149【目覚ましと玄関前と手配】
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少し短いため、3話連続投稿します(1話目)
「イテテテッ」
オレは飛び起きた。で、暗い中、枕元の魔導具を止める。一気に目が覚めたわ。
最新の魔導具である。目覚ましです。高校生からの要望があり、作成。実験中です。自分の身体で。
毎朝、同じ時間に弱い雷魔法を放ってくる。止めるまで。
でもたぶん、これでも慣れてしまうだろうな。止めて、二度寝とか。
要改良だな。
窓を開ける。夜明けくらいか。入ってくる空気が冷えている。
すぐにガラス枠をはめる。
コンコンと小さなノックの音。すぐにドアが開かれる。ヤルダさんだ。
こちらを見て、固まっている。
「おはよう、ヤルダさん」
「おはようございます、サブ様。もう起きていらしたとは思いませんでした」
「ちょうど起きたところ。ほかのみんなをお願い」
「かしこまりました」
一礼して、出ていく。
運動場は親方さんに任せて、玄関前から道への工事に取り掛かる。融雪の仕組みを路面に仕込むのだ。
男子ふたりを使う。ふたりの魔力での作業を頼むのだ。
必要な箇所の土を削り、固める。ここは、魔法だ。もちろん、オレも多少はやるよ。
そこに部材(金属じゃないよ)をアイテムボックスから適当に出していく。それをふたりにきちんと並べてもらう。これが結構な時間がかかる。途中で何度もドリンク休憩を取る。
こんなときでも暗殺者の行動は把握している。全員の動きは小さなもの。たいして移動していない。
ようやく部材を並べ終えた。
最後に、道の中央に、穴空きのフタをして、終わりだ。
「出来上がりですか?」とエイジ。
「うん。念のため、水を出してみるか」
すでに、貯水槽にお風呂の残り湯が溜まっている。それだけでなく、流れてくるお湯も溜められている。
玄関内側に設置した魔導具を起動する。
しばらくすると、玄関前の道の左右から水が撒かれる。
撒かれた水は、中央の溝に集まって流れていく。
そう、お湯を撒いて、融雪するのだ。これを外の道まで出しているので、道までの雪掻きをする必要がない。
親方さんは、これを街なかすべてに敷設したい、と言っていたのだ。
この方法は、温泉場ならではの方法だ。お湯が豊富でなければ、使えない。だが、部材を作るのも地面を掘るのも大変だ。一朝一夕では無理無理。
「完成っ!」
「「やったぁ」」と男子ふたり。
これで雪掻きから解放される。それがあるから手伝ってくれたのだ。
でも、雪掻きしないと、ヒマなんだけど。気付いているのかな?
運動場のようすを見る。だいぶ出来上がっている。みんなも、昨日に比べて、ドリンク休憩を意識的に取っているようだ。良きかな良きかな。
「やはり、大きいですわね」と背中から声をかけられた。
振り返ると、ラーニャさんが入ってきたところだった。馬に乗っている。
「いらっしゃい、ラーニャさん」
ゆっくりと降りる。
「こんにちは、サブ様。玄関前も新しくなっていますわね」
「ええ。ついさきほど、完成しました。これで雪掻きから解放されます」
首を傾げるラーニャさん。それから再度、そちらを見る。また、首を傾げる。
意味がわからないのだろうな。
「両側からお湯が撒かれるようになっています。それで雪を溶かすんですよ」
彼女は一瞬固まり、瞬きしてから、なるほどと納得。
「すぐに撒くことはできますか?」
彼女とともに玄関へ。
そこで魔導具を起動して、噴射させる。
「まぁ、これは……水は? あぁ、中央に集まって流れていくのですか?」
「そうです」
「これは、街なかに配すれば――」
「ストップ! その件は親方さんが先走り、動きはじめようとしたので、止めました。これはかなりの資金と時間、それに魔法使いが必要です。資材だってここでは手に入りません」
「そ、そうでしたか。残念です。本当に」
「でもまぁ、お気持ちはわかります。だから、長期計画として考える、と親方さんを説得しました」
「なるほど。ありがとうございます」
「いいえ。それとは別なのですが」
「はい」
そこで、暗殺者がこの町にいることや捕縛計画があることを話した。
「それはいつ?」
「現在、王都冒険者ギルドのギルマスに確認を取っています」
「失礼ですが、どういったご関係なのでしょうか?」
「そのギルマスの弟が、我々に同行しているのです」
「まあ。では、確認次第、その計画を実行に?」
「そうです。できれば、商業ギルドにもご協力を、と考えています」
「どのように?」
簡単に説明する。詳細は状況次第で変わってくるだろうからね。
「わかりました。その確認が取れ次第、連絡をください。すぐに手配いたします」
「お願いします」
「それから“日向病”の対処方法と地揺れ対策については、全商業ギルドに流しました。まだこれといった反響はございませんが」
「反響については、お知らせくださらなくても結構ですよ。ひとりでも被害者が減ってくれれば、と思っての情報ですから」
「ありがとうございます。それでも有益な情報です。本来ならば、有償でもありがたいことですのに」
「こんなことでお金をもらうつもりはありません。私の世界でもすべての人が共有している知識ですから。まぁ、“筋交い”は建築関係者とかですけどね」
「サブ様は建築関係者でしたの?」
「ちょっとかじった程度です。でも子どものころは、大工仕事を見ているのが好きでしたね。全然、そっちの仕事には就けませんでしたが」
本当、どうして、そっちの方にいかなかったんだろうな。不思議。バイトで絡んだことは確かだけども。
それに今の木造建築は、加工済みの木材を組み上げるだけで、面白みに欠けるんだよねぇ。
「ですが」とラーニャさん。「こちらの世界で、できているのでは?」
「どうでしょうね。でもまぁ、向こうに比べたら、こっちの方ができているのかもしれませんね」
そこへ声が掛かった。振り向くと、成人したてと思われる少年が、息を切らせながら、立っていた。
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