石へと充填するのだ。吸収する魔力量は、たいした量ではない。だから、人体には影響しない。魔法を極限まで使うときには、ちと困るが、オレたちは基本的にほかの人々よりも魔力量が多く、極限まで、などという使い方はしない。湖での訓練で魔力がなくなるまで使っていたから、魔力量は人並み外れるくらいにはなっている。大丈夫だ。

 いや、装置を使わずに、手に持って、魔力を注げば、いいんだけどね。意識的にやるよりも、無意識にやる方が気分的に楽なのだ。人間なんてそんなもの。


 いや、まぁ、四人なら、魔法を使って、吹き飛ばせば、いいんだけどね。それだけの魔力量があるんだからさ。

 実際、それぞれのやり方で、魔法を使っているんだけどね。


 でも、キヨミとマナミは、サポート役を頼んでいる。スポーツドリンクの準備やほかの人々の監視なんかだ。

 監視は絶対に必要だ。雪下ろしをなめてはいけない。落ちて死ぬことはなくても、埋まって動けなくなり、助けも呼べない状態になる。いち早く、監視役が見つけ、助けを呼ばないと、その者は死亡するのである。

 だが、駆けつける方も大変だ。そこまで行かねばならないのだ、雪が積もっている中を。

 ちなみに、ダルトンも二日目からは参加させた。うるさいから。



 晴れや曇りの日は、だいたいこうして雪下ろしに参加している。軽い降りの日も。

 外に出られない日は、運動場で戦闘訓練する。たまに雪の中での訓練も。やっぱり体力の奪われ方を知っておくのは大事らしい。魔獣相手だったら、こちらが先に倒れるだろうから。こういうときは、持久戦にはしないこと。


 晴れが続くこともある。そういうときは、ちょっとした雪遊び。


 ある日、そんな日に外でワーキャー遊んでいたら、ラキエルが現れた。

「あれっ? 誰がカンヌキを外した?」

 全員が首を振る。

 まぁ、頭のいいラキエルだから、角材であるカンヌキを外すなんて楽勝かもしれないけどさ。


 そんなラキエルのまわりに雪玉が次々と作り出された。魔法現象だ。その雪玉がオレたちに向かって飛んできた。ちょうど人が投げた雪玉くらいの感じ。

 オレたちは当然ながら避けた。

「もしかして、今の、ラキエル?」

 全員が同じ疑問符を頭に浮かべた。

 また雪玉が飛んできた。こちらも避ける。が、追跡された。まるでホーミングミサイルのように。

 避けた、と思ったところに衝撃が来るのだから、驚く。

 ラキエルが満足そうに、鼻息を吐いた。吐いた息が白い。確実にラキエルの魔法だ。どういうこと?

 その疑問に答えたのは、鑑定さんだった。

「ゲッ! コイツ、ケルピーだ!」

 オレは、これまでラキエルを鑑定したことがない。だって、馬だもの。

 みんなが鑑定しはじめる。

「いや、馬って出ますよ?」とエイジ。

「隠蔽の魔法を使っているんだ! しかも馬化している。さすがに人化はないな。もう少しで二百歳だって」

「でも」とマナミ。「ウーちゃん、何も言ってなかったよね」とウーちゃんを見る。

 ウーちゃんが首を傾げる。

「必要なことだったか? 別に隠していたわけではないぞ」

「最初から知っていたの?」とオレ。

「うむ。アヤツから同族のニオイがしておったからのぉ」

「でもなんで馬に?」

「儂と同じじゃ。川が生き辛くなったのじゃ。人間に見られると、さらに危険じゃ。討伐されるからのぉ。で、馬ならば、人間に捕まるかもしれんが、その方が世話してもらえるし、エサも不自由しない。悪い話じゃなかろう?」

