145【筋交い】
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少し短いため、3話連続投稿します(3話目)
組み上がった。
少し離れて確認。
うんうん、良きかな良きかな。
「完成か?」と親方さん。
「大枠は。固定が甘いですが、あとから絞めます。ここで絞めてしまうと、部材がハマる余地がなくなりますから。ここから細かい部材を取り付けます」
「あの斜めの部材はなんの役に立つ?」
「“筋交い”と言います。あれをすれば、地震に強くなるんです」
「ジシン?」
「ここらは、地揺れはないんですか?」
「地面が揺れる?」
「ここはないな」とドネリーさん。「昔、火山地帯に行ったことがある。初めて地揺れを体験したときは、思わず地面に四つん這いになってた。さすがのオレも恐かった」
「そんなことがあるのか」
「あるんです」とオレ。「慣れれば、そんなに怖くはないんですが、ドネリーさんがしたように四つん這いになるのは仕方ないでしょうね」
そこで“筋交い”の効果を地面に棒を立てて、簡単に説明。棒を支える新たな棒を加えるごとに棒は固定されていく、と。
「なるほどな。おい、ならこれまでの建物は、地揺れが来たら」
「建物の強度と地揺れの程度によります。弱い地揺れならば大丈夫ですが、強ければ」オレは立てていた棒を倒す。「こうなります」
親方さんだけでなく、どうやら、両ギルマスもそれを想像したらしい。鳥肌を立て、身震いする。
「建物のひとつが“筋交い”をやっていても、となりの建物がやっていなければ、被害を受けるでしょうね」
「そ、それは」と震える声のラーニャさん。「事前に、どうにか、対処?できませんか?」
「建て直してしまうのが一番ですが、建物と建物のあいだに頑丈な塀を立てるか、弱い建物に“筋交い”を施すことが考えられます。頑丈な塀を立てる場合は、塀が倒れない工夫も必要です。塀が倒れて、人がケガをする可能性もありますので」
ホッとするラーニャさん。顔はまだ強張っているが。
「でも」とオレは続ける。「“筋交い”を施すのは、やり方を試行錯誤する必要があるでしょう。オレも詳しくは知らないので」
ラーニャさんは、うなずく。
「対策が取れるだけでも、ありがたいことです。ドネリー、馬車をお借りします」
ラーニャさん、返事を聞かずに、駆け出して行った。
「いいんですか?」
「ああ。あいつは猪突猛進タイプだからな。普段は抑えているんだが、これと決めたら突っ走る。小さいころから、治りゃしねぇ」とほくそ笑むドネリーさん。
「小さいころから? 幼馴染さんで?」
笑顔でうなずくドネリーさん。
「あいつの性格、知っているからな。間違ってなければ、黙って従うさ」
その後、昼食を挟んで、細かい部材を組み上げた。
「おい、オレたち、必要か?」
「まぁ、明日でもいいですけど?」
「カッ! 適当に座ってろ! おい、野郎ども! やるぞ!」
親方さんたちが、どんどんと部材を運び、建築作業に入る。手の空いた人員を手伝わせる。
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