155【魔石問題と雪掻きとラキエルと】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し長いため、2話連続投稿します(2話目)
オレたちの雪下ろしは、思った以上に、魔石を消耗した。そのままでは、魔石の魔力がなくなってしまう。
これは、湖にいたときから、すでに顕在化していた問題だった。
だから、魔石の魔力充填装置を作った。大きくはないので、身に付けられる。人体の表面にある魔力を吸収して、魔石へと充填するのだ。吸収する魔力量は、たいした量ではない。だから、人体には影響しない。魔法を極限まで使うときには、ちと困るが、オレたちは基本的にほかの人々よりも魔力量が多く、極限まで、などという使い方はしない。湖での訓練で魔力がなくなるまで使っていたから、魔力量は人並み外れるくらいにはなっている。大丈夫だ。
いや、装置を使わずに、手に持って、魔力を注げば、いいんだけどね。意識的にやるよりも、無意識にやる方が気分的に楽なのだ。人間なんてそんなもの。
いや、まぁ、四人なら、魔法を使って、吹き飛ばせば、いいんだけどね。それだけの魔力量があるんだからさ。
実際、それぞれのやり方で、魔法を使っているんだけどね。
でも、キヨミとマナミは、サポート役を頼んでいる。スポーツドリンクの準備やほかの人々の監視なんかだ。
監視は絶対に必要だ。雪下ろしをなめてはいけない。落ちて死ぬことはなくても、埋まって動けなくなり、助けも呼べない状態になる。いち早く、監視役が見つけ、助けを呼ばないと、その者は死亡するのである。
だが、駆けつける方も大変だ。そこまで行かねばならないのだ、雪が積もっている中を。
ちなみに、ダルトンも二日目からは参加させた。うるさいから。
晴れや曇りの日は、だいたいこうして雪下ろしに参加している。軽い降りの日も。
外に出られない日は、運動場で戦闘訓練する。たまに雪の中での訓練も。やっぱり体力の奪われ方を知っておくのは大事らしい。魔獣相手だったら、こちらが先に倒れるだろうから。こういうときは、持久戦にはしないこと。
晴れが続くこともある。そういうときは、ちょっとした雪遊び。
ある日、そんな日に外でワーキャー遊んでいたら、ラキエルが現れた。
「あれっ? 誰がカンヌキを外した?」
全員が首を振る。
まぁ、頭のいいラキエルだから、角材であるカンヌキを外すなんて楽勝かもしれないけどさ。
そんなラキエルのまわりに雪玉が次々と作り出された。魔法現象だ。その雪玉がオレたちに向かって飛んできた。ちょうど人が投げた雪玉くらいの感じ。
オレたちは当然ながら避けた。
「もしかして、今の、ラキエル?」
全員が同じ疑問符を頭に浮かべた。
また雪玉が飛んできた。こちらも避ける。が、追跡された。まるでホーミングミサイルのように。
避けた、と思ったところに衝撃が来るのだから、驚く。
ラキエルが満足そうに、鼻息を吐いた。吐いた息が白い。確実にラキエルの魔法だ。どういうこと?