「確かに」

「そうは言っても、魔獣じゃからな。隠蔽しないと討伐されるじゃろ」

「なるほどね。人語はわかるみたいだな」

「人語を話すには、人化せんとな」

「そういうことか。人化して、発声器官を同じにしないといけないのか」


 ラキエルが雪玉を投げてくる。遊びを再開したいらしい。

 こちらも雪玉を投げる。でもホーミングしない。ううむ、魔法でコントロールしているんだよな。

 鑑定さんで解析する。

 ラキエルが使っている魔法は、スノーバレット。ホーミングは風魔法だった。なるほど。

 オレもスノーバレットを打ち出す。それを意識して風魔法でコントロールする。ううむ、緩くカーブする程度か。

 みんなにも教えた。羨ましい。どんどんとホーミングしていく。

 ところが敵もさるもの。ラキエルは軽快に動いて、避けていく。避けながら、雪玉を打ち出している。実は戦闘能力もある?

 湖でのお誘い遊びは、本当に遊びだったのか。

「そういえば、ケルピーって肉食じゃなかったっけ?」

「なんでも食べるぞ。草・魚・魔獣、たまに虫もな」

「雑食か。ラキエルは、肉食べたい、とか言わないの? おっと」

 たまに飛んでくる雪玉を避ける。当たる直前なら避けられる。

「何も聞いておらぬな」

 さすがにウーちゃんには、当てないか。

 ウーちゃんも高みの見物してる。うん、浮いているよ。あんた、そんな魔法も使えるのね。


「いい訓練になるな」と笑顔のランドルフ。

「オイラ、ヘトヘト」と項垂れているダルトン。

 若者四人も疲れているが、楽しかったようだ。いい笑顔している。

 ラキエルもほどほどに楽しんだようで、ブルブルして、身体の汗を飛ばしている。

『ラキエルがの、身体を拭いて欲しいそうじゃ』とウーちゃんの念話。

「もしかして、ご指名?」とオレ。

「うむ」

「人使いの荒い馬だなぁ。あっ、ケルピーか。もう、どっちでもいいや」

 オレは、疲れた身体に鞭打って、運動場へと入っていく。

 ラキエルは、後ろから付いて入ってくる。

「ラキエル」と声をかけた。「ドア、閉めてね。そのくらい、おまえなら朝飯前だろ?」

 そうだな、とは言わないけど、ドアに顔を向けるラキエル。

 ドアが閉まり、カンヌキの角材が持ち上がって、ハマる。

 それからオレを見た。どうだ?という顔。

「よくできました。偉い偉い(棒)」

 厩舎からラキエル用のタオルを出して、水魔法でぬらし、絞る。それでラキエルを拭いてやる。

「おまえは、なんで今まで隠していたんだ? まぁ、別に構わないけど。ウーちゃんの言うとおり、川が住みにくくなったのか?」

 うなずくラキエル。

「そっか。でも水に浸からなくてもいいのか? いや、オレの世界に水中で生活するカッパっていう魔獣がいるんだけど、水から出ると長く陸にいられなくて、干からびちゃうんだ。そういうこと、ないの?」

