134【食事会と知識の書】
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少し短いため、2話連続投稿します(2話目)
食事会は、彼らにとって、驚きの連続だったようだ。
それもそうだろう。マナミの料理は、美味しい、のひと言に尽きる。その調理方法もまた然り。同じく調理道具も。そして、材料も。
森で収穫した材料は、マナミの手によって、美味しさを増す。
セバスさんは、料理の美味さに感嘆。
ネイリンさんは、マナミに弟子入り。
ヤルダさんは、感涙の嵐(大げさ?)。
オレは、仲間たちを執務室に集めた。ウーちゃんはお風呂満喫中。セバスさんたちには、それぞれの仕事に戻ってもらって。
「さて、集まってもらったのは、ほかでもない」
オレは本棚から、例の本を手に取る。
「その本か」とランドルフ。「確か、知識の書、とか言ってたな」
「あぁ、ウソは言っていない。だが、彼らの前で、あえて言わなかったことがある」
「だと思った。で?」
「この本は、召喚でやってきた人間が、神様から授かったものだ」
「おまえが会った神様か」
「いや。違う神様だ。この本を開いた瞬間に、この本の記録が頭に流れ込んだ。その人物は、この世界に召喚される際に神様との会合を得た。彼は異世界召喚をよろこび、神様にこの本を願った。彼は知識チートを望んだんだ」
「知識チート!」と叫んだのは、エイジだ。
その反応に戸惑うランドルフ。
「なんだ?」
「簡単に言うとだ、勇者や賢者や魔法使いはそれぞれの力を得る。聖女も然り。だが、彼は、知識をください、と神様に頼んだ。知識があれば、この世界で大金持ちになれる、と考えたんだ」
「知識がお金になる?」
「オレでいけば、魔導具の知識があって、魔導具を作り、それを売ってお金を得る」
「あぁ、そういうことか」
「そう、そういうことを考えた。だが、そうはうまくいかなかった。なぜならこの本の知識は、オレたちの世界の知識だったからだ」
「あっ、そういうことですか」とエイジ。「この世界に当てはめることが難しかった」
「そう。それに加えて、技術水準の違いもある。簡単に言うと、ものを作り出すことが簡単ではなかったんだ。そうした能力は望んでいなかったからな。知識さえあれば、と勘違いしていたんだ。知識があっても技術がなければ、作り出すことができない。剣があってもスキルがなければ、剣聖にはなれない、というのと同じだよ」
「やっとわかった」とランドルフ。
「それに彼はこの本を扱えるほどの知識を持っていなかった。極端な話、本を読めないに等しい人間だったんだ」
「なんで、そんな人間を召喚したんだ?」
「そいつはオレと同じく、巻き込まれたんだ。で、神様としては、サービスしただけなんだよ。でも、こんな本をこの世界に無条件に出すわけにはいかない。そう考えた神様は条件を付けた。最初に言ったとおりにね」
「その人って、絶対にオレたちの時代の人間ですね」とエイジ。「そんなことを望むなんて。小説かマンガの読み過ぎですよ」
「さすがだな、エイジ。ちなみに、この本の知識の最新部分は、まさしくオレたちの時代のものだ」
「その知識」とキヨミ。「サブさんなら使えるんですよね?」
「さて、どうかな。参考にはなるだろうが、一部には絶対に使えない知識もある」
「どうして?」
「“パソコン”も“ネット”もないから」
「あっ」
「それから生物関連もほぼ使えない」
「どの程度まで使えますか?」とマナミ。
「なんとも。まず基礎技術の確立からはじめないと。それでもオレには鑑定さんもついているし、まぁ、なんとかなるでしょ」と最後は明るく言ってみる。
「最後の方はよくわからなかったが」とランドルフ。少しおどけるように。「サブならなんとかするだろう」と言って、ニカッと笑む。
「そうですね」とハルキも。「ないなら、ないなりに、なんとかなるでしょ」こちらもニカッと笑む。
「まぁ、そういうことだな」とオレもニカッと笑む。
「ところで」とエイジ。「その人、その後は?」
「記録によると、大成はできなかったようだ」
「でしょうね」
「だが、その孫が頑張った。幼いころから、彼にこの本の話を聞いていて、質問しまくったらしい。孫が可愛いものだから、祖父としてはうれしくて、本を調べて、いろいろ教えた。まぁ、孫が成人する前に死んだみたいだな」
「あれっ? 本の継承はしなかったんですか?」
「できなかったんだ。神様の条件付けでな。継承権があるのは、異世界人だけなんだ」
「そういうことですか」
「どうやら、誰も活用できずに、ここに来たらしい」
「そして、サブさんと出会った」
「まぁ、そんなところだな。ちなみにこれもテンプレだと思うが、この本を与えられた人の苗字は、エチゴヤ、だそうだ」
吹き出したのは、エイジとキヨミ。
で、立ち上がったのは、ランドルフ。
「おいおい、エチゴヤといえば、商業ギルドの開祖だぞ」
おっ、新たな事実?
「ん? どういうこと?」
「詳しくは知らん。以前に商業ギルドからの依頼を受けた際に聞いたんだ。商業ギルドが国を越えて活動するようになったのは、初代がなしたことだと」
「へぇ」
「それからな、冒険者ギルドも商業ギルドから発展したんだ」
「ん?」
「冒険者といっても薬草採取、狩人にはじまって、探索や討伐、護衛任務なんかだろ」
うなずく。
「当時は、バラバラで活動していた。同じものを買い取ってもらっても、バラバラな金額だった。そこに商業ギルドが来て、買い取りもする。支払われる金額はほぼ一定になったんだ。やがて、商業ギルドの業務を圧迫するようになって、冒険者ギルドが設立されたんだよ」
「なるほど。わかりやすいな」
「ああ。その開祖がエチゴヤだ」
「なるほどな。道理で似たような魔導具を使っていたわけだ。組織の構造も似ているしな」
「そういうことだな」
「まぁ、いい。この本は、必要ならば使う。だが、基本的には今までどおりでいこうと思う。どうかな?」
全員がうなずく。
「ほかに何かあるかな?」
「ひとつ」とマナミ。「セバスさんたち、屋根裏部屋で生活していると言ってましたよね」
「うん」
「空いている部屋に移ってもらいませんか? 部屋もありますし、ご高齢で昇り降りも大変だと」
「そうだな」
「たぶん」とランドルフ。「難しいと思うぞ。長年やってきたんだ。それを変更されるのは、心情的にどうなんだ?」
「ふむ……とりあえず、要相談だな」
それで会議を終えた。
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