その疑問に答えたのは、鑑定さんだった。
「ゲッ! コイツ、ケルピーだ!」
オレは、これまでラキエルを鑑定したことがない。だって、馬だもの。
みんなが鑑定しはじめる。
「いや、馬って出ますよ?」とエイジ。
「隠蔽の魔法を使っているんだ! しかも馬化している。さすがに人化はないな。もう少しで二百歳だって」
「でも」とマナミ。「ウーちゃん、何も言ってなかったよね」とウーちゃんを見る。
ウーちゃんが首を傾げる。
「必要なことだったか? 別に隠していたわけではないぞ」
「最初から知っていたの?」とオレ。
「うむ。アヤツから同族のニオイがしておったからのぉ」
「でもなんで馬に?」
「儂と同じじゃ。川が生き辛くなったのじゃ。人間に見られると、さらに危険じゃ。討伐されるからのぉ。で、馬ならば、人間に捕まるかもしれんが、その方が世話してもらえるし、エサも不自由しない。悪い話じゃなかろう?」
「確かに」
「そうは言っても、魔獣じゃからな。隠蔽しないと討伐されるじゃろ」
「なるほどね。人語はわかるみたいだな」
「人語を話すには、人化せんとな」
「そういうことか。人化して、発声器官を同じにしないといけないのか」
ラキエルが雪玉を投げてくる。遊びを再開したいらしい。
こちらも雪玉を投げる。でもホーミングしない。ううむ、魔法でコントロールしているんだよな。
鑑定さんで解析する。
ラキエルが使っている魔法は、スノーバレット。ホーミングは風魔法だった。なるほど。
オレもスノーバレットを打ち出す。それを意識して風魔法でコントロールする。ううむ、緩くカーブする程度か。
みんなにも教えた。羨ましい。どんどんとホーミングしていく。
ところが敵もさるもの。ラキエルは軽快に動いて、避けていく。避けながら、雪玉を打ち出している。実は戦闘能力もある?
湖でのお誘い遊びは、本当に遊びだったのか。
「そういえば、ケルピーって肉食じゃなかったっけ?」
「なんでも食べるぞ。草・魚・魔獣、たまに虫もな」
「雑食か。ラキエルは、肉食べたい、とか言わないの? おっと」
たまに飛んでくる雪玉を避ける。当たる直前なら避けられる。
「何も聞いておらぬな」
さすがにウーちゃんには、当てないか。
ウーちゃんも高みの見物してる。うん、浮いているよ。あんた、そんな魔法も使えるのね。
「いい訓練になるな」と笑顔のランドルフ。
「オイラ、ヘトヘト」と項垂れているダルトン。
若者四人も疲れているが、楽しかったようだ。いい笑顔している。
ラキエルもほどほどに楽しんだようで、ブルブルして、身体の汗を飛ばしている。
『ラキエルがの、身体を拭いて欲しいそうじゃ』とウーちゃんの念話。
「もしかして、ご指名?」とオレ。
「うむ」
「人使いの荒い馬だなぁ。あっ、ケルピーか。もう、どっちでもいいや」
オレは、疲れた身体に鞭打って、運動場へと入っていく。
ラキエルは、後ろから付いて入ってくる。
「ラキエル」と声をかけた。「ドア、閉めてね。そのくらい、おまえなら朝飯前だろ?」
そうだな、とは言わないけど、ドアに顔を向けるラキエル。
ドアが閉まり、カンヌキの角材が持ち上がって、ハマる。
それからオレを見た。どうだ?という顔。
「よくできました。偉い偉い(棒)」
厩舎からラキエル用のタオルを出して、水魔法でぬらし、絞る。それでラキエルを拭いてやる。
「おまえは、なんで今まで隠していたんだ? まぁ、別に構わないけど。ウーちゃんの言うとおり、川が住みにくくなったのか?」
うなずくラキエル。
「そっか。でも水に浸からなくてもいいのか? いや、オレの世界に水中で生活するカッパっていう魔獣がいるんだけど、水から出ると長く陸にいられなくて、干からびちゃうんだ。そういうこと、ないの?」
首をひねるラキエル。
「なさそうだな。そういえば、肉とか食べたいとか、思わないの?」
こっちを見る。
「いや、ゴブリンくらいなら、たっぷりあるからさ。ウーちゃんは人間の食べ物を食べているし。減らないんだよね。困ってはいないけどね」
イテッ。腕を噛まれた。甘噛み。
「何? あぁ、もしかして?」
ブンブンとうなずくラキエル。
