135【セバスの健康とウーちゃんの説明】
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少し短いため、2話連続投稿します(1話目)
夜。執務室で、セバスさんと話す。
「突然に住むことになり、申し訳ない」
「いいえ。察するに、食事の問題があったのではないか、と」
「まぁ、そんなところです。さて、お身体は、どのような状態でしょうか? 今後のために聞かせてもらいたいのですが」
うなずくセバスさん。
「医者には毎年かかるようにしております。特にこれといった病気の兆候はないそうです」
「なるほど。では、自己申告をお願いします」
小さなため息。
「情けないことに、階段の昇り降りが辛うございます」
「でしょうね。屋根裏部屋までの昇り降りは大変でしょう。どうでしょう、下の階に住まいを変えては」
「しかし、客室を使うことは考えられません」
「客室を使うような客は、基本、いないよ? まぁ、ひと部屋は確保しておく必要はあるけどね。仲間がもうひとりいるんで。それからオレたちは貴族でもなければ、それに準じた存在でもない。少し一般常識に欠ける一般人だ。だから自由に振る舞うし、マナーに欠ける場面もあるかもしれない。その点は先に謝っておく。だから、命令することも可能だが、そうはしたくない。これはお願いだ。使って欲しい。そして、屋敷の運営をしっかりして欲しい。奥さんと相談してみて欲しい。ヤルダさんにも伝えてもらえるかな?」
「ヤルダも、ですか?」
「ええ。いけませんかね?」
「いえ、少々驚いただけでございます。伝えます」
「よろしく。それから必要な費用は出しますから言ってください」
「かしこまりました」
「何か、ありますか?」
「ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」うなずく。「ウーちゃん様はどういった方なのでしょうか?」
「ん?」
彼が、首元に手をやる。
「ここにプレートが」
「あぁ、あれね。従魔のプレート。彼女、実は魔獣なんだ」
「魔獣!」飛び跳ねるセバスさん。「失礼いたしました。しかし、本当に? 人化する魔獣となると、ドラゴンとかですか?」
「オレも人化するのは、ドラゴンくらいだと思っていたんだけど、彼女はエッヘ・ウーシュカなんだ」
「エッヘ? なんです?」
「知らない? ケルピーは?」
「川に棲む魔獣ですね」
「うん。エッヘ・ウーシュカは、ケルピーが川に棲むのに対して、湖に棲む魔獣なんだ。どうやらもとは同じケルピーらしいんだけどね。ランドルフによると、ドラゴンよりは小さいらしい。それでもゴブリンをひと飲みできる大きさなんだ」
「ウーちゃん様は、その魔獣だと」
「うん。彼女の棲んでいた湖にオレたちがキャンプを張って、退治したゴブリンの処理に困って、湖に流したら、彼女が現れて、パクリッ。で、そんなことを続けていたら、懐かれてね。名前付けたら、テイムしちゃって。で、こっちに戻ると話したら、ついてくることになって。最初は馬化してたんだ。で、従魔登録することになった。あのプレートはそのときのヤツ」
「なかなかに信じられぬお話ですな」
「だろう。自分でもいまだに信じられないよ。でも実在しているしね」
「わかりました。このことは、皆様、ご存知で?」
「うん。でも商業ギルドには、ケルピーで登録した。エッヘ・ウーシュカなんて言ったら、町中が大騒ぎになるだろう?」
「おそらく。では、今後、人に聞かれたならば、ケルピーと答えることにいたしましょう」
「頼むよ。あっ、ランドルフのことを教えておくよ」
「ランドルフ様、ですか?」
「彼は、S級冒険者なんだ。今はいないもうひとりもS級冒険者でね。ちょっと野暮用を頼んでいるんだ」
「S級冒険者がおふたりも」
「別々に活動していたんだけど、今回、一緒になった」
「なるほど」
「まぁ、宣伝するようなことじゃないけどね」
「ほかの方々は?」
「新人冒険者。ランドルフが先輩として、いろいろと教えているんだ」
「そういうことでしたか」
「オレは商人としては、駆け出しでね。行商をはじめるつもりだった。で、護衛に彼らを雇うことにしたのさ」
「? 失礼ですが、どうして、こちらに居を構えようと?」
「はじめは、冬のあいだを過ごす借家を考えていたんだ。でも、ちょっと状況が変化してね。で、ここを購入した。今後のことはわからないけどね。でも春になったら、旅に出るかもしれない、ここを拠点にね」
「なるほど」少し考えるセバスさん。「今のところの疑問はこんなところです」
「オレもだ。疑問があったら、いつでも聞いてくれて構わない。オレも聞くから」
「かしこまりました」
立ち上がり、一礼して、彼は出ていった。
ひとりになった執務室で、あの本を開いた。これは確かに知識の書だ。オレたちの世界の、という条件はあるが。
これをうまく運用するには、オレの持つ鑑定さんが必要だ。それだけではなく、各種の資源、特に人が必要になる。
もの集めに人集めか。大変だな。
本を閉じた。
今は、急ぎの問題はないのだ。
それで、良し、としよう。
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