152【偽金とよろこび】
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少し長いため、減らして2話連続投稿します(1話目)
彼の捕縛を皮切りに、王都両ギルドに宰相からの依頼が発布。すぐさま関連する村や町の両ギルドに指示が飛ぶ。
それだけではなく、同時に偽金の発見が指示された。もちろん、見分け方も。
この見分け方は、オレの鑑定さんが、宿屋にあるお金を調べて発見したものだ。王城から奪ったお金からも偽金は出てきた。これは鑑定さんが、金貨ではなく、財宝と認識したためである。あとで、なんとかしなきゃ。
暗殺者は、マジックバッグを複数持っていた。そこには偽金もあった。鉄貨から白金貨まで揃っていた。すべてが偽金ではなかった。それは両替のときに偽金を出して崩したものだったのだ。
この偽金が、この国だけなのか、それとも国外にも出ていったのか。鑑定さんで調べると、少数ではあるが、国外に出ていた。これはもうどうしようもない。
偽金が造られた背景を考えると、あの王様の指示なんじゃないか、と勘繰りたくなる。そして、その指示を宰相が実行した、と。
そんなことをすれば、どうなるかは、宰相ならわかっていたはずだ。それなのに……
その後、暗殺者が仲間の居場所を自白した、としてあちこちで捕り物騒動が起こり、結果として、暗殺者全員が捕縛された。それぞれ別々に護送され、王都商業ギルドへと連行された。
彼らの証言により、宰相も捕らえられ、獄中に繋がれた。死刑は確定しているが、偽造場所や余罪の追求が行なわれる。
王都冒険者ギルドのギルマスが、暗殺者たちの身柄を預かり、今回の裏事情を説明。今後、勇者一行に接触しなければ、魔法契約を交わし、釈放する。その後、希望があれば、冒険者ギルドに登録し、情報収集などに従事できる。また、一般生活を望むのならば、それも手配する。
魔法契約は、契約内容に反する言動をさせないように、署名した者を縛るものだ。おそらく、マジックスクロールと同じように、脳内にそうしたことを書き込むのだろう。
結局、彼ら暗殺者は全員、魔法契約を交わし、冒険者ギルドに登録した。
これで、暗殺者たちから、オレたちは解放されたわけだ。ホッとする。
そのあいだに、運動場が出来上がった。屋敷にも、いい窓が取り付けられた。
その夜。主従関係ない食事会。
食事が済み、お茶休憩。
ここでキヨミとマナミが立ち上がった。
「ようやくちゃんとした窓ができました」「ヤルダさん、今までありがとう。仕事を増やしてごめんなさい」
ふたりだけでなく、男子ふたりも立ち上がり、四人で一礼。
そのことに対して、ヤルダさんは戸惑っている。
そこでオレが説明。
「ヤルダさんが朝一番に窓を開けてくれてるだろう?」
うなずくヤルダさん。
「そこに窓ガラスをはめる、という新たな仕事を増やしてしまったことを四人は気にしていたんだ」
ヤルダさんが首を振る。
「君は気にしていないだろうけどね。君の仕事に対してのお礼だよ」
「お礼など――」
「させて、ヤルダさん」「そうしないと気が済まないのよ」
そう言って、ふたりが足元から、大きな袋を出して、彼女に渡す。
受け取るが、どうしていいのか、わからないヤルダさん。
「開けて」とキヨミ。
言われれば、そうするしかないヤルダさん。リボンを緩めて、袋の口を開く。
ピョンッと両耳が飛び出した。ウサギ耳? その耳のあいだにはちょっとしたツノ。それから頭が、身体が、出てきた。
地球の物語で、ツノウサギとかホーンラビットとか呼ばれていた魔獣だ。
それを見て、首を傾げるヤルダさん。
「この動物は、なんですか?」
ランドルフも首を傾げている。
「えっと」とキヨミ。「ツノウサギ」
「えっ? ツノウサギ? これが?」
「キヨミ」とランドルフ。なんか笑ってる。「ツノウサギはこんな可愛くないぞ。ツノが左右から伸びて、ブル系の魔獣のようになってるんだ。それが突進してくる。当たると結構な大ケガだ」
あら、勝手なイメージだったか。ツノウサギと聞いて、ついこの形を思い描いてしまったんだな。これは仕方ない。
「ごめんね、作り直すわ」と慌てるキヨミ。
でも、ヤルダさんは、笑顔で首を振って、そのヌイグルミを抱きしめた。
「これがいいです。とても可愛いです。それに柔らかくて。気に入りました。うれしいです。ありがとうございます」
本当に気に入ったようだ。離そうとしない。
「サブ」とランドルフ。「あれはなんだ?」
「ヌイグルミ。人形の一種だな。ああやって、抱いたり、飾ってみたりするもの。キヨミはああいったものを作るのを趣味にしていたんだ」
「へぇ。でも子ども受けしそうだな」
「向こうでは、老いも若きも男も女も買ってるよ。すべての人が、というわけじゃないけどね」
「そうか。ヌイグルミか。あんな魔獣しかできないのか?」
「魔獣に限らないぞ。人もある。それからもっと大きいものを作って、着るタイプもある。着ぐるみというんだがな」
「ヌイグルミを着る? 意味がわからん」
「そのほとんどは見世物だよ。寝間着代わりに着る人もいるな」
「見世物ならわかるが、寝間着? わからん」
「だろうな。オレもわからん」と肩をすくめるオレ。
だいたいランドルフは寝間着を着るんかいな? 聞かずにおこう、っと。
ヤルダさんは、本当に気に入ったらしく、セバスさんとネイリンさんにうれしそうにヌイグルミを見せている。
ふたりも、まるで孫娘を愛でるようだ。
この三人のこの笑みは、今までで一番のものだった。
おかげで、こちらまでうれしくなった。
※ツノウサギ
ホーンラビットとも言われる。
他作品は、一本角のウサギが多い。
でも本作では、形態が違う。
アルミラージというのが、一角ツノウサギ
の原型ではないか、と言われている。
だが、形態は似ているが、ほかの魔獣が
これを見たら逃げ出す、という点で、
同一の魔獣とは思えない。
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