「なんだ、我慢してたのか。じゃぁ、みんなには内緒な。おまえがゴブリン食べているのは、馬がゴブリン食べているみたいで、気持ち悪いんだよ。わかるか?」
また、甘噛み。
「そんなのいいから、早くよこせって? よくないから言ってるの。約束して」
ムッ、とオレを睨むラキエル。
「睨んでもあげません。約束」
断固として、睨み返す。
地団駄踏むラキエル。
「ラキエル、オレより年上だよな。食べたいんだから、約束すればいいだけでしょ?」
『契約したから、食べさせて!』
ん? 誰? まわりを見回すが、誰もいない。いるのは、甘噛みしてくるラキエルだけ。
「おまえ、今、“契約”とか言った?」
『早く早くぅ!』
「オレ、契約しろ、なんて言ってないんだけど?」
甘噛みが止まる。噛んだままだ。なんか、目がグルグルしてる。
「“契約”と“約束”、聞き間違えた?」
あっ、目が止まった。ゆっくりとオレを見るラキエル。上目遣い。
ヤダ、この子、うるうるしてる。
「まぁ、仕方ないな。おまえの声が聞けるっていうのは、いいことだから、な」
項垂れた。
「しょげるな。でも約束しろよ。みんなの前では、肉を食べない、いいか?」
しょげたまま、うなずくラキエル。
オレは、アイテムボックスから、ゴブリンを出した。出したのは、端の方のスペース。
「ほら、食べな」
ラキエルは、トボトボとゴブリンのところに行き、ボリボリと食べはじめた。
間違えたのが、よほどショックだったのかな。それでも食べるけど。
一匹を食べ終えて、こちらを見るラキエル。
「足んないって?」
もう一匹、出す。すぐにボリボリと食べる。
「もういいか?」
『ありがとう』
「殊勝ですな。いつもそうだとありがたいが……いや、いつものおまえがいいや。大人しいおまえは、信じられないからな」
『ひどい!』
「まぁ、これからもよろしくな、ラキエル」
『お肉、くれたらね』
「はいはい」
リビングに行くと、みんながくつろいでいた。
オレもソファーに腰掛ける。ヤルダさんがお茶を出してくれる。
「ありがとう」
「ラキエル、どうだった?」とランドルフ。
その言葉に、ふと思い出して、吹きそうになった。
「なんだ?」
「従魔契約された。しかも間違えて」
「間違えて?」とダルトンが身を乗り出す。「どゆこと?」
「ケルピーだから、肉を食べるのか、尋ねたんだ。喰い付いてきた。で、みんなの前で食べるなよ、と約束させようとしたんだ。そしたらラキエル、“約束”と“契約”を勘違いして、契約したんだ。間違えたことを指摘したら、ショックを受けてた」と笑うオレ。
「間違える、ふつう?」とハルキ。
「肉に目がくらんだんだ、ラキエル」とキヨミ。おかしそう。
「今、食べてるところ。約束させて正解だったよ。あれは見ない方がいい」
ウーちゃんを見ると、唖然としている。
「どうしたの、ウーちゃん?」
「アヤツが、契約した、だと?」
「うん。不本意だったみたいだな。酷い落ち込みようだった」
「そうであろうな。人間なんて、もて遊ぶくらいがちょうどいい、と言っておったくらいじゃ」
「ラキエルなら、そんな感じだろうね」
「サブは」とダルトン。「ホントに規格外だな。テイムの仕方から違うんだから」
「向こうから勝手に契約してきたんだぞ。こっちに選択権がなかったら、迷惑なだけだ」
「ムッ、迷惑だったか?」とウーちゃん。
「ウーちゃんもラキエルももう身内だから、テイムの意味がないでしょ? まぁ、念話ができるのはありがたいけどさ。でもさ、契約しましょうね、っていう話し合いもなし、ってどうよ。ウーちゃんがさ、問答無用でテイムされたら、どうよ?」
「ムッ、それは……すまぬ」
「いいけどね。今だから話せるって話だからさ。せめてラキエルもウーちゃんに聞いてからにすればよかったのに、と思うわけ」
「確かに、な。アヤツも肉をぶら下げられて、理性が鈍ったか」とため息。
「そういうことだね」
※カッパ
河童。ウィキペディア参照。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価をお願いします。励みになりますので(汗)




