136【窓ガラスとヤルダさんのこと】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
少し短いため、2話連続投稿します(2話目)
翌日。
起こされた。
いや、そんなに早くはないのだが。
起こしてくれたのは、ヤルダさん。
窓を開けてくれたのだ。
清々しい空気、ではなく、少し冷えた空気が入ってくる。
冬が近付いてきている証拠か。
暗さに慣れていた目には、ちょっと眩しい。
窓ガラスがないのよねぇ、この世界。
宿屋もそうだったな。
木の扉を観音開きで開けるタイプ。
ここでは、内側に透かし彫りの扉があり、それを閉じることで、眩しさを軽減するようだ。
朝食。マナミとネイリンさんの合作。
美味いに決まっている。
で、お茶休憩。
なのだが。
「サブさん!」とキヨミ。「“窓ガラス”、作ってください!」
「「「お願いします!」」」
「うん、気持ちは、よくわかる。ということで、了解」
四人がよろこぶ。
「サブ」とランドルフ。「“窓ガラス”ってなんだ?」
「ガラス容器は、見てるよな。あれを板状にして、窓にはめる。そうすると、寒い風は入らないが、陽は入る、といういいものだ」
「なる、ほど?」わかってないな。
ランドルフは、ほっとこう。
ガラスを板状にするには確か、液体金属の上で、冷やすんだっけ?
これは、あの本を確認するべきだな。
それと板状ガラスを作ったら、カットする必要がある。確か、ダイヤモンドでカットするんだよな。これも調べないとな。
この際だから、二重にするか。そうすれば、寒気の侵入をある程度、防げる。これも。
さっそく本を調べて、必要なものを収集。問題は、ダイヤモンドだ。近くにあるのか?
あっ、別に近くになくてもいいのか。範囲指定せずに、塊をいくつか、でバキューム。うん、収集できた。
材料が揃ったので、実行に移す。
平たくした金を用意して、水準器(もちろん自作。残念ながら厳密なものではない)で斜めにならないように調整。
その金を溶ける寸前まで熱する。
そこへ溶かしたガラスを流す。
あとは、自然に任せて、冷やす。
これで一枚出来上がり。
定規を当て、ダイヤモンドカッターで、カットする。
窓枠に合わせて、枠を作り、充填剤代わりの油粘土を入れ、表と裏にガラスをはめる。この充填剤で隙間をなくす。
執務室に試しで、はめ込んだ。
まぁ、明るくて、いい。
のだが、素人臭い工作だな。トホホ。
これは、専門家に依頼した方がよさそうだ。決定。
ガラス自体は、十二分だと思う。
「明るい上に、風が入りませんな」と感心したようすのセバスさん。お茶を用意してくれたようだ。
「ガラスはいいけど、作りが素人臭い。職人にやってもらう方がいいでしょうね」
「しかし、このようなものを見たことも聞いたこともありません」
「でしょうね。ガラス瓶はあっても、色付きだろうし、とても高価だ。ここまで透明なガラスとなると、商品としていくらになるか。金額を聞いたら、きっと目がまわるでしょう」
「そんなに高価なのですか?」
「オレが簡単に作ったからといって、安物ではありません。本来ならば、材料集めから何から何まで、手間がかかる。このガラス用のカッティングナイフも特殊な材質で、宝石としての価値もある。総合すると、ふつうの人には、まず、手が出ないでしょうね」
「なんと」と呆気に取られるセバスさん。
「でも、オレには、これらの材料を手に入れるツテがあるんです。だから、簡単に作る。それを知っているので、彼らも頼んでくる。彼らが快適と思う状態は、オレにも快適なんですよ。だから、考えて作る」
「なるほど。魔導具だけではないのですね」
「ええ」
淹れてくれたお茶を、イスに座って、飲む。
「美味しい」
「マナミ様からいただきました」
「そう」
「サブ様」
「ん? 何かな?」
「ゆうべのお申し出をお受けすることにいたしました」
つまり、下の階に引っ越すことだな。
「そう。よかった。荷物の移動があるなら、若者に手伝わせるから。まぁ、とりあえず使うものだけでもいいと思う」
「ありがとうございます。それとヤルダにも話しましたが」
「今のままで?」
「はい」
「そう。自分で決めたなら、構わないよ。そうだ、お仕着せも新しい服を買ってもいいからね」
「そのうちに」
「わかった。そういえば、休日はどうしていた?」
「どう、と言われますと?」
「あれ? もしかして、一日中、屋敷のことで忙しい?」
「そこまでは、申しません。ですが、何かしらやっております」
「急に休みができたら、混乱する?」
「お休みというものは、理解しているつもりですが」と困っている。
「まぁ、無理に取れとは言わないから。でも日々の中での休憩は取るようにしてね」
「かしこまりました」
「とすると、ヤルダさんも屋敷からは出ない感じ?」
「いえ、商業ギルドなどへの遣いで、外出しております」
「ハーフエルフだからって、嫌なことには遭っていないかな?」
「耳を隠しておりますので、そのようなことはございません」
「そう。おしゃれなんて、考えないのかな?」
「わかりません。あの子は、ここに来る前は、孤児院にいたそうです。あまり良い環境ではなかったらしく、逃げ出して、とある商隊の馬車に隠れて乗り込み、見つかりました。どんなことでもします、と訴えて、雇われたのです。それがこの屋敷の前の所有者でした。それ以来、懸命に仕事を覚え、こなしてきました。おしゃれなど考えもしなかったのではないかと」
「そんなことだとは思っていたよ。せっかくの美形なのに、もったいない」
「服を与えるおつもりで?」
これは、勘違いしているな。オレがヤルダさんを妾にしようとしている、とか。
「オレがやらずとも、女子ふたりが何かするだろうね。着せ替え人形にしちゃうかも」とそのようすを思い浮かべ、オレは笑む。
「そういうことですか」と彼も笑む。
これで誤解は解消されたかな。
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