 首をひねるラキエル。

「なさそうだな。そういえば、肉とか食べたいとか、思わないの?」

 こっちを見る。

「いや、ゴブリンくらいなら、たっぷりあるからさ。ウーちゃんは人間の食べ物を食べているし。減らないんだよね。困ってはいないけどね」

 イテッ。腕を噛まれた。甘噛み。

「何? あぁ、もしかして?」

 ブンブンとうなずくラキエル。

「なんだ、我慢してたのか。じゃぁ、みんなには内緒な。おまえがゴブリン食べているのは、馬がゴブリン食べているみたいで、気持ち悪いんだよ。わかるか?」

 また、甘噛み。

「そんなのいいから、早くよこせって? よくないから言ってるの。約束して」

 ムッ、とオレを睨むラキエル。

「睨んでもあげません。約束」

 断固として、睨み返す。

 地団駄踏むラキエル。

「ラキエル、オレより年上だよな。食べたいんだから、約束すればいいだけでしょ?」

『契約したから、食べさせて!』

 ん? 誰? まわりを見回すが、誰もいない。いるのは、甘噛みしてくるラキエルだけ。

「おまえ、今、“契約”とか言った?」

『早く早くぅ!』

「オレ、契約しろ、なんて言ってないんだけど?」

 甘噛みが止まる。噛んだままだ。なんか、目がグルグルしてる。

「“契約”と“約束”、聞き間違えた?」

 あっ、目が止まった。ゆっくりとオレを見るラキエル。上目遣い。

 ヤダ、この子、うるうるしてる。

「まぁ、仕方ないな。おまえの声が聞けるっていうのは、いいことだから、な」

 項垂れた。

「しょげるな。でも約束しろよ。みんなの前では、肉を食べない、いいか?」

 しょげたまま、うなずくラキエル。

 オレは、アイテムボックスから、ゴブリンを出した。出したのは、端の方のスペース。

「ほら、食べな」

 ラキエルは、トボトボとゴブリンのところに行き、ボリボリと食べはじめた。

 間違えたのが、よほどショックだったのかな。それでも食べるけど。

 一匹を食べ終えて、こちらを見るラキエル。

「足んないって?」

 もう一匹、出す。すぐにボリボリと食べる。

「もういいか?」

『ありがとう』

「殊勝ですな。いつもそうだとありがたいが……いや、いつものおまえがいいや。大人しいおまえは、信じられないからな」

『ひどい!』

「まぁ、これからもよろしくな、ラキエル」

『お肉、くれたらね』

「はいはい」


 リビングに行くと、みんながくつろいでいた。

 オレもソファーに腰掛ける。ヤルダさんがお茶を出してくれる。

「ありがとう」

「ラキエル、どうだった?」とランドルフ。

 その言葉に、ふと思い出して、吹きそうになった。

「なんだ?」

「従魔契約された。しかも間違えて」

「間違えて?」とダルトンが身を乗り出す。「どゆこと?」

「ケルピーだから、肉を食べるのか、尋ねたんだ。喰い付いてきた。で、みんなの前で食べるなよ、と約束させようとしたんだ。そしたらラキエル、“約束”と“契約”を勘違いして、契約したんだ。間違えたことを指摘したら、ショックを受けてた」と笑うオレ。

「間違える、ふつう?」とハルキ。

「肉に目がくらんだんだ、ラキエル」とキヨミ。おかしそう。

「今、食べてるところ。約束させて正解だったよ。あれは見ない方がいい」

 ウーちゃんを見ると、唖然としている。

「どうしたの、ウーちゃん?」

「アヤツが、契約した、だと?」

「うん。不本意だったみたいだな。酷い落ち込みようだった」

「そうであろうな。人間なんて、もて遊ぶくらいがちょうどいい、と言っておったくらいじゃ」

「ラキエルなら、そんな感じだろうね」

「サブは」とダルトン。「ホントに規格外だな。テイムの仕方から違うんだから」

「向こうから勝手に契約してきたんだぞ。こっちに選択権がなかったら、迷惑なだけだ」

「ムッ、迷惑だったか?」とウーちゃん。

「ウーちゃんもラキエルももう身内だから、テイムの意味がないでしょ? まぁ、念話ができるのはありがたいけどさ。でもさ、契約しましょうね、っていう話し合いもなし、ってどうよ。ウーちゃんがさ、問答無用でテイムされたら、どうよ?」

「ムッ、それは……すまぬ」

「いいけどね。今だから話せるって話だからさ。せめてラキエルもウーちゃんに聞いてからにすればよかったのに、と思うわけ」

「確かに、な。アヤツも肉をぶら下げられて、理性が鈍ったか」とため息。

「そういうことだね」


※カッパ

  河童。ウィキペディア参照。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価をお願いします。励みになりますので(汗)

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